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For the future !

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二年目九月中旬 アジア大会の選手村に入村



凛と遙は日本代表選手として仁川入りした。
仁川は韓国の西北部に位置し、人口は韓国で三番目の湾岸都市である。

日本選手団の入村式は前日に行われた。
今回のアジア大会では、その日に同時開催された日本選手団とスリランカ選手団の入村式が初めての入村式だったそうだ。

空港からバスで一時間ほど移動し、今、凛はウェルカムセンターにいた。
ウェルカムセンターでADカード(資格認定証)の発行を受ける。
このADカードは顔写真などが表示されていて、このカードが無ければ選手村に入れない。一般的なIDカードよりも大きなサイズで、首からかけられるようにストラップがついている。
「凛」
先輩から話しかけられて、凛はそちらのほうを向いた。
じっと見られている。
「おまえ、同じもん着てんのに、なんか違って見えるんだよな」
「はぁ?」
着ているのは濃いめのグレーの公式スーツだ。
「意味わかんねぇっす」
「中身の違いってヤツだな……うん」
首をかしげる凛のまえで先輩は自分だけで納得した様子でそれ以上はなにも言わなかった。
ウェルカムセンターを出たあと、選手たちは写真撮影された。
全員が集合してカメラに正面を向けて並ぶようなものではなく、カメラマンに声をかけられて何人かがカメラに向かってポーズして見せている。公式ブログに掲載したりする写真であるらしい。
選手たちの近くには各自のスーツケースとスポーツバッグがある。
凛は隣にいる遙を見た。
しかし、遙は凛を見ていない。よそを向いている。
遙の視線の先を追っていくと、そこには公式マスコットがいた。
アザラシをモチーフにデザインされたつぶらな瞳と陽気な表情が印象的な公式マスコットだ。ひとと同じぐらいの背の高さのそれがウェルカムセンターの近くで楽しそうに動いている。正確には公式マスコットの着ぐるみを着たひとが……などと無粋なことを言ってはいけない。
遙はいつもの無表情だが、その眼は公式マスコットに釘付け状態だ。
そういえば以前に遙からこのアジア大会の公式マスコットについて説明されたのを思い出した。公式マスコットは三兄弟という設定で、黄緑色が長男で、青色が次男、ピンク色が末っ子にして妹らしい。ウェルカムセンターの近くにいるのは黄緑色なので長男だ。
ホントこいつ、あーゆーの好きだよな……。
そう思った凛は口を開く。
「近くまで行けばいいだろ」
すると、遙はハッとした表情を一瞬見せ、凛のほうに眼を向け、それからまた公式マスコットを見た。
遙は荷物は置いたままにして公式マスコットのいるほうへ歩いて行く。
同じ競泳の日本代表の仲間たちがいるので、凛も自分の荷物をその場に残して遙のあとを追う。
遙は公式マスコットのすぐそばで足を止めた。その隣まで進むと凛も立ち止まった。
公式マスコットは正面に立った遙へ、手を差し出してきた。
一瞬、遙は戸惑った様子になった。
それから、おずおずと自分の手をまえへ出した。
遙は自分のほうへ差し出されている公式マスコットの手をそっと握った。
遠慮したのか、握手していた時間は短かった。
手を離すと、遙は言った。
「カ、カムサハムニダ」
韓国語で、ありがとうございました、だ。
言い終わるまえに、遙は眼を伏せた。恥じらうように。
なんだこれ、甘酸っぱい!
つーか、可愛い!
隣で見ていた凛の胸のうちで心がうおおおおおおと暴れている。それを顔に出さないよう努力する。
遙は二ヶ月半まえに二十歳になったばかりとはいえ、一応、成人男性だ。成人男性を可愛いと思うのはどうかと思うのだが、可愛いと思ってしまうのはどうしようもない。
やがて、遙は踵を返し、荷物の置いてあるほうへもどっていく。もちろん、凛もついていく。
凛は隣を歩く遙に話しかける。
「良かったな」
遙は凛のほうを見ないまま、少しうなずいた。そして、さっき公式マスコットと握手した手を胸のまえにあげて見る。
今日はこの手を洗わないでおこう。
そう思っているのではないかと凛は推測した。
いつもは無表情な遙の顔が少しほころんでいるのを眺めているうちに、なんだか複雑な気分になってきた。
だがな、ハル。
俺たちは競泳の選手だ。
その手は近いうちに水に洗われることになるだろう。
そう思って凛は気分を晴らした。実際そうなるだろうが遙に言わなかったのは優しさである。
凛と遙は荷物を置いてきた場所にもどり、他の日本代表選手たちとともに列を作る。
列の先にあるのはテントだ。
テントの中には金属探知機などがあり、選手村に入村するためには、空港のように金属探知機をくぐって荷物検査とボディチェックを受けなければならない。
列に並んでいるあいだも写真撮影は行われた。
選手村があって、聖火リレーもしているらしいから、オリンピックみたいだ。
そう凛が思ったとき。
「凛、ソワソワするな」
隣で遙が冷静な声で言った。
凛は遙を見る。軽くにらみつける。
「ソワソワなんかしてねーよ」
「してる。隠してるつもりだろうがバレバレだ」
「してねぇ!」
背後から吹き出す声が聞こえてきた。
凛は振り返る。
その視線を受け止めた同じ競泳の日本代表の先輩選手はおかしそうに笑っている。
「おまえら、ほんとに仲いいな」
「はぁ!?」
「ケンカするほど仲がいいってヤツだろ?」
からかうように言われて、凛はそんなんじゃないと言い返したくなったが、結局その言葉を呑み込んだ。
遙と自分が仲がいいというのを否定したくなかったので。
そんな凛を先輩選手はニヤニヤ笑いながら見ている。
一方、自分も当事者であるはずの遙は興味なさそうな顔でテントのほうを見ていた。

選手村での宿泊先は、最大一万五千人の受け入れが可能な新築マンション二十二棟二千二百二十戸だ。
このマンションは大会後には一般に分譲される予定である。
マンションなので、部屋の中に部屋がある構造だ。ひとつのユニットに、三人部屋がひとつ、二人部屋がふたつで、七人まで滞在できる。凛と遙は同じ二人部屋を割り当てられた。
選手村は、マンションの建ち並ぶ居住区域のほかに、記者会見場などがある公共区域、医療センターや食堂や選手サービスセンターなどがある国際区域で構成されている。
国際区域の食堂は二十四時間営業で三千五百人が同時に食事でき、選手サービスセンターにはインターネットカフェや郵便局や記念品ショップなどがある。

昼食後、競泳の日本代表選手たちは選手村からバスで十分ほどの距離の試合会場となるプールへ行った。










作品名:For the future ! 作家名:hujio