モータープール
四.
この塔を使うことがなくなって十年以上が過ぎていたが、入り口の手摺も階段も皆きれいに掃除されていた。もちろん書斎だった部屋のドアもきれいに磨かれていて、最近まで誰かが使っていたのだろうかと思える程だった。
『死者に一体何をどう聞けというのだ』
エルロンドは、あの晩以来来ることのなかった部屋のドアを開けた。
目に飛び込んできた部屋の様子は、正面の窓から穏やかに枯れた陽が差し込み、少し埃の匂いがする以外は、深い緑の絨毯も、イシルドゥアと座ってよく話をしたゴブラン織りのソファも、マホガニーの書斎机も、本棚も鏡もカーテンも、まるで時を止めたかのように全てが見覚えのある姿そのままであった。
「…なんだ、これは」
エルロンドは絶句した。
「何なのだ、これは!」
叫びながら、部屋の調度を一つ一つ見て歩いた。どれも十年置き去りにされた姿のまま、きれいに整頓され、保存されている。イシルドゥアの言い付けで、その死後も家人が守り続けていた証だ。
エルロンドは頭の中が真っ白になって、ソファに座り込んだ。
これは一体何の真似だ。死んでまで、どういうつもりだ。お前を憎み続けることの、何がお前にとって良いことなのだ?
問いかけても、答える相手はいない。何かしら答えはなかろうかと、エルロンドは先程渡された包みを開けてみた。すると茶色に変色した紙の内側に、イシルドゥアの字で書き付けがしてあった。