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空跳ぶカエル
空跳ぶカエル
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わたしは明日、明日のあなたとデートする

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6.高寿



2040年2月17日


 予約を取っていた渋谷駅近くのイタリア料理の店に入った。中学一年の娘を連れて行くのだから、もちろん高い店ではないがボリュームもあって美味い店と評判の店である。
「美由紀、ママは元気か?」
 注文したバジルのパスタに目を輝かせてフォークを入れる様子を眺めながら高寿は尋ねた。評判になるだけあって確かにボリュームたっぷりのパスタだ。こんなに食べられるのか、と思うが、部活でテニスをやっている美由紀は今からデザートを何にするか悩んでいる。
 美由紀はパスタを口いっぱいに頬張ったままコクコクと頷き、パスタを飲み込んでからようやく短い言葉で答えた。
「うん。変わりないよ」
 素っ気ない答え。
「新しいパパとは仲良くしてるか?」
 高寿がそう聞くと、美由紀は表情を硬くした。嫌悪感がその顔に滲み出ている。
「知らないよ。いろいろ話しかけてくるけど、口、利いてないから」
 仲良くはしてないらしい。
「つまんない話はやだ」
 そう言って高寿をにらむ。整った顔立ちも大きな目も母親によく似ている。しかし成長すれば相当の美人になると予想できる顔立ちだが、十二歳にしてこれほど人を威圧できる目力を持っているなんて、先が思いやられる。
 ともかく、数時間しかない一緒の時間の最初から美由紀にへそを曲げられるわけにはいかない。
「わかったよ。じゃあ別の話にしよう。学校の方はどうだ?」
 高寿が話題を変えると美由紀の表情が和らいだ。
「まあ、部活は楽しいよ。二年生になったらレギュラー取れそうだし」
「レギュラーって、団体戦のか?」
「そうだよ」
「美由紀、それすごくないか?確か部員が三十人くらいいるんだろ?」
「三十四人」
 かなりドヤ顔だ。
「団体戦って、確かダブルスが二ペアにシングルスが三人で合計七人で戦うんだよな。三十四人から七人に選ばれるってすごいじゃないか」
「まあ、小三からジュニアチームでテニスをやってたからには、そのくらいやらないとね」
「だってテニス部にはジュニア出身の部員もたくさんいるだろう。やっぱりすごいよ」
 美由紀がますますドヤ顔になる。
「でも、レギュラーになるのが目標じゃないもん。地区大会を勝って関東大会に行くのが目標だもん」
 その言葉で去年の秋の大会を思い出し、高寿は思わず声を出して笑った。
「何がおかしいのよ」
「いや、だって去年の秋の地区大会、決勝で負けたときのことを思い出してさ。あの時、美由紀は応援してただけなのに選手より泣いてたろ」
「だって悔しかったんだもん」
 小四のときに出た大会で六年生と当たってボロ負けしたときも、経験年数も身体の大きさもまったく違うし負けて当然の試合だったのに、試合が終わってコートから出てきた途端、歯ぎしりをしながら大泣きしていたことも思い出した。
 この負けず嫌いは、やはり母親に似たんだろうな。美由紀のキッと人を睨む顔なんて母親そっくりだし。
「でもね、先生にはダブルスでどうだ、って言われてるの。ダブルスは嫌なんだなあ。シングルスで団体戦メンバーに入りたいな」
 既にパスタを半分ほど平らげ、メニューのデザート欄にちらちらと目を走らせながら美由紀が言う。そりゃあ美由紀の性格ではダブルスはやりにくいだろうな。ペアになった子が。
「勉強の方はどうなんだ」
 高寿が話題を変えると、美由紀は恨めしそうに頭を抱えた。
「うわあ、それは聞いて欲しくなかったなー」
「父親としては聞いておかなきゃな。その反応でだいたいわかったけど」
「学校が部活だけだったらいいのに」
「そういう学校って、確かテニススクールって呼ばれてる。クラスは楽しくないのか?」
「うん。あまり友達もいないし。部活には友達いるけど」
 まあ、部活でも学校が楽しいなら何よりだが。
「あ、でもこないだクラスですごかったんだよ」
 デザートを決めたようで、店員の姿を探しながら美由紀が言う。
「何が?」
「わたしのパパが『ぼくは昨日、明日のきみとデートした』を作った人だってクラスのみんなにバレたの。別に秘密にしてたわけじゃないんだけど、そんな話、クラスでしたことなかったから。そしたらクラス中、大騒ぎになっちゃって。あのアニメ、そんなに人気があったなんて知らなかったよ」
「だってあれ、美由紀が小五の時の映画だろ?みんな観てたの?」
 高寿は指を折って数える。上映が二〇三七年の八月だったから、小五で間違いない。
「だって今は家でも観れるもん。それに上級生も噂を聞いてクラスに来たりしてたし、一番テンション上がってたのは担任の先生かな」
「担任の先生って何歳くらい?」
「まだ大学を出て二年目だよ。あの映画は学生のときに観たって言ってた。彼氏と別れた直後だったから大泣きしたって言ってたよ」
「どういう別れ方をしたのか知らないけど、それとこれとは別のような気がするな」
「とにかく、それで今まで観たことなかった子も観て、今じゃクラス中の子が観てるよ。特にエミが大人気。先生なんて、映画やった時にコーラのキャップにフィギュアが付いてたことがあって、エミのフィギュアをコンプリートしたらしいよ」
 一番盛り上がってるのはどうも先生のようだ。
「わたしもエミ、好きだなー。可愛いし、面白いし、一途だし。何度観ても最初のシーンから泣いちゃうよ」
 あれ?おかしいな。高寿は疑問に思ったことを美由紀に聞いてみた。
「美由紀、お前、何度も観てるのか?家で?」
 店員を呼び、デザートを注文した美由紀が不満気な顔で高寿に振り返った。
「ううん。友達の家で観てる。家で観るとママが嫌がるんだもん。だからパパがあれを作ったって知れて大騒ぎになったのはちょっと嫌だったけど、友達の家で観れるようになったのは良かったかな」
 やっぱりそうか。

 美由紀が頼んだアイスクリームが来た。美由紀はそれを黙々と食べていたが、食べ終わると意を決したように言った。
「ねえパパ。わたし、パパと暮らしたい」
 そんなことを言われる気はしていた。高寿は否定的な空気を美由紀に感じさせないよう、慎重に穏やかな表情で聞き返した。
「それはどうして?」
「・・・ママに今度、赤ちゃんができるの。九月に産まれるんだって」
「弟か妹ができるのか。良かったじゃないか」
 すると美由紀は俯いて小さな声で呟いた。
「だって赤ちゃんが生まれたら、ママはわたしが邪魔になる」
「邪魔になんか思わないぞ。だって美由紀だってママが産んだ子じゃないか」
 美由紀がさらに俯いて湿った声になる。
「わたし、ママが嫌いだもん。だってママはパパと結婚してたのにあの男とつきあってたんだよ。だからママもきっとわたしが嫌いだよ」
 そんなことはない、とただ言っても説得力はなさそうだ。
「美由紀がどうしてもパパと暮らしたいなら、パパは嬉しいよ。でも、そうなったら転校することになってしまうけど、それでもいいの?部活、楽しいんだろ?」
「う・・・それはやだ。なら、高校からパパと暮らす」
 そうか。家庭内の疎外感を上回るほど楽しいことがあるのなら、当面は大丈夫。高寿はそう思った。美由紀を引き取るのはむしろ望むところだが、美由紀に自分の母親を憎んだままにはさせたくない。