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無未河 大智/TTjr
無未河 大智/TTjr
novelistID. 26082
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D.C.IIISS ~ダ・カーポIIISS~

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Extra After da capo:Lover's time 手に入れたもの



 風見鶏卒業から百年程度。
 俺は変わらず初音島での生活を続けていた。
 変わったことと言えば……そうだな。
 数年前、清隆とリッカの子が死んだ。さらに言えば、五十年ほど前にリッカと清隆がこの世から去った。
 別に人の死に慣れている訳ではない。もちろんエリーの時もリッカと清隆の時もその子供達の時も、俺は悲しみに暮れた。
 だが俺ももうじき三百五十歳。それだけ生きていれば、人の死などいくつも見てきている。
 しかしあの時ほどの悲しみを感じなかったのは事実だ。
 薄情という訳ではないと思いたい。
 やはり、と言われればそれまでなのだが一人というものは、一度誰かと過ごした時間を考えると些か寂しいものだ。一人で生きると一度は決めたはずなのに、どうしたものなのだろうか。
 ……そんなもの、頭では分かっている。今は亡きあの少女の存在が、俺の中で未だに大きく異彩を放っていると、そういうことなのだろう。



   ◆   ◆   ◆



 そこまで日記に記したところで、俺はペンを置いた。
 俺は少しため息を吐くと上を見上げた。そこにはピンク色をした綺麗な桜が見事に咲き誇っていた。
 枯れない桜。かつてそう呼ばれた奇跡の桜。俺の友人が願い、また別の友人が完成させた枯れない"はず"の桜。
 人の思いを叶える力を持つそれは幾度となく暴走し、最終的には普通の桜と変わらない存在になってしまった。
 その中の一つ。桜公園にずらりと並ぶ桜、その円の中央に一本だけぽつりと立つ一番大きな桜の木。そこが俺のお気に入りの場所だった。腰をかけて読書をしたり作業をするにはちょうどよく、度々ここを訪れては思いに耽っていた。
 その桜が咲き誇るということ。それが示すことはすなわち―。
「……春……か……」
 春の季節の訪れ。春は出会いの季節。と同時に春は別れの季節。
 幾度となく訪れたその季節。俺は春と聞くと、別れの季節だと実感するようになっていた。
「……やっぱり、まだ慣れないな……」
 俺はまだあの少女の事を忘れることは出来なかった。俺を唯一愛し、また俺が唯一愛した少女。カレン・アルペジスタの事を―。
 刹那、強い風が吹きはじめた。その風は桜の木を揺らしその多くの花弁を散らせた。舞う花びら達は、さながら春に降る雪のようだ。
「……さて、行くか」
 俺は日記を閉じてメガネを外し、それらを鞄に仕舞うと立ち上がった。そして桜を一瞥してその場を立ち去った。





 公園にある噴水の近くまで来ると、見馴れた金髪の少女がそこにいた。その少女は俺を見つけると、すぐに俺の元へと駆け寄ってきた。
「ユーリ、久しぶり!」
「ああ、久しぶりだなさくら」
 芳野さくら。それがこの少女の名前だ。風見学園学園長であり俺の友人、葛木清隆とリッカ・グリーンウッドの孫娘。最近は短かった髪を長く延ばしており、個人的にはすごく似合っていると思う。また以前この時間から消えて帰ってきた時から加齢を抑制する魔法を解除しており、少し大人びて感じる気がする。だが話ぶりは変わっておらず、少し違和感を感じたりする。
「もしかして、桜を見に来てたの?」
「ああ。いつもみたいにな」
 するとさくらは少し笑顔になり、俺にこう告げた。
「じゃあいつもみたいに本でも読んでたんでしょ?」
「……まあ、似たようなもんだ」
「それじゃあ、ボクの家に来ない?」
「……今の話のどこにおまえの家に誘われる理由がある?」
 俺は眉間にシワを寄せてさくらに聞いた。
「だってまだ寒いでしょ?だからユーリも寒かったかなって思って」
 なるほど、そういうことか。つまりちょっと寄って暖まって行けってことか。
「まあ、この後は特に予定も無いし、いいぞ」
「本当に?じゃあ行こ!」
 さくらは俺の手を引き走り出した。
「お、おい!そんなに急がなくても―」
「善は急げだよ、ね?」
 俺の制止を聞かずさくらは走りつづける。市外地を抜け、路地に入ると見知った家に辿り着いた。
 ここがさくらの家。正確には、リッカと清隆が生前住んでいた家だ。その隣は俺の家であり、これも百年ほど前から建っている家だ。
 俺は玄関に足を踏み入れると、この国の作法に習って靴を脱ぎ、中へと入った。そしてすぐにさくらによって客間へと案内された。
「ちょっと待っててね。お茶を入れてくるから」
 一人で住むには些か広いであろうこの家に招かれるのは数度の事ではない。それこそリッカや清隆が生きていた頃はほぼ毎日のように招かれていたものだ。しかし最近はほとんど来ていなかった。今回来るのは何年ぶりだろうか。
 そう考えながら俺は出された座布団の上に座ると、懐かしむように辺りを見渡した。
 そうこうしているうちにさくらがお盆に二つお茶を載せてやって来た。そのお茶を片方俺の前に出すと、俺の目の前に座りお茶を啜りだした。
 俺も同じように出された緑茶を飲む。この国の緑茶というものは、最初こそは苦いと感じていたものの今では他の紅茶やコーヒーとは変わらないように飲める。
 そうしてお茶を未だに現役であるこたつの上に置くと、俺は口を開いた。
「……変わらないな、この家も」
「うん。おばあちゃん達が住んでる頃から何も変わってないよ。これは僕の我が儘だけど、いつかリッカや清隆が転成してこっちに来た時に驚かせるのが夢なんだ」
 なるほどな。そういえばさくらが戻ってきた時にこんな事を言っていた。
『僕、若い頃のおばあちゃんとおじいちゃんに会ってきたよ』
 話を聞くとどうやら枯れない桜に取り込まれた後、百年ほど前のロンドンに飛ばされ、そこで任務中のリッカと清隆に発見され、風見鶏で保護されたという。
 言われてみると、ループ中に俺が風見鶏に戻った時には金髪の幼い少女が居た。その娘はさくらと呼ばれ皆から可愛がられていた。俺にはその様子を微笑ましく見守っていたという記憶が微かに残っている。
 ループが解除されてから戻った時にはさくらはおらず、誰に聞いてもそのような少女は居ないという返答しか返って来なかった。ただ一人、陽ノ本葵という少女を除いて。
 どうやら葵は、カテゴリー5の俺に隠し事をしても無駄だと考えて正直に話したらしい。その時に<永遠に訪れない五月祭>の詳細についても知った。俺はその時葵に説教をしたが、それは今は関係ない話だ。
 今さくらからこの話を振られて思い出したことだが、百年前は色々な事があったと実感できる。その中には当然カレンの事も―。
 いや、今はそれこそ関係ない話だ。俺は一度頭を振って思い出しかけた事を頭の外へ出した。
「どうしたの?」
 結果、さくらに余計な疑問を持たせてしまった。
「いや、なんでもない。しかし、そんなに都合よく思い出すものか?」
 俺は今起こったことから話を逸らした。さくらは特に気にせずに話に乗った。
「多分大丈夫。おばあちゃんがやったんだと思うけど、実は枯れない桜に仕掛けがしてあるんだよ」