二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
くるまる。
くるまる。
novelistID. 63195
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

【英仏】君に愛を告ぐ

INDEX|1ページ/2ページ|

次のページ
 

腐れ縁のアイツと付き合い始めたのは何年前からだったか。
久しぶりの休み。さわやかな風のふくカフェのテラス席で、一人カフェオレを飲みながらのんびり読書。そんな絵にかいたような穏やかな午後、俺の頭に一人の太眉の自称紳士の顔が浮かんだ。
たしか、告白はアイツからだったと思う。ただムードもへったくれもなくて、二人で呑みに行く道中で、
『なぁフランシス』
『んー?』
『好きだ』
みたいな、そんな感じの流れだったはずだ。やつはすぐそっぽを向いたけど、隠せなかった真っ赤な耳が全てを物語っていて、こっちまで気恥ずかしくなったのを覚えてる。
アイツは今もそうだけど、ちょっとめんどくさいだけで悪いやつじゃない。なんとなく「俺に気があるかなー」とは百年くらい前から思ってたので、驚くことなく俺はその場で付き合うことにOKした。これにはむしろアイツの方が驚いていたっけ。アイツはかなり感情が表に出るタイプなのだが、どうもその自覚はないらしい。隠し通せてると思ってる辺りが、アイツらしいといえばそうなんだけど。
だがやつでも、外交の場ではとにかくパーフェクトだ。笑顔の面をつけて、外面を飾りまくる。そのときばかりは流石の俺もアイツの考えてることがわからない。本当にたいしたやつだ。
ちょっと嬉しいのは、アイツは俺のまえでは外面を飾ることはない。まぁ呑んだくれた後はもうちょっと飾ってくれても良いが、つまりはそれって、俺の前ではリラックスしてくれてるってことだろう? これは密かな、俺の自慢だ。
「………………。」
カフェオレをひとくち。読むわけでもなく本に目を落とす。
「………………。」
…………自慢だとか思ってたのが、大体2ヶ月前まで。
2ヶ月前の蒸し暑い日の夜。アイツは俺に1つの宝石をプレゼントしてくれた。
『これフランシスに』
それは真っ赤なルビーのついたブローチだった。
男性も付けれそうなデザインのブローチで、きっと考えて選んでくれたのだろうと素直に嬉しかった。……喜んでお礼を言って、アイツの顔を見るまでは。
アイツの顔は、二人きりのときでは初めてみる、能面のような張り付いた笑顔だった。
『フランシスにならそれ似合うと思ってさ』
言葉も急に薄っぺらく感じた。なんで?どうして?嫌われた?
与えられたプレゼントと態度の差に不安を覚えた。でも告げれなくて、今にいたる。
今日までに、やつは俺に他にも宝石を寄越した。
はじめのルビーに続いて、エメラルドのネックレス、ガーネットのネクタイピン、アメジストのカフス、ルビーのピアス。この2ヶ月、お互いに忙しくて二人きりで会えたのは五回だけ。つまり会うたびに宝石をもらっていたことになる。
そのうちに、その高価なプレゼントが、アイツからの別れる前の手切れ金のように思えてきた。もともと貢ぐ癖のあるやつならまだしも、アイツはそんなタイプじゃない。バラの花は祝い事のときなどにあわせてよく送ってくるが、それは家で懇切丁寧に育てているもので、宝石の贈り物とは一線を画する。だからなおさら、その考えは妥当なように感じた。
幸いにも今までの五回のデートでは、別れ話は出ていない。
「いつから……」
思わず声に出た。いつから、こんなにもアイツのことを恋い焦がれるようになったんだろう。付き合い始めたときからアイツのことは好きだったけど、ここまでどっぷり浸かってはいなかったはずだ。
というか、こういう国という立場を背負っている以上、未来永劫この関係が続く訳ではないことは知っていた。だから『適度に』付き合おうと、自分は決めていたのに。
深い溜め息が出た。幸せが逃げるかもなぁとかぼんやり考えて、キュッと口を閉じた。今日幸せに逃げられてはたまらない。なんてったって、今晩はアイツとの六回目のデートなのだ。約束の時間は午後7時。現在時刻は大体午後2時。
別れ話を切り出される覚悟もしつつ、それでも捨てきれない思いを苦い気持ちで抱いて、俺は手をあげた。気が滅入ってしまった。このあとはショッピングでもするとしよう。
「ウェイター、会計を頼む」
「ウィ、ムッシュー」
答えたウェイターが少しだけアイツに似ていて、ほんのちょっとだけ胸が痛かった。




さて、時計の表示は19:04。約束のレストラン。
アイツはもう先に座っていた。
「ごめんアーサー遅くなった。電車の事故があってさ。待たせたね」
「…………あぁ」
この時点で妙だと思った。いつもなら、普段のアーサーなら、遅せぇよ馬鹿とか連絡くらいよこせとか言うはずだ。
予感は、半分くらいあたった。
「……まぁ、おまえに怪我がないんならよかった。座れよ」
まただ。また、あの張り付いた笑顔だ。だけど、その瞳の奥に少しだけ不安な光が揺れたのは気のせいだろうか。
とりあえずうながされるまま席についた。
「……アーサー、あのさ」
話しかけてアーサーの顔を見て、はっとした。
「ん?」
アーサーの顔は普段のリラックスした表情だった。なんなんだ、わけがわからない。この分かりやすい表情の差はなんだというんだ。
「フランシス?」
「え? あ、あぁ聞いてよ!このまえギルちゃんとトーニョがね…………」
ぬぐいきれない疑問を抱えつつも、俺とアーサーはたわいもない話に花を咲かせた。前菜、スープ、魚料理、グラニテ、肉料理、とフランス料理のフルコースに舌包みをうちながら、何事もないまま着々と時間は過ぎて行く。こうして二人で食事をとるのもかなり久しぶりだったため、心からこの穏やかな時間が最後まで続くことを願った。
だがそうはいかないのが世の常で、大体料理を食べに行けば、それはデザート後というのが定石である。
「フランシス」
きた。
「なーに?」
アーサーの顔が能面にすり変わった。
「あのな……これ。」
そういってスッと差し出したのは、小さなプレゼント包みだった。
「おまえに。」
「…………ありがとう」
微妙な心境で受けとる。それをテーブルの脇にちょうど置いたとき、アーサーが口を開いた。
「……あのなフランシス。俺、ずっと考えてたんだ」
「……!」
この展開は初めてだった。胸がざわつく。
「永いときを一緒に生きるって、きっと辛いことのほうが多いよな。」
「……えっ……」
「俺達は国だ。上司が変われば俺達の向く先も変わるし、ずっと一緒にいられるわけじゃない」
「…………」
「移ろいやすい、ゆっくり流れる川みたいなもんだ。川は流れるうちに別れたり、一緒になったり。結局は海にわたるだろうが、それに至るまでは経過が沢山あるんだ。」
わかってる。
「俺達の気持ちじゃないんだ。もうそればっかりはしょうがないこともある。」
わかってるよ。
「だから……」
アーサーは飾ったような顔をして微笑んだ。やめろ、そんな顔で、そんなこと言うな。
「フランシス」
もう、限界だ。
「わかった。わかったよアーサー、もういい。」
「えっ」
「別れたいんなら回りくどいこと言わないで、そのまま言ってくれたほうが楽だよ、お互いに」
「はぁ? おまえなんでそんな話に」
「だから、別れたいんだろ、俺と。」
「なっ、ちがっ……ておまえ」
アーサーが息をのむのがわかった。
「なんで泣いて……」