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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに

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 山の斜面を切り開いて作られた村で住人たちは自給自足を主としてはいたが、温泉が湧き出ているために観光や湯治目的の旅人もちらほらと訪れているようだ。
 ビアンカの父ダンカンもまた、この村へ移り住んでからは今や若手に経営のノウハウを教える立場だ。

 村の一番奥の建物を目指して一行は歩いていった。
 途中ですれ違う村人たちが皆ビアンカに声をかけ、ビアンカもまた笑顔で近況を尋ねたりしている。
 その弾けるような笑顔を見て、アンジェリークの頬も自然と上がっていく。
「ビアンカさん、とっても嬉しそうね」
「そうですねえ。子供たちもはしゃいでいますし、来てよかったですよね、アンジェ」
 二人で仲良く手を繋ぎながら、リュカ一家の後ろをのんびりついていく。

 村人の一人が不思議そうな顔をしてリュカに声をかけていた。
「あれ? 忘れ物かい?」
 ほんの少し訛りのある、気の優しそうな青年だ。
「あーいや、まあ、はい、そんなところです……はは」
 しどろもどろなリュカにさりげなく肘鉄を入れて、ビアンカが続けた。
「違うのよー。わたしたちまた暫く遠出するから、全員で挨拶しておこうと思ったのー」
「そっかあ、ビアンカちゃんも苦労するね。ほら早く親父さんのとこに行っておやりよ、寂しがってたから」
「いつもありがとう。助かってるわ」
「いいよ、親父さんのことは気にすんな。おれらに任しとけばいいさ」
 にこりと爽やかな笑みを浮かべた青年に見送られるようにして、一行は更に村の奥を目指す。

 その一連のやりとりを観察していたアンジェリークが、つんつんとルヴァの袖を引いた。
「ね、ルヴァ。さっきのあのお兄さんなんだけど……」
 声を潜めたアンジェリークにそっと耳を寄せた。
「たぶんあの人、ビアンカさんのこと好きだと思うのー」
「ええー? そうなんですか? 私には、ごく普通にいい方のようにしか見えませんでしたが……」
「んー、なんかね。直感」
 あの彼はリュカや子供たちには目もくれず、ビアンカだけを穴が開きそうなほど見つめていた。単に付き合いが長いというだけではないような熱いまなざしだったのは、気のせいだったのだろうか。
「まあビアンカさんは美人で気立てもいいですしねー。好かれるのは当然でしょうねえ……ああ良かった」
 とことこと歩きながらルヴァが胸を撫で下ろし、アンジェリークを優しく見つめた。
「なにが?」
「あなたがこの村にいなくて良かったなあ、と。もし仮にここに住んでいたら、あなたの信者が一体何十人に膨れ上がっていたことか……」
 口元に手を当ててぷっ、と小さく吹き出したアンジェリーク。
「まさか。そんなことないわよ……それに、ルヴァがいないんならどこに住んでいたって同じだわ」
 そう言ってアンジェリークは零れるような微笑みでもってルヴァを見つめ返すと、繋いでいた手に僅かに力がこめられた。

 ビアンカが扉を開けた瞬間、子供たちが一斉にばたばたと駆け出した。
 その大きな物音に驚いたのか、目を丸くさせてこちらを見つめる男が二人いた。
 子供たちの姿を目に留めた途端にふんわりと微笑んだ年配の男と、その向かいに若い青年。
「お祖父ちゃーん!! 遊びに来たよーっ!」
 双子らしく一言一句ぴたりと息の合った言葉で室内へと進んでいく。
「おお、ティミーにポピーか! ははは、元気そうだなあ。お父さんとお母さんはどうした?」
 年配の男が駆け寄った子供たちを抱き締めて笑う。彼がビアンカの父、ダンカンだろう。
 その後ろからゆっくりとビアンカとリュカが入っていく。
「もーっ、あんたたち煩く走らないの! びっくりしてお父さんの心臓止まっちゃったらどうすんのよ! ……ごめんねお父さん、急に押しかけちゃって」
「ご無沙汰してます、お義父さん」
 ぺこりと頭を下げてはにかむリュカへ、ダンカンの穏やかな声がかかる。
「リュカ、元気にしていたかい? ビアンカが迷惑をかけてないといいんだが……」
「ちょっとお父さん、どういう意味!? ……それはともかくね、今日はお友達を二人連れてきたのよ。向こうの宿に皆で泊まっていくからね」
 ビアンカから出た友達という言葉にダンカンが更に目を丸くして、アンジェリークとルヴァへ視線を流した。
「うん? おまえが友達を呼ぶなんて、珍しいこともあるもんだなぁ。こんな辺鄙な村へよく来てくれました。何もないところですが、どうぞゆっくりしていって下さい」
 さっと一礼をしたアンジェリークが笑顔を浮かべる。
「初めまして、わたしはアンジェリークと言います。こっちは……お、おっ、夫の……ルヴァです。突然お邪魔してしまってごめんなさい」

 アンジェリークはルヴァのことを夫と説明するのにとてつもない勇気が必要だった。
 今現在女王と守護聖の立場を守りながらの生活ゆえに、夫どころか恋人とすらおおっぴらに言ったことがない。
 余りの気恥ずかしさに耳まで真っ赤に染め上げて、両手を握り締めている。
 実はまだ夫婦ではないとリュカとビアンカはもう知っているが、他の人間に知らせることでもないと黙っている。
 そしてルヴァはそんな彼女の可愛らしい反応にすっかり舞い上がり、嬉しそうに肩を抱いた。

 二人と軽く握手をかわしてダンカンは人懐こい瞳を細めた。
「この村の温泉はなかなか通向けでね、密かに人気があるみたいですよ。混浴だけど今の時期は人が少ないから大丈夫」
「まあ、そうなんですか。わたしたち温泉に入るのは久し振りなんです。楽しみー!」

作品名:冒険の書をあなたに 作家名:しょうきち