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無未河 大智/TTjr
無未河 大智/TTjr
novelistID. 26082
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D.C.IIISS ~ダ・カーポIIISS~

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 それは俺も理解していた。一度枯れた後の桜に触れた時、中から少しだけ思いの力を感じたからだ。その中に込められたモノを読み取ろうと魔法を行使したが、思いの力が弱くそれを読むことは叶わず。どうやら特定の人間に反応して起動する魔法らしく、その対象に俺は含まれて居ないという事の様だった。
「なるほど。あれはリッカがやった物か」
 さくらはコクンと頷き、話を続けた。
「あれは、僕のための魔法なんだよ。リッカが僕にもう一度会うためにかけた、過去と未来を繋ぐ魔法」
 ……珍しいな。ロンドンにいた時は知らないが、過去に一度たりともさくらはリッカの事を"リッカ"と呼んだことはなかった。尊敬するおばあちゃんだ、というのはさくらがいつも言っていたため窺い知れる。
 しかしさくらがそう呼ぶということは。
「何か思うところでもあるのか?」
 さくらは再びコクンと頷いた。
「また会えるのは嬉しいよ。だけれど、本当に会えるのかなって」
 ……まあ、そうだよな。実際俺もカレンに本当に会えるのか、なんてよく考える。
 だけど。
「だけどさ、それって信じなきゃ何も始まらないだろ?」
 ……きっと清隆ならこう言うだろう。
 俺がそう告げると、さくらははっとした顔でこちらを見つめた。そしてすぐに微笑み、いつもの笑顔を取り戻した。
「そうだよね。僕がこんなのじゃ、叶うものも叶わないよね」
「その通りだ」
 俺が頷くとさくらは手を叩いて話を転換させた。
「よしっ、この話は終わり!あっ、そういえばユーリ、最近の調子はどう?」
「唐突だな……。まあいいけどさ」
 俺はお茶を少しだけ飲み、さくらの質問に答えた。
「そうだな……。最近はいい感じだと思うよ」
 実は俺は、転校して来た生徒として風見学園に通っている。入学した理由なのだが、手に職を付けて居ないのはどうなのかとさくらに一度相談に行った際に『じゃあ、僕の学園に通えばいいよ!』と言われ、また俺も悪くないと考えたからだ。その後面倒な手続きをさくらが全てでっちあげ、さくらの知り合いの帰国子女『的場 有理』として昨年から通っている。……余談だが、今年本校2年生へと進級した時に付属校に新入生として巴のそっくりさんが入学して来た時は驚いた。
「しかしお前に最初言われた時も思ったが、この歳になってまた学生をやるとはな」
「あはは、ユーリがそれを言うと重みが違うよー」
 笑ってはいるが、言葉が妙に刺さる。いや、確かに俺が言ったんだけどさ。
 俺は笑うも、心の奥底では笑えなかった。
 ちなみに風見学園を卒業した後は本土の大学に通って教員になるつもりだ。そして初音島に戻って来て風見学園で教師をしつつカレンを待つとも決めた。
 それをさくらに話した時、うんうんと頷かれ頭を撫でられた。……どうやら俺の中に渦巻く感情を全て読まれてしまったらしい。
「まあでも、元気そうでよかったよ、ユーリ」
「お前こそ」
 俺は机の向こう側に座るさくらの頭を撫でると、立ち上がった。
「そろそろ行くわ。ちょうど行きたいところもあったし」
「そっか。ありがとう。また来てね」
 さくらも立ち上がると、玄関へと向かう俺について来て、見送りをしてくれた。
「ああ。また近いうちにな」
 俺はそれだけ言い残すとさくらの家を後にし、俺の家とは真逆の方向へと向かった。
 途中、青果店でバナナを買ってから再び歩き出す。
 そして歩くこと数十分、目的地に辿り着いた。俺はその建物のインターホンを鳴らし、中へと入った。
「おーっす美夏、元気か?」
 俺はある少女の名を呼ぶ。呼ぶと少女はすぐに出てきた。
「おおっ、ユーリ、久しぶりだな!」
 ここは天枷探偵事務所。そして彼女は所長の天枷美夏。些か信じ難いが彼女は精巧なロボットだ。ただバナナミンという謎の成分が必要らしく、ここへ来るときはこうしてバナナを差し入れに持って行くのだ。
「ほら、差し入れだ」
 俺は美夏に買ってきたバナナを渡した。
「うむ、いつもすまないなユーリ」
 彼女は嬉々としてバナナを受け取る。その姿だけを見れば立派な少女だ。ただ五十年ほど前から存在している事を抜きにすれば。
「……なにか変な事を考えたか?」
「いいや、気のせいじゃないか?」
 俺は首を振って美夏の疑惑の目を避けた。
 辺りを見渡すが、どうやらほか二人の所員は居ないらしい。ただし……。
「まあ、よいではないですか。彼は昔からこういう人物なのですから。なあ、スタヴフィード殿」
 この男、杉並を除けば。
 ただ邪険には出来ない。彼こそが、数年前この天枷探偵事務所を紹介してくれた人物なのだ。それ以来、月に一回程度ここを訪れるようになっていた。
「うるせぇよ」
 ……そういえば風見鶏にいた時にも容姿と名前が同じ男がいたな。ずいぶん前にその事を聞いたのだが、何やら意味深な含み笑いをされてはぐらかされてしまった。本当のところはどうなんだろうな、こいつは。
「まあ、それは知っているがな。ところでユーリ、今日はどうして来たんだ?」
「ああ、そうだ。忘れるところだった」
 俺は鞄からあるものを取り出した。それはハードカバーの本だった。所々に付箋が貼ってあり、その付箋には俺の字が書き込まれている。
「ほら、解読してきたけど、悪用はするなよ」
 俺はそれを杉並に手渡した。杉並は眉間にシワを寄せて反論を寄越してきた。
「そんなことするものか。読み方のヒントとして製本し非公式新聞部で保管しておくだけだ」
「前にも聞いたよそれ。まあ、お前だから信じられるんだがな」
 以前の系譜を次ぐと思われる非公式新聞部。そこに杉並は所属し、所謂"オカルト"と呼ばれる類の研究などをやっているらしい。
 "思われる"、"らしい"というのは、俺がロンドンを離れた時と同時に非公式新聞部を脱退しているからだ。これはエリーの勧めだった。エリーいわく『今までユーリさんは色々根詰めすぎです。なのでもう非公式新聞部での仕事をお止めになっては?』とのことだ。実際それが俺の負担になっていたのは事実だ。
 それもあり、必要なときの手伝いを除き非公式新聞部との繋がりをすっぱり断ち切っていた。だがこうして、年に一度くらいの頻度で杉並から依頼が来たりする。それもあまり面倒ではない物ばかりであり、それなりに報酬ももらえるので快く引き受けてはいるが。
「なるほど」
 その様子を見ていた美夏が、どこかに解説するような口調で話し始めた。
「杉並はユーリに魔導書の解読を依頼し、ユーリは解読したそれを杉並に渡すため、ここに来たと」
「流石、探偵っぽい」
 俺は杉並から報酬を貰い、美夏を茶化した。
「"ぽい"ではない!美夏は探偵だ!」
 大きな声を出し過ぎたのか、美夏は一つ咳ばらいをして声のトーンを戻して話を続けた。
「杉並にそれを渡すくらいのことならば、別にここを使う必要はなかったのに」
 最もな意見だ。しかし俺はそれに反論した。
「まあ、中身が中身だからな。誰かに見られでもしたらヤバイ。それだったら、魔法関係に理解のある美夏のところで受け渡しをしたほうがいい」
「そういうことだ」
 最後に杉並の同意を付け加えて反論終了。それを聞き、ぐうの音も出ない美夏が搾り出したのは質問だった。