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敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女

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速報



《冥王星で核と思しき爆発を確認》――その文句は、地下東京都市内の至るところに設置された電光掲示板に映されていた。市民野球場のスタンドの他、人の集まる交差点やモノレールの駅、街の天井を支える柱に貼り付けられた電光パネルだ。その一文だけ表示され、他になんの説明もない。

地下東京だけではなかった。日本の他の地下都市でも、世界のすべての地下都市でも、ただそれだけが速報として市民に対して発表される。ラジオもそれぞれの国の言葉で同じ文句を繰り返すだけだ。

『どういうことなのです、トードー!』

地球防衛軍司令部で、長官である藤堂はテレビ会議で自分を囲む立体モニターの列に対していた。世界各国の代表である立体像の者達が、口々に説明せよと訴えてくる。

『冥王星で核が爆発? 「〈ヤマト〉が敵を討ち取った」と言うことですか』

「わかりません」と藤堂は言った。

『しかしそもそも、波動砲で星を丸ごと吹き飛ばすんじゃなかったのか』

「はい。そうではありましたが……」

『「でしたが」とは一体なんだ。どうして核が爆発するんだ』

「わからないのです」

『「わからん」ではわからんだろう!』

全員でガヤガヤ言い出す。どういうことだ。市民は説明を求めているのだ。冥王星はどうなった。〈ヤマト〉はどうなったのだ。核が爆発したと言うなら、どっちが使って何に当たってどうなったと言うことなのだ。

「だから、わからないのです」藤堂は言った。「だからとにかく、市民には、ただこれだけを発表するしかないでしょう。今はどうやらどの街も、内戦は小康(しょうこう)状態のようですが……」

『それはまあ』

と数人が頷く。地下東京は内戦によって停電に陥り、ようやく電気と空気とが復活した状態だが、他の街はどこもそこまでひどいことにはなっていない。なっていないが暴動、略奪、対立する集団同士の戦闘はどこも凄まじいものがあり、あらゆる街で無辜(むこ)の市民が巻き添えを喰い、中心にある野球場などへ逃れている状態と言う。すべての街で市民らが、球場の電光パネルがそれぞれの語で表示する『冥王星で核うんぬん』の文字を見上げて〈どういうことだ〉と訝(いぶか)っている。

民衆は皆言っている。『冥王星で核爆発』ってどういうことだ。〈ヤマト〉が敵を攻撃したと言うことなのか。けれども〈ヤマト〉は冥王星を丸ごと吹き飛ばすと言う話じゃなかったのか。昨日はそう言っていたじゃないかよ、と。狂って銃をぶっぱなし、人を殺しているやつらは、みんながみんな『冥王星は〈惑星〉だから撃っちゃいかん』、そう叫んで暴れまわっているんじゃないか。

藤堂は言った。「冥王星で核爆発があったと言う、ただこれだけを市民に告げて、それ以外は何も言わない――今はそれしかわたし達にできることはないでしょう。人々は皆、もう〈ヤマト〉は波動砲で冥王星を吹き飛ばしてしまったか、あるいはガミラスに殺られてしまったのではないかと考えている。ここでヘタなことを言えば、虐殺をこれ以上に煽(あお)ることになるでしょう。だからとにかくこれだけ告げて、『これ以外何もわからない』とするのです。事実その通りなのですからね」

『話はわからなくもないが』とひとりの者が言った。『実際に冥王星で核爆発があったのですね?』

「はい。現在、あの星に最も近づける無人偵察機でも、星のようすを詳しく知ることはできません。一億キロの距離からやっと、五分前の光を撮ってこちらへ送ってきているわけで……」

地球人類はもう何十年か前に超光速通信技術を獲得し、光の速さで五時間かかる冥王星と地球の間をタイムラグなしに信号を伝えられるようになっていた。なってはいたが冥王星まで光の速さで五分の距離のところまでしかスパイカメラが近づけないなら、それが撮って地球に送ってこれるのは五分前に冥王星で起きた現象だ。望遠で船を見つけてズーム拡大なんてことも遠過ぎてできず、〈ヤマト〉の戦いがどうなったのか皆目(かいもく)わからない。

それでも核爆発級のことがあれば観測できた。どちらが使って何が破壊されたのかわからないから何も言えない。核爆発と思しきものがありました、と言う以外には。

『それが五分前だとすると、さらにその五分前……』

とひとりの者が言う。対して藤堂は、

「いえ」と言った。「核爆発があったのは、どうやら今から三十分ほど前のようです。それ以後は全く何も……」

『なんだと!』

と言った。全員が一斉に声を張り上げる。

『どういうことだ! 〈ヤマト〉が基地を討ったのならば、すぐに「攻撃成功」の打電をしてくるんじゃないのか!』

『そうだ! 違うと言うのなら、つまり〈ヤマト〉が敵に殺られてしまったと言うことじゃないのか!』

『なぜだ! どうして波動砲を〈ヤマト〉は撃たなかったと言うのだ!』

口々に言いつのる。〈ヤマト〉は本来、冥王星を波動砲で撃つためにある船でもあった。誰もがそのように説明を受け、『うんナルホド』と頷いていた。

〈波動砲〉などと言う装置は、冥王星を壊すのでなければ他に使い道あるわけがない。冥王星を撃つためだけに波動砲を造ったのだから冥王星を撃つのが当たり前であり、撃ってはならぬと考えるなら最初から〈ヤマト〉の艦首に積むべきでないのだ。ほんとにそんなもの、他のどこで何を撃つために造ると言うのか。

だからここに並ぶ者、全員そういう考えでいた。それが正常な人間であり、撃ってはならんと吠え叫ぶのは途轍もなく頭が悪いか完全なる狂人である。とは言っても――。

「しかし冥王星を撃てば、この内戦は鎮まりませんよ」藤堂は言った。「敵は波動砲を恐れて、あの星から逃げ出しました。今なら波動砲なしに、〈ヤマト〉一隻で基地を叩くチャンスがある。沖田はどうやらそれが狙いで、示威目的に地球を出てすぐあの空母めがけて撃った。すべては内戦を止めるため……」

『それもわからん話じゃないが』とひとりの者が言う。『しかし結局、〈ヤマト〉が殺られてしまったのではなんにもならんでしょう。それだったら波動砲でドカンとやってしまった方がずっといい』

「いいえ、まだ〈ヤマト〉が沈んだとは限りません」

『そうかもしれんが、しかしだな』

「核爆発と思しきものはひとつだけです。〈ヤマト〉が敵に使うにせよ、敵が〈ヤマト〉に使うにせよ、いささか解せないものがあります。〈ヤマト〉が基地を見つけたのなら何十発もブチ込んでいいはずですし、敵が〈ヤマト〉に使うにしてもやはり何十も使っていい。どうしてただの一発なのか」

『ふむ』と言った。言ったがすぐに、『そんなこと言うが……』

そのときだった。

「長官!」

と、藤堂を後ろから呼ぶ肉声がした。振り向くと司令室の中で士官らがザワめいている。

「どうした?」と藤堂は言った。

「核です」とひとりの士官が応えた。「冥王星でたった今、二発目の核爆発と思しきものが起きました」