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はろ☆どき
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エドワードと氷の王さま【冬コミC89新刊サンプル】

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(冒頭及び抜粋)

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 むかしむかし、地底の奥深くに「フラスコの中の小人」というホムンクルスがおりました。
ホムンクルスは人々の醜い心や憎しみ合う際に発生する負の感情が大好物で、地上の人間に裏からちょっかいを出しては、争わせて楽しんでいました。
 ある時、ホムンクルスは写ったものを歪めて見せる鏡を作りました。美しいものは醜く、真っ直ぐなものは捩れて見えるという不思議な鏡です。
 この鏡に写ると、心が美しく優しい人間は醜く意地悪そうに見え、立派な偉い人物はみすぼらしく卑屈な姿に見えるのです。
 ホムンクルスは「真実の姿が写る鏡」だと吹聴し、いろいろな国の人間に見せて回りました。すると人々は、互いの歪んだ姿を見て真実の姿だと思い込み、いがみ合うようになりました。
 これは面白い。この鏡で太陽を隠してしまったら、皆、太陽の代わりに鏡を見上げるだろう。そうしたら、もっと争うようになるのではないか。
 ホムンクルスはそう考えつき、鏡を抱えて空高く舞い上がりました。
 ところが太陽まで届く前に鏡を落としてしまい、鏡は地面に当たって粉々に割れてしまいます。割れた鏡は何千万、何億万という細かいかけらとなって、世界中の至るところに飛び散り、多くの人の目や心臓に刺さりました。
 鏡の欠片が目に刺さると全ての物事が歪んで見え、心臓に刺さると心が氷のように冷たくなってしまいました。けれども鏡の欠片はとても細かくて透明だったので、誰も目や心臓に刺さっているとは気づきません。
 鏡のかけらが刺さった人は、なんでも疑ってかかり、物事の悪い面ばかりを見るようになりました。そうして地上の至るところで人々が互いに争い、ついには戦争をするようになりました。
「人間とは愚かだな。俺がなんにもしなくても勝手に争ってくれる。これで当分の間、腹が減ることはなさそうだ」
 ホムンクルスは大変満足し、また地底深くに潜ります。そして自分の生まれたフラスコのような地底の寝床で、人々の争う様子を寝物語にしながら眠りについたのでした。

******

 世界地図の中心に位置するのは、アメストリスという国です。その東の地方に、リゼンブールという小さくて長閑な村がありました。
 そこには、エドワードとアルフォンスいうとても仲のよい兄弟が住んでおりました。二人は幼い頃に両親を亡くしましたが、隣人や村人の力を借りながら、お互い支え合って生きてきました。
 兄のエドワードは、父親似で見事な金髪に金目。腕白でちょっと好戦的なところもあるけれど、根は真っ直ぐで長男気質の少年。弟のアルフォンスは、母親似で髪も目も金にやや茶がかかった色。性格は利発で穏やか、とてもしっかり者の少年でした。
 二人とも本が大好きで、いつも二人で分厚くて小難しい本を楽しそうに読んでいました。父親が生前いろいろな文献を集めていて、書斎には本が沢山あったのです。
 中でも錬金術の本が大のお気に入りで、何度も読んで試すうちに、二人は錬金術が使えるようになりました。父親は とてもすごい錬金術師だったのですが、二人にも錬金術の才能があったようです。
 本を読む時以外は、隣に住む幼馴染みのウインリィと遊んだり、その祖母であるピナコの手伝いをしたりして過ごしました。皆で家族のように仲良く暮らしていたのです。
 子供達は寝る前によく、ピナコにお話をしてくれるようねだりました。ピナコは歳をとっている分、いろいろな話を知っています。
 ある時、ピナコは子供達に怖いお話を聞かせました。
「ノースシティよりもっと北のブリッグズ山脈の奥に、氷で出来ている城があるそうだ」
 聞いたことのない話に、子供達は興味津々。揃って耳を傾けます。
「そこには『氷の王さま』と呼ばれる、身体も心も氷のように冷たい男が住んでいる。そいつは指の動き一つで氷の焔を操ることができて、冬を創り出しているそうな」
「冬を? 氷の王さまが?」
 王さまという言葉に、ウインリィが目を輝かせます。
「そうだよ。冷たい空気を城から送り出して、水を凍らせたり雪を降らせたりするんだ。そうして北の方から段々と冷やして回って、世界中を冬にしてしまうのさ」
 しかしどうやら、ウインリィが期待したような素敵な人という感じではありません。
「春になって陽射しが雪や氷を解かすようになったら、彼も氷の城に戻って閉じ籠る。そしたら寒い冬はお終いだ。そうやって季節は巡っていくんだよ」
「そいつさ、その王さまってやつ。夏の間にやっつけちまえばいいんじゃねーの。そしたら冬が来なくなるんだろ。寒くて動けなくなるような冬なんて、なくてもいいじゃんか」
家に閉じ籠っているのが嫌いなエドワードが、そんなことを言い出しました。ピナコは怖い顔で諭します。
「馬鹿をお言いでないよ。冬だって大事な季節の一つだ。暖かい時期に備えて栄養を蓄える期間が、生き物にとっては必要なものなんだよ」
 だからお前も冬の間くらい悪戯をせずに大人しくしておいで。そうピナコに言われて、エドワードは口を尖らせます。
「だいたい、暖かい季節でも氷の力が使えなくなるわけじゃないらしいよ。だから北の高い山の頂上には、いつも雪が積もっているんだろう。それにね、王さまは人間を凍らせることもできるそうだ」
「えっ、人を?」
「以前、彼を怒らせた一族が村ごと氷に覆われて、全滅させられてしまったそうだよ」
「わあ、怖い! その王さまはここにも来る?」
 アルフォンスが心配そうに尋ねます。
「ああ。急に冷え出して、朝に雪が積もっていることがあるだろう? あれは夜の間に王さまがここら辺を通った証拠だよ。しっかり冷えているかどうか、冬の間はあちこちを視察して回っている。だから雪が積もるほど寒い時には、一人で森や山に行ってはいけないよ。王さまに見つかって、凍らされてしまうといけないからね」
「はーい」
 アルフォンスとウインリィは素直に返事をします。
 しかしエドワードは思いました。
 これは子供が雪で景色の変わった森や山で迷ったり、氷の張った池や冷たい川に落ちたりしないように、わざと怖がらせるように話しているのだろう。自分は子供なんかじゃないし錬金術も使える。氷の王さまとやらも、ちっとも怖くなんかないと。

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