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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに

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 ダンカンがにこにこと愛想のいいアンジェリークと話を弾ませているところへ、リュカがこっそりとルヴァを手招きしてそっと耳打ちしている。
「……行きますよ、たぶんできてる筈なんで」
 その言葉に小さく頷き、二人はビアンカのほうへと視線を走らせる。視界の端でその視線を受けて、ビアンカが話を切り出した。
「ねえお父さん、お昼食べた? まだだったら皆で食べましょ。アンジェさんは料理が得意だって聞いたけど、良かったら一緒になんか作りましょうよ!」
 その言葉にダンカンが笑顔で頷き、子供たちは大はしゃぎをしていた。それを見てアンジェリークもくすくすと笑っている。
「アンジェ様の手料理!? 食べたーい! わたしもお手伝いします!」
「ぼくも手伝うから、一番に味見させてー!」
 ビアンカが子供たちの元気な声に負けないくらいの威勢のいい声でこぶしを突き上げる。
「じゃあまずは何を作るか会議するわよー!」
「はーい!」
 全員が手を挙げて答え、賑やかに食べたいものを言い合っている。そこへリュカが割って入った。
「ビアンカ、ぼくたちは何か野菜とか貰ってこようか」
「そうね。肉は干し肉があったからそれ使うし……先にパンの仕込みをしとくから、根菜と葉物を適当に貰ってきてくれる? トマトは多めに持ってきてね。あっ、あとはナスとインゲンとえーっと」
「お父さん、ぼくスイカ食べたい!」
「クレソンいっぱい摘んできてー」
 ビアンカだけではなく子供たちからも矢継ぎ早にリクエストが出され、リュカが苦笑いの表情になった。
「えー。覚えるの面倒だから、ルヴァ殿代わりに覚えておいてくれますか」
「はいはいー、トマト多め、インゲン、ナス、スイカにクレソン多めですねー。あとは根菜と葉物を適当に……っと」
 ルヴァが手帳にさらりと書き付けてポケットにしまったのを見届けてから、二人は外へと出て行った。
「それじゃ行ってくる。いやー今日は男手が増えてるから楽だなあー」

 ぱたりと扉を閉めて、ルヴァとリュカがすかさず目配せをし合った。
 すたすたと土階段を下りながらルヴァが口を開く。
「あ、あの……本当にできてるんでしょうか。余りにも期間が短いと思うんですが」
「大丈夫ですよー、そっちはプロ中のプロですから。それより問題はルヴァ殿の服のほうですね。なんとかなってるといいんだけど」
 村の出入り口のほうへどんどん下って二人は右へと曲がり、よろず屋という看板のある洞穴へリュカが声をかけた。
「すみませーん、昨日の者です。例のものを受け取りに来ました」
 奥にいかつい顔をした小柄な男が座り、リュカの声が響いたところで机から顔を上げた。
「あぁお客さん! シルクのヴェールならもう用意してあるよ、見てみるかい」
 洞穴の奥には棚があり、注文が殺到しているのだろう、受け取り待ちの出来上がったヴェールが綺麗に並べられていた。
 繊細なヴェールが引っかからないように木箱の内側は豪華な布張りになっている。
 よろず屋の主人がそっと箱を開けてヴェールを取り出し、ルヴァに手渡した。
 ルヴァはどこにも引っ掛けないように、そうっとそうっと持ち上げてその滑らかな手触りを確かめる。
 そしてリュカと主人とを交互に見つめ、困惑した表情のまま訊ねた。
「あ……の、これ、本当にいいんですか……?」
 よろず屋の主人がそのいかつい顔に人懐こい笑みを浮かべて二人へと視線を返す。
「いいさ、これは半年後の受け取り予定のだからね。納期は長めに貰ってるから、今から作っても間に合うんでな」
 ふう、とリュカが息を吐いた。
「まずは第一関門突破ですね。あとはお昼を食べたらまた抜け出しましょう。ご主人、無理を聞いて下さってありがとうございました」
 二人は笑顔で頭を下げてよろず屋を後にした。

 馬車の隅に箱を隠してから、その足でビアンカたちに頼まれた野菜を貰いに行く。
「昨日の今日で本当に間に合っていましたねー、驚きました。まさか一日でヴェールを作るのかと思っていましたが……そちらは既に出来たものがあって、木箱を用意する時間が必要だったんですね」
 ヴェールにほつれや虫食い・汚れがないかの確認、そして木箱への名入れ作業で一日程度かかることを、リュカは経験上知っていた。
「元の注文者の名前入りでしたからねー。さすがにそれはダメでしょってことで、本当は他の人の分でしたけど、そこを『お願い』して順番を先にして貰っただけですからね」
 ニヤ、と口の端を上げてリュカが笑う。
 彼の言う「お願い」とは────紛れもなく袖の下のことだ。
 通常通りに注文をしていたら当然間に合う筈がないものを、リュカは穏やかに微笑みながら大金とすごろく券の入った袋をそっと握らせたのだった。
 そのときの妙に手馴れた様子を思い出してルヴァがくすくすと笑う。
「あれは堂に入っていましたねえ……いやはや」

作品名:冒険の書をあなたに 作家名:しょうきち