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黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 20

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「どうした、目が泳ぎ始めておるぞ? まあよい。死に、消え行く者共に我が威光など示したところで無駄なこと、そうは思わぬか? アレクス……」
「っ……!」
 アレクスはとうとう黙してしまった。焦りの感情も完全に顔に表れていた。
 デュラハンの追求は続く。
「その上、我が世界滅亡の宣告をしたことで、自ら命を絶つ者が相次ぐようになった。恐怖を与え、人間どもに消えてもらうのに、これでは元も子もなかろう?」
 しかし、アレクスは一度口を閉ざしながらも、まだ言い逃れられる道を探そうとする。
「しかしデュラハン様、貴方様はアネモスの巫女を介して、イリスと融合することが目的であったではないですか。アネモスの巫女は、一月もの間不浄の時でした。融合の媒体にするには、彼女が純潔であることが必要にございます。私が世界の命運を引き延ばす理由はありませんし、何より、私にはデュラハンを妨害していたという証拠がありません」
 デュラハンはまた、不適な笑い声を上げる。
「ははは……、今度は証拠がないと宣うか! ならば示してくれよう、決定的な証拠をな!」
 デュラハンは空間から何かをエナジーで出現させた。それは折り込んだ紙に包まれたもの。
「そ、それは……!」
 紙の中には、薬が入っている。これがアレクスが裏切り者であるという、動かぬ証拠となった。
 アレクスは実の所、デュラハンが一月もの時間を、決して待ってはくれないであろうと思っていた。
 故に一つ、保険をかけていた。
 デュラハンに否が応でも、一ヶ月大人しくしてもらうため、その間中イリスとの融合ができぬように仕向けていた。
 それは、アネモスの巫女、シバの不浄の時、つまり月経を一ヶ月も続けさせるというものだった。
 そして今、デュラハンが手にしているものこそが、シバの月経をめちゃくちゃなものにするため、アレクスが密かに調合した薬である。
「シレーネに聞いたことがある。人間の女の不浄の時は、一週間で終わる、とな。しかし、どうしたことか、アネモスの巫女の不浄の時はいつまでも終わらない。我は不審に思い、シレーネに貴様を探らせた。すると案の定、貴様は妙なことを企んでいた。体も女に変化させてまでなぁ!」
 バルログは驚いた。
「アレリアって、アレクス、お前だったのかぁ!? 完全に女の匂いしかしなかったのに、まさかアレクス、お前本当は女だったのか?」
 バルログやシバの目は完全に誤魔化せていたようだが、デュラハンにはばれていた。
 シレーネには、アレクス自身がアネモスの巫女と面識があり、都合が悪くなると言い、素性を隠すためにも彼女の侍女として振る舞うことにしていた。
 こうした事情から、アレリアがアレクスの変身した姿であることは、シレーネにしか知られていない事のはずであった。
 シレーネによる密告により、アレクスの計画は、全て頓挫してしまった。
「たかが人間ごときに我が後れを取るようなことはない。だが、シレーネよ、貴様が妙な人間を連れていたせいで、しかも貴様の得意とする魔術まで仕込んだおかげで、我が計画成就までよけいな時間が掛かることになってしまった。故に貴様も同罪だ。だが、さっきも言った通り、貴様にはまだやってもらうことがある。その命、絶やさずにおいてやる……」
 デュラハンは剣の切っ先をアレクスに向ける。
「最期に言いたいことがあるのならば、聞いてやる……」
 最早逃げる道もなくなったアレクスは、デュラハンの座していた玉座の傍らに裸で崩れている、シレーネを睨み付けた。
「シレーネ、この雌狐が! 私の、唯一無二の神になる計画をよくも……!」
 デュラハンは高笑いする。
「ふははは……! 憎かろう、無念であろう。自らの師によって、貴様のその目的は潰えるのだからな!」
「まだ私は死ぬわけにはいかない! デュラハン、貴様の野望、上手く行くと思うな!」
 アレクスは、今や憎き存在となった、シレーネから授かった魔術により、その場から離脱しようとした。
「逃がさん!」
 アレクスの体が水泡に変わろうとした瞬間、剣を振るった。
「ぐはっ……! バカ……な……!」
 アレクスは上半身と下半身、そして首を真っ二つに切り裂かれ、上半身は切り口から血を垂れ流し、内蔵も落としながら前に、下半身は大量の鮮血を噴き上げながら後ろに倒れた。
 首はデュラハンの側に飛び、転がっていった。やがて止まったそれは、目を大きく見開き、自らに訪れた死を理解していないようである。
「ふん、愚かなものよ……」
 デュラハンは剣を納め、首を踏みつぶした。血が混じった白い脳が、辺りに飛散する。
「バルログ、そやつの死体は貴様が処理しろ」
 バルログはびくっ、とした。
「ど、どうして俺様なんでさぁ!? こんな汚いもの触りたくないですよ!」
「黙れ、言うことが聞けぬなら、貴様もこの愚か者と同じようにしてやっても構わぬのだぞ?」
「げげ! もう、分かりましたよ。片付けますよう……」
 バルログは、眉をひそめながら渋々、惨殺体となったアレクスの死体を片付け始めた。
「シレーネ、貴様もいつまでも呆けるな。着替えを済ませてから神殿の広間に来るのだ。センチネル、貴様は……」
 センチネルは腕組みをし、壁に寄り添っていた。しかし、壁から身を離すと、玉座の間を去ろうとする。
「どこへ行く?」
「……貴様に指図されるまでもない。悪魔の宴とやらの準備であろう? それに、いつまでも貴様と同じ空気は吸っていたくないのでな……」
 センチネルはデュラハンに背を向けたまま答えると、今度こそ去っていこうとした。
 デュラハンはセンチネルの背に向かって手をかざす。
「ぐおっ……!? くっ、デュラハン、貴様……!」
 デュラハンの手と、センチネルの鉄仮面が呼応するように輝くと、センチネルに脳を鷲掴みされているかのような、強力な痛みが頭を走った。
「センチネルよ、そろそろ諦めてはどうだ? 我の命を狙うなどという、愚かしい目論見は。貴様に枷がある限り、生かすも殺すも我が意思次第だ」
 デュラハンは手を下ろし、奇妙な輝きを消した。同時に、センチネルを襲う激痛も治まる。
「故に、なめた口を利くのはもう止めろ。貴様はかつて騎士であったのだろう、主に対する態度はわきまえておろう?」
 センチネルはまだ、痛みに喘ぎながら頭を抱え、膝を付いていた。
 しばらくしてから、センチネルはかすれた声を上げる。
「……黙れ」
「分からぬ奴よ……」
 デュラハンは再び手をかざした。
「ぐああ……!」
「ふん、まあよい。下手に出る貴様など、逆に気味が悪いわ。センチネル、今言った事は忘れよ、その代わり、我の指示には従ってもらう……」
 センチネルはデュラハンを睨み、頭に手を当てて去っていった。
「ふん、さて……」
 次にデュラハンが向いたのは、アレクスの惨死体を、口から出す火で焼却するバルログであった。
「この野獣が、死体の片付けごときにいつまでかかっておる。さっさと貴様も支度せい!」
「は、はひぃ!」
 バルログはアレクスの死体を、消し炭も残さず焼き尽くすと、すぐにどかどかと、足音うるさく玉座の間を後にした。
「シレーネ」