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子犬のワルツ。

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滑らかな音色。
開けた窓から流れ込む風も心地よく頬を撫でた。
3月になってようやく気候も穏やかになり、窓を開け放っても指先がカタカタいう事はなくなりました。
同じ部屋の彼女はただひたすらに目を閉じて私の弾いている曲を聞いていました。


ピアノを弾くのが昔から好きでした。昔の昔はオルガンでしたけど。
ピアノに限らず楽器を弾くのが好きです。一番の理由はやっぱり音楽が好きだからなんでしょうが、楽曲を奏でている間は何も考えなくて済む、というのは大きいです。私はこう見えて悩むのが嫌になる時があるんですよ。あら、見抜かれてました?

あの時もそうです。
私はその事柄について悩むのが嫌になっていたんです。
そんな私の性格というか性質を知ってる彼女はひたすらにピアノに向かう私を心配してかずっと一緒の部屋でピアノを聞いてました。まだ体調も万全じゃないのに。
彼女の国は先にソ連に対する暴動があったがそれも失敗に終わりました。
案の定というか彼女は納得いかない様子でした。
そんな顔をされるとこっちが心配になってきます。

「エリザ」
「・・ッ、はい!なんですか?」
「トルテを作りますので手伝ってください」
「はいッ」

にこりととりあえず笑顔で返事をしてくれた彼女に安堵して、台所に移動しました。
少し前に一緒に暮らしていた2人は私が料理をすると爆音が鳴ると言って苦い顔をしましたが、あの頃は彼女にそう言うとと笑顔で『ちょっと急に用事ができました』とフライパンを構えて彼らの部屋の方へ走り去るので、まあ・・多分、鳴ってるのでしょう。自覚はないですが。
・・・彼女がフライパンを構える姿ももうしばらく見ていないですね。

「ローデリヒさん?」
「ああ、いえ。なんでもありませんよ」
「・・なんだか、おかしいですね・・・私もローデリヒさんも」
「・・・ルートヴィヒの家に、行ってみましょうか。トルテを持って」

確かに彼女が言うとおり、私たちはどこかおかしかったことでしょう。
でも彼女の言葉を聞いて、幼い頃から姿を見ているあの子がどうなっているのか心配になったんです。正直、自分たちのことで手一杯でした、何かが。

作品名:子犬のワルツ。 作家名:桂 樹