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空跳ぶカエル
空跳ぶカエル
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わたしは明日、明日のあなたとデートする

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5.愛美



 改札を抜けると高志が腕組みをして立っていた。私の姿を認めると何も言わずに歩き出した。私は高志の後を追うように早足で歩く。階段を上がって地上へ出ると、初秋の爽やかな夜の空気が私を包んだ。
 私たちは通行量が比較的少ない道路の歩道を歩いた。時折音もなく行き交う車のヘッドライトに照らされた高志の顔は、昨夜と同じように頑なだった。私たちが歩く道の右側は森の丘になっていて、私の頭の中の地図ではこの丘の反対側に『京都』旅行者のための手続きをする旅行センターがあるはずだ。森の中には旅行者用の宿泊施設があり、その先に「ゲート」があるはずだ。
「高志、私の部屋の合鍵を渡しておくよ。もし私が帰ってこなかったら、部屋のテーブルの上にマンションの権利書とか生命保険証とか、もろもろの書類があるから、ちゃんと適切に処理してね」
 鍵を高志に渡そうとしたが、高志がポケットから手を出さないのでポケットの中に無理やり押し込んだ。
「マンションは処分していいから。部屋の中の物も全部処分して良いよ。何か欲しいものがあったら使ってくれたら嬉しいけど」
「それから、世間には単に行方不明になったとか死んだとか、適当に言っておいてね。でも、瞳さんと愛には本当のことを教えてあげてね。私はどこかで元気にやってるよって」
 瞳さんは高志の奥さん、愛は高志の娘、つまり私の孫のことだ。
「それから」
 私がそう言った時、不意に高志が遮った。
「ここまで言っておいて、帰ってきてしまったりなんかしたら、かっこ悪いな」
 ふふっ。まあそりゃそうだけど。
「一応、うまく向こうに取り残される前提で話してるんだから、茶々を入れないで」
「遺言みたいだ」
「遺言のつもりだけど」
 高志の表情が少しだけ軟らかくなった気がする。

「母さん」
「なに?」
「昨日、運命に逆らうつもりで俺を産んだ、って言ったよな?」
「うん。そう言ったね」
「そのことも、そして今日こうしていることも、それもすべて『運命』で定まっていて、結局何をやっても運命からは逃れられないのでは、って考えたことはない?」
「そんなことは何度も何度も考えたよ」
「じゃあ、どうして」
「そんなことはどれだけ考えてもわからない。わからないことは考えてもムダなの。それより、受け入れたくない運命には、逆らう意志を持って行動することが大切なの」
「結局ムダだったら?」
「できることはみんなやって、それでも変えられなければ、諦めて運命を受け入れるしかないでしょ?でも行動せずに後になって、あの時ああしていればもしかしたら、なんて思っちゃったら、諦めることも受け入れることもできなくなるでしょ?」
 街灯に照らされた薄暗い歩道に、しばらく二人の靴音が響いた。
「わかったよ。もう反対はしない」

 右手前方、森の外れに白い二階建ての建物が見えてきた。
「あれが研究者用の入り口がある建物だ」
 覚悟を決めたはずだったが、そう聞くとやはり足がすくんだ。
 高志は歩みが遅くなった私を振り返った。
「やめておく?」
「ううん。行く」
 高志は門の前で立ち止まり、ポケットを探った。
「これ、カードキー。うちの研究員のをちょっと拝借してきた」
「ありがとう」
 高志が自分のカードキーを使って門を開け、私はその後に続いた。
 門から玄関までは二十メートルほどの距離があった。高志が玄関の方を向いて歩き始めながら、前を向いたまま私に言った。
「玄関には監視カメラがあるんだ。母さんの顔が映るとまずいから、俺の後ろのカメラから見て影になる場所を保ちながら歩いて。顔さえ映らなきゃ良いから」
 私は高志が言うとおり、カメラの死角になる位置、つまり私からカメラが見えないような位置をキープしながら玄関に向かって高志の後を歩いた。
 玄関に辿り着くと、高志は私を先に中に入れ、自分は靴紐を結び直すためにしゃがみ込んだ。何もそんなところで、と思う私に構わず、両足の靴紐を結び直してから高志は建物内に入ってきた。
 玄関を入ったところで回転バー式のゲートがあった。これはカードキーを持っている人の後に続いて、というわけにはいかない。人数分のカードキーが必要だ。
 高志の後から、借りたカードキーを使って私もゲートを通った。
 廊下を何回か曲がると、守衛室の向こうにゲートとドアが見えた。その手前の部屋に高志の後について入った。
「あそこには守衛がいて、出入りする人を確認している。だから母さんが守衛に見られるのはあまり面白くないんだ。それにセキュリティの記録には俺と研究員の二人がこの建物に入った記録が残っているし、その研究員が向こうに行ったまま帰ってこないことも記録に残ってしまう。だからちょっと守衛さんには席を外してもらって、母さんが通る隙と俺がセキュリティ記録を書き換える時間を稼がないといけない」
 私は呆れて言った。
「それ、犯罪じゃないの?」
「協力する義務があるって言ったのは誰だよ」
 高志は屈託なく、とはとても言えない表情で、片頬だけで笑った。まあ、とにかく高志の笑った顔を見たのは昨夜以来だ。
「今から手順を言うから、よく聞いてくれ」
 私が頷く。
「さっき、玄関先で時限爆弾を床に置いてきた」
 え?靴紐を結ぶふりをして?
「まあ、時限爆弾と言ってもちょっと賑やかな音と炎を出すだけの可愛らしいやつだけどね。でもそれでとにかく守衛は玄関に行ってしまうはずだ」
「守衛が玄関の方に向かってそっちの角を曲がったら、俺と母さんはゲートのところまで行って、母さんはそのカードキーを使ってゲートを通ってくれ。俺は守衛室に入ってセキュリティ記録を書き換える」
 高志は一呼吸置いた。
「そこで俺たちはお別れだ」
「ゲートを通過してドアから外に出たら、道を真っ直ぐ進めば旅行センターから来る道と合流する。そこでもカードキーが必要だ。俺は母さんがそこを通過した記録も消去しなきゃならない。守衛が戻ってくる前に消去しなくちゃならないから、ここまではできるだけ素早く行動して欲しい」
「わかったわ」
「旅行センターからの道と合流したら、もう迷わないだろうけど、宿泊施設のA棟の一〇二号室がうちの研究室で借りている部屋だ。その部屋のキーを渡しておく」
 高志がキーを私に手渡した。
「その部屋に俺が使っているデスクがある。どのデスクが俺のかは見ればわかると思う。そのデスクの引き出しに、今使っている端末は置いていってくれ。そんなの向こうの世界で誰かに追求されたら答えられないからな。カードキーもそこに置いていってくれ。それで、上手く向こうの世界に残れずにこっちに戻ってきてしまったら、その部屋から俺に電話を入れてくれ。拾いに行くから」
 私は高志に言われた手順を頭の中でもう一度繰り返した。
「よし、大丈夫。時限爆弾が作動するまで、あとどのくらいあるの?」
 高志は腕時計型端末を見て言った。
「まだ五分ある」
「じゃあ、父さんの話でもしようか?」
 私がそう言うと、高志は迷ったような顔を見せた。
「聞きたい気持ちはあるけど、やっぱりいい。聞いてしまったら、本当にもう母さんと二度と会えなくなるような気がする」
「それなら私はむしろ話してしまいたいくらいなんだけど、まあいいわ。かんべんしてあげる」