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永遠にともに〈グリプス編〉6

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section 9

キリマンジャロ基地攻撃作戦を終え、次々とモビルスーツがアウドムラのモビルスーツデッキへと着艦する。
Zガンダムを抱えたアポリー中尉とロベルト中尉のリックディアスが着艦した後、マニュピレーターにカミーユとフォウを乗せた百式が着艦した。
デッキのハッチが閉められ、安全が確認されたところでマニュピレーターのカミーユとフォウを降ろす。
カミーユは、もう動かないフォウの身体を抱きしめ、肩を震わせて涙を流し続ける。
そんなカミーユの元に、百式のコックピットから降りたアムロがシャアに支えながら歩み寄る。
ティターンズの黒いノーマルスーツに身を包んだアムロを、カラバのメンバーが訝しげに見つめるが、それを気に止めることもなく、カミーユとフォウの元まで行く。そして、ゆっくりと膝をつき、フォウの顔を覗き込む。
「フォウ…」
まるで眠っているかのような穏やかな頬にそっと手を伸ばす。
「記憶を…ちゃんと戻してやれなかった…。」
アムロの琥珀色の瞳に涙の膜が張る。
「ごめんな…、フォウ。」
「アムロ…」
そんなアムロの肩にシャアが手を置き、身体を支える。
「オレの所為で…、あんな辛い実験をさせられて…記憶も奪われて…ごめん、ごめん」
アムロの頬を涙が伝う。
「アムロさん…」
そんなアムロをカミーユが見つめる。
「…フォウが…フォウが最期に…本当の名前を教えてくれたんです。アムロさんが思い出させてくれたって…凄く喜んでました…。」
「カミーユ…」
カミーユは涙を浮かべて微笑む。
「凄く…綺麗な名前でした…。」
「カミーユ…!」
カミーユはフォウを横抱きにして立ち上がる。
そして、フォウの穏やかな顔を見つめると、視線をシャアに向けた。
「大尉…、僕はもう、あなたをクワトロ大尉とは呼びません。あなたは、シャア・アズナブルに戻るべきだ。」
もう、こんな悲しい事が起こらない為にも、この戦いを終わらせなければならない。
「そうだな…」
シャアは顔を隠すスクリーングラスを外し、カミーユに答える。
カミーユはその顔を一瞥すると、モビルスーツデッキを後にした。
2ヶ月程前、エゥーゴの指導者 ブレックス・フォーラがティターンズにより暗殺された。
その後を継ぐ後継者と成り得る人物は、今のエゥーゴにはシャアをおいて他にはいない。
しかし、エゥーゴの代表となる以上、偽りの姿ではいられない。エゥーゴの指揮を上げ、スペースノイドの独立を樹立する為には素性を明かし、シャア・アズナブル、いや、キャスバル・レム・ダイクンとして立ち上がらねばならない。
しかしそれは、シャアにとってあまりにも大きな重責だった。
そして、先日、アクシズのハマーン・カーンも地球圏へと帰還した。今後は、エゥーゴとティターンズ、そしてジオン、その3つの勢力による戦いとなる。
元々アクシズからジオン復興を目的として地球圏へと帰還し、連邦に潜入したシャアたちだったが、実のところジオンの復興はどうでも良かった。むしろ、ジオンという独立国家の復興は過去のザビ家による独裁政権の印象から、スペースノイドの独立の弊害になるかもしれないとさえ思っていた。
シャアはこの複雑に入り混じった状況に困惑し、一歩を踏み出せずにいたのだ。
そんなシャアをアムロが見上げる。
「シャア…」
シャアは少し困った様な笑顔を浮かべ、アムロを見つめる。
アムロは立ち上がり、シャアに言葉をかけようとするが、その瞬間激しい目眩が襲う。ガクリと膝を折り、倒れこむアムロをシャアが慌てて支える。
「アムロ!!」
ハヤトが駆け寄り、医務官の手配をする。
「クワトロ大尉、アムロを医務室へ!」
「分かった!」
シャアはアムロを抱えると医務室へと向かった。

医務室では点滴を受け、蒼白な顔のアムロがベッドに横になっている。
「ドクター、これはアムロに投与されたと思われる薬品の一覧だ。」
シャアはナナイからの報告にあったデータの一部をドクターに見せる。
「マインドコントロールも受けていた。」
ドクターはその一覧を見ながら眉をひそめる。
「なんだこれは…!こんな無茶な投薬をしてよく正気を保てたものだ…」
ドクターはアムロの腕から血液を採取すると、今現在、アムロの身体に残存している薬物を調べる。
「まだ、体内にかなり薬物が残存しています。しばらくはマインドコントロールを受けていた時の状態が現れたり、幻覚症状を起こす危険があります。アムロ中尉には監視を付けないければならないかと思います。」
ドクターのその言葉にシャアとハヤトが厳しい表情を浮かべる。
「ハヤト艦長、カイ・シデンから連絡は?」
「それがまだ…。」
オーガスタ研究所の元研究員、アーネスト・フォースに連絡を取る為、アウドムラを離れたカイ・シデンからまだ連絡が来ない。
アムロを見つめながら、シャアの拳が苛立ちに震える。



ーーーー
『ここはどこ?』
真っ暗闇の中、アムロは佇む。
いくら目を凝らしても何も見えない。
前も横も足元すら見えない暗闇にアムロは恐怖を感じて両腕で体を抱える。
『ここは嫌だ!シャア!助けて!』
すると、不意に右手にズシリと重みを感じる。
それは黒く重い銃だった。
突然、目の前が開けたと思った瞬間、頭の中に「撃て!」と言うシロッコの声が響いた。
アムロの身体は自分の意思を無視して勝手に動き、銃を発砲した。
その瞬間、自分の頬に暖かい血が飛び散る。
そして、目の前には胸から血を流すシャアがその胸元を押さえ、アムロを見つめながら、まるでスローモーションようにゆっくりと地面に倒れていく。
自分の足元に横たわる愛しい人の姿に、目の前が真っ赤に染まった。
『あ!ああああああああ!!!!』

ーーーー

「アムロ!!」
眠っていたアムロが急に叫びだし、慌てて肩を抑える。
「あああああああああ!!!!!」
暴れるアムロをシャアは全身を使って抱え込み、ベッドに押さえつけるが、小柄なアムロが信じられないような力でシャアをはね除ける。
「あああああああああ!!!」
騒ぎに気付いた医師とハヤトと3人がかりで抑え込み、医師がなんとか鎮静剤を注射してアムロからようやく力が抜けた。
しかし、アムロは虚ろな目を天井に向け、まだ何か幻覚でも見ているのか、その瞳からは涙が溢れて頬を伝う。
「嫌だ…やだ……誰か…オレを…殺して…」
アムロのその言葉にシャアは目を見開くと、アムロの肩を掴んで叫ぶ。
「アムロ!!アムロ!!」
シャアの声にゆっくりとアムロが視線を向ける。
「シャ…ア…?」
「ああ、そうだ。ここにいる、だから…」
「貴方…生きて…る…?オレ…貴方を殺して…無い…?」
アムロの瞳からは涙の粒がポロポロと零れる。
「アムロ?」
アムロの手が、基地内でシャアに向け銃を発砲した際に出来た頬の傷へと伸びる。
「オ…レ…、シロッコの声に…逆らえなかった…。貴方…に銃を向けて……ごめん…」
「そんな事は無い。君は精一杯抵抗していた。そうでなければ、あの至近距離で君が狙いを外す筈がない。」
シロッコにシャアを撃つように命令されて、意思とは関係なく身体が動き、シャアに向けて銃を発砲した。
辛うじて手を少し逸らしたが、その弾はシャアの頬をかすめて傷を付けてしまった。