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たもつやまだ
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novelistID. 5304
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彼女がくれたもの

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 入院生活という物はとても暇な物で、例え症状が軽かったとしても、それには到底勝てそうにない。
 どんなに病に倒れようとも、暇を持て余しまうのが入院生活なのだ。
 そして今の私でさえ、それに勝てるとは思っていなかった。
「こんな時、誰かが来てくれれば……」
 なんて弱気な台詞を吐いてしまうのは病から故なのか、それとも私が弱いだけなのだろうか。
 こんな日に限って順は病院に来ない。まあそれはそうだ。私は病人だけれど、彼女は健康な一学生なのだから。ましてや寮生。なかなか外に出てどうこうできるとは思っていない。
 第一、用が無いなら来るな、と言ったのも私なのだけれど。
 それなのに視線のどこかで順の姿を追いかけてしまっているのは、知らず知らずの内に順に相当依存しているからなのだろうか。
 きっと“この暇な時間から救ってくれる”そう考えている私自身の甘えなのだろうか。
 いけないいけない。このままでは私はそれこそ順がいないと生きていけない体になってしまう。
 ここはちゃんと順がいなくても生きて行けるという事を証明しなければいけない。
 そうだ。そうなのだ。
 しかし暇なものは暇なのだ。
 仕方が無いので、順が置いていった小説でも読むかと、サイドボードにしまってある本に手を伸ばす。
 順には、漫画や写真集の類は持ってくるな、ときつく言っておいたので、渋々ながらも活字の本を持ってこさせた。しかしながら順の事だ、まあまともな物を持ってくるとはずもなく、いかがわしい本の数々を──なんて思っていたのだが、意外や意外、ちゃんとした本を持ってきてくれていたのだ。
 ちょっと表紙が少女漫画の様な物なのが気になる所だけれど、これも順なりに私に難しい本で脳を疲労させるより、楽な気分で読ませてあげようと気を使ってくれているのだろうか。
 いつも頭の中がピンク色した筋金入りのバカだと思っていたけれど、なかなか良い所もあるじゃない。なんて少し見直してみたりする訳で。
 最初は、何だか微妙、なんて思いながら、暇を潰す為だけに読んでいたこの本も、次第に二冊、三冊、と数を重ねていく内に、段段とその面白さが増していくのが解る。
「女子高……」
 その小説の舞台は女子高で行われる物だった。そして私達の通っている天地学園も女子校であったりする訳なのだが。
 どことなく似ているその物語の舞台に自分達を重ねてみる。私達の通う天地の剣待生という者に限られて行う事ができる刃友と言う制度も、どこかこの物語に共通する物の様に見えるのだ。
「お姉さま…… か」
 物語の主人公達は、心の通った先輩の事を、お姉さま、と呼んでいた。
 順がお姉さま? まさか。そんな事考えられない。確かに順は私よりも二日程生まれた日が早い。故に姉、と言う事もできるだろう。
 実際、順は私と半分は同じ血を持った姉妹と言っても過言では無い。
 いつもは忌まわしく感じる自分の中に流れる血が、今となってはそれで良かったと思う。順と一緒で良かった、半分は順と一緒なんだ、そう考えると、私はどこか嬉しく、そして誇らしげに感じる事ができる。
 順は何かと昔から私の事を気にかけてくれた。そういう意味では私は順の事を姉の様に慕い、そして共に歩んできた。
 私が挫けそうな時も順は、傍にいてくれたのだ。
 そして私が、静馬の人間よりも信頼を置いている人間でもあった。
 順はいま何をしているだろうか。
 相変わらず学校でバカな事を言って綾那に平手を貰っている頃だろうか。
 つい先日までの事なのに、もう何年も前の事の様に感じる。
 早く、早くあの輪の中に加わりたい。こんな体を克服して、早くあの場所へと帰りたい。そう渇望するのは、ごく自然な流れなのだろう。
 そんな事に思いを馳せていると──

 ゴンゴン

 少しだけ乱暴にドアを叩く音が聞こえた。
 順の物とは違うその音に私は驚いて飛び上がり、少しだけ裏返った声で、ひゃい、と答えると、ドアが開いた。
 そこには私よりも背の高い、丁度順と同じ位はあるだろう人物がそこに立っていた。
「綾那?」
 順とは違う長い髪。順は色素の薄い、こげ茶色の様な髪に対し、綾那は海底のように深い色をした青に近い色──そう、確か亜麻色というんだっけ。
「た、たまたま近くを通りかかって、そういえばここに夕歩が入院してる事を偶然思い出して……」
 何やら綾那がうろたえている。これではまるで、好きな人を目の前にした男子中学生みたいではないか。
「い、いや、本当さ。私はこの近くのゲーム屋に発売日の二日前に店頭に並ぶフラゲの店があってだな……」
 聞いてもいない事をぺらぺらとしゃべり始める綾那。何が彼女をそうさせているのだろうか。
「くすくす……どうしたの綾那? なんか変だよ」
 思わず私は口から笑いがこぼれてしまった。いつもと違う綾那がどうにも可愛らしくてたまらなかったのだ。
「い、いや、どうにも見舞いという物に慣れなくて……」
 照れくさそうに頭を掻く綾那は、いつもと違う一面を見せられた気がする。順はこういう一面を見た事があるのだろうか。だとしたら少しだけ同じ感覚を共有できたみたいで嬉しい。
 私はベッドの近くにあった椅子に座る様に勧めた。
 綾那はまだ照れくさかったのか、少しだけ控えめに、椅子に浅く座った。
「あ、これ。何買ってきていいか解らなかったから、とりあえず暇つぶし用にと思って……」
 そう言うと、綾那は持っていた紙袋の内一つを私に差し出してきた。
「ありがとう……」
 何だかこういう事が嬉しい。やはり持つべき物は友人なのだと思った。
「開けても?」
「うん。正直私は何を買っていいか解らなくてさ」
 解らなくて、という言葉に少しだけ反応してしまったが、私は少しだけ戸惑いながら紙袋を開けた。
 そしてそこに入っていたのは──

『怪奇! 心霊病棟 〜私はいつでも貴方の側に〜』

「……綾那」
「ん?」
「これを選んだのは、綾那?」
「いや順が、夕歩はこういうのが好きだから、と」
 やっぱり。
 わざわざこんな事をするのはあのバカしかいないだろう。
 私の気持ちを知っていながら、わざわざこういう事をするのは順しかいない。
 このテの心霊系ホラーが嫌いだと言っているのにも関わらず、それをわざわざ綾那に買ってこさせるなんて手の込んだ事をするなんて。
「あ、ごめん…… 苦手だった?」
 私は怒りでどうにかなってしまいそうだった。が、ひきつる顔をなんとか抑えつつ、できる限り冷静な声で言った。
「綾那……」
「なに?」
「順の事殴っていいから。平手じゃなくて拳で。何発でも」
「大体把握した」
 私がそそくさとその本を紙袋の中に戻すと、綾那はそっともう一つの紙袋を私に差し出した。
「そんな事なんじゃないかと思って、私が選んだ物も持ってきたよ」
「本当に?」
「ああ。気に入るかどうかは解らないけれど」
 綾那が選んだ物なら、少なくともホラー系の物では無い事は確かだろう。
 実際、一度最悪な物を見せられただけあって、正直ある程度のものなら許容できそうな気がした。 それが順の選んだいかがわしい本であっても。
「……これは、本当に綾那が選んだの?」
「うん。そうだけど?」
作品名:彼女がくれたもの 作家名:たもつやまだ