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永遠にともに〈グリプス編〉6

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「ララァの時のみたいに…また…大切な人を…この手で殺してしまったと…。」
シャアの傷へと伸ばした手が震える。
その手をシャアは掴むと、そっと口付ける。
「ララァの死は君だけの所為ではない。私の所為でもある。だからそんなに自分を責めるな。」
「シャア…」
そんな2人のやり取りを見つめながらハヤトは言葉を失う。
『2人は一体どう言う関係なんだ…?まるで…』

ハヤトが思考に耽っていると、そこへブリッジから連絡が入る。
《艦長!カイ・シデンから暗号電文が入りました。至急ブリッジまでお願いします。》
ハヤトはシャアに視線を向け、頷くとブリッジへと走って行った。
「ハヤトが…居たんですか…?」
「ああ」
動揺のあまり、ハヤトの存在に気づかなかった。アムロは手で顔を覆い、溜め息を吐く。
『バレたかな…』
「アムロ?」
「…何でもない…少し…眠い…」
「ああ、少し休むと良い。私はここに居るから心配するな。」
「うん…」
アムロは目を閉じると、すぅっと眠りに落ちていった。



しばらくすると、カイからの電文を持ってハヤトが医務室に戻ってきた。
「カイから連絡が入りました。先ずは、アムロの事ですが、ヨーロッパの知人のところに例の研究員を連れて来ているので、来て欲しいとの事です。」
「ヨーロッパ?」
「はい。」
「しかし、アーネスト・フォースを地球に連れて来られたとは…、連絡が取れれば良いくらいに思っていたが流石だな。」
「これからアウドムラの進路をカイとの合流地点に向けます。但し、上陸は流石にまずいのでアウドムラは地中海上で待機し、小型機でアムロとクワトロ大尉、そして、カミーユの3人で向かってもらいます。」
「カミーユ?」
ハヤトはそっと目を伏せる。
「あのフォウって子を埋葬したいそうなので、一緒に連れて行ってやって下さい。先方にはその旨を伝えてあります。」
「…そうか…、分かった。」
「それからもう一件、エゥーゴのブレックス准将が暗殺された事を知った地球連邦政府議会は、リーダーを失ったエゥーゴの衰退を危惧してティターンズの指揮下に入る法案を議決しようとしているそうです。」
「何!?」
「2週間後にダカールで行われる議会で議決する予定だそうです。カラバとしては何としてもこれを阻止し、エゥーゴの新たなる指導者を世界に知らしめる必要があります。」
ハヤトの言わんとしている事を察し、シャアが頷く。
「そうだな…。そろそろ腹を括らねばな。」
シャアは眠るアムロの顔を見つめ溜め息を吐く。
「あまり気がすすみませんか?」
「…私には荷が重い。」
シャアは苦笑いを浮かべて呟く。
「そんな事は…。今のエゥーゴにはあなた以外に指導者となる人間はいませんよ。」
「ハヤト艦長。買い被りすぎだ。私はただのパイロットだよ。」
そして、眠るアムロの髪をそっと撫ぜるとアムロがその手に頬をすり寄せた。
その仕草に、少し表情を緩めシャアが微笑む。
「しかし…、アムロが側で支えてくれたならば…」
「アムロと貴方は…」
と、ハヤトは言いかけて口を閉じる。
「いえ、それではクワトロ大尉も休んで下さい。明日の昼頃には到着の予定です。」
「了解した。」
ハヤトは軽く会釈をして医務室を出て行った。

「さっきのアムロの溜め息の原因はこれか…。確かに彼には受け入れ難いだろうな…。」
シャアは眠るアムロの額にそっとキスをする。
「しかし、誰に認められずとも君を手放すつもりはない。やっと手元に取り戻した…。」
そして、首筋に残るシロッコとの情交の痕を指でなぞると、そこに唇を寄せて強く吸い付き、上書きしていく。
「パプテマス・シロッコ…!貴様だけは許さん!」
シャアは赤く燃える闘志を憎い男へと向けた。


その後もアムロは何度も悪夢に魘され、幻覚に襲われた。まともな睡眠も取れぬまま、シャアはアムロとカミーユ、そしてフォウの遺体を乗せ、小型艇でカイ・シデンとの合流場所へと向かった。
海岸沿いに建つその白い豪奢な屋敷のヘリポートへと小型艇を着陸させ、小型艇を降りると、カイ・シデンが手を振りながら近寄って来た。
「よう!すまねぇな。わざわざ足を運んで貰って。」
「いや、構わんよ。」
シャアはカイと握手を交わす。
そして、シャアに支えながら立つアムロに視線を向けると、ガシガシとアムロの頭を撫ぜ、ホッとした表情を浮かべる。
「無事とは言えないみたいだが、もう一度お前に会えて良かったよ。」
「カイさん…、心配かけてすみません。」
3人が挨拶を交わしていると、フォウを抱きかかえたカミーユが小型艇から降りてくる。
「あの子が例の…?」
「ええ…。可哀想な事をしました…。」
泣きそうな顔をするアムロの肩を叩くとカミーユの元に向かう。
「案内する。こっちへ」
カイは3人を屋敷の中へと案内する。
屋敷内に入ると、家令の男性がカミーユとフォウを別室へと案内した。
シャアとアムロはカイと共に客間と思われる一室に向かう。
すると、アムロとシャアがその先に居る人物の気配を感じ、立ち止まる。
「カイ・シデン…。君の知人というのはまさか…。」
複雑な表情のシャアに、カイは肩を少し上げ、小さく溜め息を吐く。
「ニュータイプっていうのはすごいな。あの人も、小型艇が目視できる前にあんた達を感じてたよ。」
カイはそう言うと視線を前に戻し、目的の部屋へと廊下を進んだ。
そして、突き当たりにある扉の前に立つとコンコンっとノックをする。
「どうぞ」
部屋の中から懐かしい声が聞こえてきた。
その声に、シャアの脳裏に幼い頃の声の主の姿が映し出される。
テキサスコロニーであの日、行かないでくれと泣く手を振り払って復讐に生きた。
戦時中、焼け落ちたテキサスコロニーの屋敷の前で、自分の事は忘れろと、また背を向けた。
そして、最後に会ったのはア・バオア・クーでアムロと剣を交えた時だった。
あれから何年の月日が経ったのだろう…。
シャアはその場に立ち止まり、アムロを支える腕に力を込める。

扉を開け、カイに中へと入るよう促されるが、シャアは足を踏み出す事が出来ない。
そのシャアをアムロは見上げるとそっと微笑む。
「前に言ったでしょう?きっと会えるって。会いにくいのは分かるけど、セイラさんの方から連絡をくれたんだよ?大丈夫。オレが側にいるから…。」
アムロのその言葉に心の中の重い枷が少し軽くなる。
シャアはアムロを見つめ少し笑みを浮かべると足を踏み出した。
部屋に入ると昔と変わらない、懐かしい姿が目の前にあった。
セイラはシャアを見つめると、なんとも言えない表情を浮かべるが、シャアに支えられたアムロを見つめ、少し微笑む。
「お久しぶりね。兄さん、アムロ。」
「アルテイシア…」
「セイラさん。お久しぶりです。」
「どうぞ、こちらにいらして」
セイラは2人をソファへと案内する。
そこには、アーネスト・フォースの姿もあった。
「アーネストさん!」
「アムロ君!!」
アーネストはアムロの元へと駆け寄ると、その姿に安堵の笑みを浮かべる。
「良かった!ムラサメ研究所に送られたと聞いて心臓が止まるかと思ったよ。」
「無事に…とは言えませんがなんとか生きて帰って来られました。」
「うん。本当に良かった。」