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敵中横断二九六千光年2 ゴルディオンの結び目

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正しい資質



「『寝言は寝てから言え』って言うけど……」

相原は言いながら、コンピュータ端末機の画面に映る文をスクロールさせた。文庫本にしたら千ページにもなりそうな文章がエンエンと書き連ねてある。地球の地下で個人がネットに流しているブログだ。

「こりゃ、どこまで続くんだ? よくもキリなくこんなもの書いていけるもんだよな。ものには限度がありそうなもんだ」

「よほどしつこい性格のやつなんでしょうねえ」と部下の通信科員が言う。

相原がいま開いて見ているのは、よくある陰謀論だった。主張は『〈ヤマト〉など存在しない』。イスカンダルもコスモクリーナーもすべて政府のデッチ上げだ、と言うものだ。世界を陰で操ってきた者達が、遂に自分達だけ残して人類を皆殺しにしようとしている。ノストラダムスやマヤの予言は実は今年を警告していた……。

「凄いのは、こんなのマトモに追っかけてる読者がけっこういるってことですよね」

「よっぽどヒマなんだな」

相原は言った。無論こっちは本当はこんなの読んでるヒマはない。明日に備えてそろそろ寝なきゃいけないところだ。

地球から送られてくる信号や、ガミラスの交信をモニターする仕事は部下達に任せている。自分がやるべきは明日の作戦における通信の確保だが、それもどうやらキリがついたところだった。相原はお茶とおにぎりを手に取って言った。

「こいつ、明日はどんなことを書くんだろうな」

「変わんないんじゃないですか」

そうかもなあ、と思いながらお茶を飲む。騙されるな、ぜんぶ嘘に決まっている、〈ヤマト〉なんて船は存在もしないのだ――地球の地下で、市民の中にそう叫ぶ者が出るのは当たり前のことでもあった。〈ヤマト計画〉。〈イスカンダル〉に〈コスモクリーナー〉。およそ荒唐無稽な話と思われても仕方がない。むしろ簡単に信じる方がおかしいとも言えるかもだ。

人々は地下に閉じ込められている。〈ヤマト〉の姿はカメラが捉えたものでしか知らない。ネス湖の怪獣やビッグフットの写真と何が違うと言うのか――誰かがそう言ったとき、一体どんな人間ならまともに応えられるだろう。

八年前にガミラスの侵略が始まったときも、人はなかなか信じなかった。そのときすでにワープ技術の可能性が論じられ、人は二十か三十年後に天の河銀河の渦をこの眼で見るだろう、などと言われていたにも関わらずだ。地球人にいつかできることならば、とっくにやってる異星人がいてもおかしくないはずなのに、多くは笑って首を振った。冥王星から石を投げ、我々を殺そうとする侵略者? ましてや、海が数年で干上がるかもしれないだって? バカらしい。遊星に地球を寒冷化させる物質が含まれていて、海の水を南北に集めて凍らせる、と――なかなかもっともらしい。けどねえ、そういう都市伝説は、信じそうなバカに教えてあげなさいよ。

んなこと言って、貧乏人を地下に押し込め、一部の者だけいい暮らしを地上でやろうと言うんじゃないのか? 市民には地下農牧場の合成タコ焼きやカニカマ軍艦みたいなものを食わせておいて、自分達だけ天然マグロや松茸や、松葉ガニとか松阪牛とか食おうとしてんだ。そうなんだろ。

陰謀論者はこぞってそんなことを言った。ガラパゴスやインドネシアの海が引いていくのを見てもまだ嘘だと言い続けた。海が干上がるなんてこと、科学的に有り得ない。だからすべてはまやかしと彼らは今も言い続けている。異星人など宇宙にいるわけないじゃないか。

彼らは今も地上に海や緑があると信じている。地下都市の水に放射能が混じり出すと、途端に政府が我々を殺そうとしているのだと叫び出した。殺される前にこちらが殺せ。政府を倒して地上に出るのだ!

と言って彼らはテロ活動を行ってきた。当然、〈ヤマト〉の実在など信じるはずもないことだ。彼らはかつて、『〈アポロ〉は月に行ってない』と頑迷に言った人種の末裔だから。

「問題は、〈ヤマト〉が太陽系を出れば普通の市民の中にも大勢、陰謀論を真に受ける者が出るってことですよね」

と科員のひとりが言う。相原はおにぎりを食べつつ「うん」と頷いた。

「もしも〈ヤマト〉が〈スタンレー〉を叩かずに外宇宙へ出たならば、市民は〈ヤマト〉は逃げたと言う。でも月日が経つにつれ、逃げるも何も、〈ヤマト〉なんて実は元々いなかったんじゃないかと考えるようになる……」

「うん」とモグモグしながら言った。

「さすがに地上に海と緑がまだあるなんて信じるやつは少ないでしょうが、〈ヤマト〉がいるかどうかとなると……もうすでに、地球じゃどんどん数が増えつつあるんでしょう。『〈ヤマト〉なんて実はそもそもいないと思う』と言う者達が。人はそういう生き物だから……だから政府は今日の発表をしなければならなかった。市民に〈ヤマト〉の実在を示すには、冥王星を波動砲で吹き飛ばす以外にない」

「うん」とモグモグ。

「役人達はそう考えた。しょせん役人の頭では、逆宣伝にしかならないことが理解できなかったのか……けれどもやはり、そこまで追い詰められてるってことです。おれ達は明日の戦いに勝つだけじゃなく、地下の人々に〈ヤマト〉は確かに存在する、逃げはしないと教えなきゃいけない」

「そうだ」

と言った。それをやるのが通信科の使命だった。〈ヤマト〉なんてむしろいないと思う方が当たり前。冥王星を砕いたら、人は地上に望遠鏡を持って出て、その準惑星が無くなったのを知るだろう。なるほど〈ヤマト〉はいるんだなと考えるのは考えるかもしれない。

だがそこまでのことだろう。陰謀論者が納得などするわけもない。何もかもデッチ上げだと言い張るだけだ。やはり〈ヤマト〉の実在を疑う声は高まってしまう。あるいは、『たとえいるとしても、どうせ逃げるに決まっている』と言う者達が増えるだろう。

それがテロを拡大させ、内戦の火を続かせる。憎しみが憎しみを生み、その連鎖が人類を自滅させることになる。結局、〈ヤマト〉が戻ったときには、もはや存続不能と言うことになっているかもしれないのだ。

そうはさせない、と相原は思った。陰謀論者だけではない。降伏論者。ガミラス教徒。狂ったトンデモ人種どもの口をおれが閉じさせてやる。ただモゴモゴと口ごもって何も言えないようにしてやる。もうこれ以上バカどもに好きなことを言わせはしない。

相原は、数時間前に森にも見せたテロリストの脅迫映像を思い浮かべた。森には見せずにスキップさせた腕が斬られる瞬間を、相原自身は眼に焼き付けさせられていた。

女の顔の皮を剥ぎ、《これは警告だ。》と書いた巻紙を見せつける。自分の顔には覆面をして……よくも、と思う。おれに向かってあんなものを送りつけてきやがって。それが正義のつもりでいやがる人でなしどもに、通信技術の正しい使い方を見せてやる。それをしないで太陽系を出ていくなんてこっちの気がおさまるものか。

見ていろ。明日は、祝電を送り届けてやる。『これは陰謀だ。』などと叫ぶやつらが、そのときどんな言い訳探すか見たいものだと相原は思った。