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敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女

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動画



速報として流れた動画。それは〈ヤマト〉の相原が地球に向けて送信したものだった。スパイカメラが撮影した冥王星の地面の一部だ。遥か高くから俯瞰(ふかん)で捉えて、一辺は10キロメートルばかり。

そこにごく小さなものが三つゆっくりと動いている。同じ円の円周上を這うように――それはガミラスの戦艦が、三隻でY字砲火のガンシップ陣形を組んで〈ヤマト〉を待っているところだった。

そして動画は〈ヤマト〉が氷を割って飛び出し、三つの敵を次々にまとめて沈める光景を映す。地球で見た人々が驚きの声を上げたのは、まさにその瞬間だった。

防衛軍司令部で、長官の藤堂が『これは』と驚きすぐさま市民に発表せよと言ったのが、まさにこの動画である。それは日本の地下東京だけでなく、世界のありとあらゆる街で市民に向けて公開された。

内戦により、今は世界のどの地下都市も電話は不通となっており、当然、ネットも繋がらない。テレビを点けても何も映らず、情報と言えばラジオとそしてもうひとつ、街のあちこちに設置されたLED電光掲示パネルだった。

それらはすべてが銃弾を数発受けたり、水を掛けた程度のことでは壊れず、画(え)を映し出せるよう頑丈に造られていた。交差点や学校、そして街の天井を支える柱に人が見上げる高さで据えられ、民衆の最後の情報源として機能するようになっていたのだ。

これによって人々は見た。その映像を。最初は一体なんなのかと首を傾げて訝しみながら、けれどもそれが宇宙の星で一隻の船が三隻に挑み、勝つ模様を捉えたものと気づいて驚愕の顔で見た。

次いで画面は映像の一部を拡大したものへと切り替わる。トリミングされた画像が追いかけるのは一隻の船だ。最大限に拡大したためモザイク状にチラチラとした画にはなっていたが、それはまさしく――。

「YAMATO……」

と人々は言った。世界の国で、人々が日本の船の名前を呼ぶ。曲芸じみた動きを見せて格闘戦で敵を倒した船は確かに、

「〈ヤマト〉だ」と言った。「〈ヤマト〉が戦っている……」

「そんな」と応える者がいる。「これ、本当のことなのか……」

そうだ。とても俄(にわか)には信じられない映像だった。即座に真贋(しんがん)を疑う者が出るのは当然のことだった。それでも、しかし人々は、その映像にどよめいたのだ。船が敵を沈める姿に『おお』と声を上げたのだ。それが確かに〈ヤマト〉だと拡大画で認めたときに、叫ばないではいられなかった。〈ヤマト〉だ! 〈ヤマト〉が戦っている! これは本当のことなのか!

なぜだ! 〈ヤマト〉は波動砲とやらで星を丸ごと吹っ飛ばすのじゃなかったのか? 『爆発した二発の核』と言うのはこれとは別なのか? 一体、何がどうなってるんだ!

「嘘だ!」

と、たちまち叫ぶ者がいる。騙されるな、全部嘘だ! これは捏造(ねつぞう)に決まっている! ほんとは〈ヤマト〉は冥王星をもう消し飛ばしてしまったんだ。あの星には神がいるのに! なのに我らは殺してしまった! ああ、人類はもうおしまいだ!

「何を!」

と別のカルトを信じる狂信者が叫び返す。ガミラス教徒や降伏論者はいずれにしてもこの映像は嘘だ嘘だとがなり立てた。こんなもんを信じるやつは地獄へ行くんだ死ね死ね死ね! ガミラスに〈ヤマト〉が勝てるわけがない! だからこんなのはイカサマだ!

けれどもその一方で、

「〈ヤマト〉だ!」

と、声高く叫ぶ者がいた。子供達だ。父親と母親の手を引っ張って、顔に喜色(きしょく)を浮かべて言った。〈ヤマト〉だ! お父さんお母さん、あれは〈ヤマト〉だ! そうでしょう? 〈ヤマト〉が敵と戦っている。冥王星で戦ってるんだ。そうでしょ、そうなんでしょう!

「ああ……」

とその子の父親は言った。母親もまた頷いた。それからふたり合わせて言った。そうだ、そうだよ、その通りだ。お前の言う通りだよ! 〈ヤマト〉が敵と戦っている。そして勝ってる。勝ってるんだ!

そうよ、当たり前でしょう! あれはあなたを救うため、宇宙の旅に出る船なのよ。だから敗けるわけがない。あんなところで敗けるわけない。勝つのよ。わたし達のために!

そう叫んだ。子供を持つ親達は。彼らの前で動画への疑いの声を上げるのは、人としての情や理性を残す者の中にはいなかった。だから、その親達の前で、彼らの子供に向かって言った。そうだよ、君。君が正しい! 〈ヤマト〉は勝つさ。そして、きっと帰ってくるんだ。こんなところで敗けるもんか!

「そうだ!」

と人々は言った。最初はみんな子供の前で、子供の耳に聞かせるために、あれは本当のことだと言った。〈ヤマト〉が戦っている! 冥王星で勝っている! あの動画が嘘であるわけないだろう!

「そうだ!」

と言った。叫び声は、次第に大きくなっていった。波動砲を使わずに、冥王星で敵に勝つ。〈ヤマト〉はそういう船なのだ! そうだ、決まってるだろう、子供を救う船として宇宙に出ていく船なのだから!

「ヤマト!」

叫んだ。世界中で。オレは信じる。信じるぞ。そう叫んで呼び始めた。あの船はいる。逃げたりしない。世界の子を救うため、きっと帰ってくる船なのだ。そう叫んで呼び始めた。だからあれは勝っている。冥王星で勝っているのだ。そう叫んで呼び始めた。〈ヤマト〉の名を。拳を振り上げ、声を揃えて呼び始めた。

「ヤマト! ヤマト!」

その声は地下都市の壁と天井に谺する。うねりとなってワンワンと街全体に響き渡る。世界のすべての街がそうなっていった。

あれは嘘だと叫ぶ狂信者の声はやがて圧(お)されてしぼんでいった。ヤマト! ヤマト! 人は叫ぶ。虐殺者から身を隠し、潜んでいた者達も、その場所から道へ出てきて叫び始めた。

「ヤマト! ヤマト! ヤマト! ヤマト!」

「YAMATO! YAMATO! YAMATO! YAMATO!」

『そうです、皆さん!』ラジオも叫ぶ。『呼んでください、〈ヤマト〉の名を! 信じてください、〈ヤマト〉の力を! 〈ヤマト〉は必ず勝ってくれます。そしてきっと帰ってきます。だから応援してください! 〈ヤマト〉を応援してください!』

「おおーっ!」

と人々は叫ぶ。そしてあらためて呼び始めた。〈ヤマト〉の名前を。呼び声は、どんどん高くなっていった。