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黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 20

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第70章 悪魔の宴


 大悪魔デュラハンが再臨して、ついに一ヶ月の時が経った。
 デュラハンが発生させた、ウェイアード全域を包む瘴気は、その濃度を増しており、人の心に作用するそれは最早、常人には耐えきれぬ物になり、世界は混沌に包まれていた。
 アネモスの巫女、シバの約三週間にも及ぶ月経も治まり、神を受容しうる器となった。後は石板に封じたイリスと融合させ、その血肉を得ることにより、デュラハンの計画は成就せんとしていた。
 しかし、神と人を融合させるには相当のエネルギーが必要とされた。
 そのエネルギーは、何も清く、聖なる物である必要性はない。巨大であればそれでいい、言い換えれば、邪悪なる力でも十分その役目は果たすことができるのだ。
 デュラハンは計画を最終段階に進めるべく、アネモス神殿最奥の玉座の間にしもべを集め、今後の動きを如何にするか話し合っていた。
「さて、諸君……」
 玉座に座すデュラハンが、どす黒い声を発する。
「我が計画は、間もなく完全なものとなる。我は魔王となり、世界を暗黒に染め上げ、人間どもを滅ぼし、我ら魔族の楽園を築く……」
 デュラハンの側に、まるで飼い猫のように寄り添うシレーネは感嘆の声を上げる。
「ああ……! 何というすばらしき世界。考えただけで、このシレーネの心に、我が身を焼き尽くさんとする炎、盛ります」
 デュラハンは身をすり寄せてくるシレーネの喉元を、まさに猫にそうするように、撫でた。
「俺様達の住みやすい世界かぁ。楽しみですねぇ、デュラハン様」
 シレーネ程でないにしろ、バルログもまた、来る魔族だけが住む世界を想像し、気色を浮かべた。
 計画の遂行の暁に待ち受ける、暗黒の世界にを目前にして、期待に心躍らせる三人とは対称的に、その場には暗黒世界など求めぬ男が二人いた。
 その一人はセンチネルである。
 デュラハンへの復讐を誓う彼には、ウェイアードが、そしてそこに住まう者の命などどうでもよかった。
 センチネルは地上の人々に与えられた、余命ともいえる一ヶ月の猶予期間中、休むことなく修行に明け暮れていた。
「ふん、くだらん……」
 センチネルの欲する物は、デュラハンの命ただ一つ。それさえ手に入ってしまえば、後は世界がどうなろうと知ったことではない。
 そんな彼と、目標は同じにしながらも、世界を暗黒にされては困る者が、アレクスである。
 三年前偶然に、封印されていたシレーネに出会い、錬金術解放のため協力して様々な策を弄し、解放一歩手前で想定外のことが起きてしまった。
 それはエレメンタルスターに、何者かによって細工を施され、錬金術が完全には解放されないといったものである。
 その問題を、根底から覆す方法が大悪魔デュラハンを現世に召喚し、その魔の力によって、エレメンタルスターを暗黒の物にする事だった。
 さらに降りかかった問題を振り払うには、デュラハンそのものを消し去ってしまうことである。そのためにアレクスは、デュラハンを上手く言いくるめ、シバの不浄の時を延ばすための薬まで調合した。
 全ては、デュラハンを倒しうる者が、短い期間ながらも現れることを願って行ってきたことである。
「さあ、計画の実行といこう。……と言いたいところだが、まずは、我を裏切らんとする愚か者に処断を下さねばならん……」
 突如として、デュラハンは裏切り者の存在を明かした。センチネルとアレクスを除く二人は、驚きを表に出していた。しかし、アレクスは、表面に出さないだけで、心の中ではまさか、と思っていた。
「裏切り者は、二人……」
 デュラハンは言う。
「我が君の命を狙うなど、不届き千万にございます。しかし、一人はセンチネルだとして、もう一人は一体……?」
 不意に、デュラハンはシレーネのローブの襟を掴み、力ずくでローブを引き裂いた。シレーネの一糸纏わぬ裸体が露わとなる。
 シレーネは、自分が何をされたのか分からないまま固まっていた。
「……我が君? 一体何を……?」
 デュラハンは続けざまにシレーネの顎先を掴み、乱暴に自らへと引き寄せる。
「語弊があったな、シレーネ。貴様を含めれば、裏切り者は三人だ」
「そんな……! 私はデュラハン様に身も心も捧げる者! あなた様を裏切るような事、一切しておりませんし、するつもりもございません!」
「ふっ……!」
 デュラハンはシレーネから手を離す。シレーネは突然のことが重なり、驚くあまりに、自らの風体など気にかける間もなく、その場に座り込んだ。
 デュラハンは玉座から立ち上がり、剣を抜きはなって切っ先をシレーネへと向ける。
「本来ならば、この場で斬り捨てる所だが、貴様にはまだやってもらわなければならん事がある。それを成し遂げる事で我への忠誠を示せ。然らば、貴様の裏切りは不問にしてやろう」
 シレーネは恐怖のあまりに震え上がり、何も口にできずにいた。
「……さて、その裏切り者だが」
 デュラハンはバルログの方を向いた。バルログはびくり、と驚きを露わにして弁解を始めた。
「そ、そんな、デュラハン様! 俺様、デュラハン様を裏切るなんてこれっぽっちも……!」
「黙れ獣が、貴様が我をたばかれるはずがなかろう」
 デュラハンはバルログに近寄ると、どけっ、と乱暴に振り払った。そしてデュラハンは、バルログの後ろに立っていた男と対面する。
「……アレクス」
 デュラハンはその男の名を、呼んだ。
「私が裏切り者、と仰るのですか?」
 アレクスは、自らの計画が発覚した可能性に、内心驚きながらも、表面上にはどうにか出さずにいた。
「そうだ、貴様、我を言葉巧みに騙したつもりでいたであろう? 隠しおおせるとでも思ったか」
 デュラハンは言う。
 デュラハンを魔王という、魔界を統べる者に、アレクスは仕立て上げ、その上王たる者はどのような存在であれ、寛大さが必要などと宣っていた。
 その寛大さを示す行為は、ウェイアードの人間達に残り一月の生きる猶予を与えることであった。それは同時に、日に日に迫る滅亡の恐怖を人間に与え、怯え狂う人間を殺す余興にもなり得た。
 しかし、例え一月といえども、その期間中に、センチネルのようなデュラハンの命を狙う者に、僅かばかりでも力を付ける時を与えることにもなった。
「一月だけで我を凌ぐ者がいるはずはない。だが、貴様ならば我を消すべくこの様な策を弄するのではないか? 貴様にとって、このデュラハンは邪魔そのものであろうからな」
 アレクスの考えは完全に読まれていた。それでもアレクスは、背筋に冷や汗を感じながらも冷静に当たる。
「……確かに、デュラハン様の言うことも一理あります。私は人間でありながら、人間を滅しようとしている異端者ですからね。しかし、私にはデュラハン様を消す理由がありません。私が望むのは、貴方様に王になっていただき、私を迫害した人間どもを残さず消すことですから」
 アレクスの釈明を聞きながら、デュラハンは静かに笑っていた。
「ふははは……、あくまで言い逃れようと言うのか。では更に聞こう。貴様の目的が人間駆逐であるならば、なぜ我が計画を引き延ばそうとした?」
「それは、貴方様の威光を人間どもに知らしめるための……」
 少しずつ、アレクスは追いつめられていくのを感じた。