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神殿長ジルヴェスター(11)

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ジルヴェスター視点



 マインの事で愛妾関連ではない、重要な話があると言ったフェルディナンドがある魔術具を持ってきたのは今の事だ。
「さて、マイン、これを飲みなさい。」
 魔術具と共に出された薬。それらが何なのか、直ぐに分かる。
「フェルディナンド!! 其方、何を考えているのだっ!!?」
「神殿長?」
「落ち着け、ジルヴェスター…。マイン、君に聞きたい事があるのだ。」
「落ち着けるものではなかろうっ!!」
「うるさい。マインを守る理由がいるのだ。エーレンフェストの為だ、耐えろ。」
「なっ、」
「ジルヴェスター、其方はマインの価値を示した。だがそれはマインを優遇する理由にはなるが、守る理由には不十分だ。」
 私はフェルディナンドの言葉を吟味する。1つの可能性に気が付いた。
「マインに危険が迫るかも知れないからか?」
「え?」
 マインが不安そうに私達を見上げる。
「君は君の価値を示した。それが必要な事だったからだ。
 平民が神殿で青色を纏っている事は徐々にだが広まっていた。理由も分からず、領主とその兄が大事にしているとなると、不満も出るからな。云わば君はその理由を体言した訳だ。
 だがその一方で君の魔力の強さが知られてしまった。多くの者が利用したいと考える。
 私達2人が庇護していると分かっていて、余計な手を出して来れる貴族が居ない訳では無い。
 それに君は大金を生み出す頭脳がある。何れは他領にも情報が流れるだろう。ベンノが大分君を守っているが、限界はある。他領の貴族から守るのは私達の領分だ。
 そして君を守るには私達2人に賛同する貴族が必要だ。君を直接に知らない者達が、端的に君の情報を訊けば、領地の為に利用したいと思う反面、君が牙を剥かないか、疑いも持つ。
 …危険人物と判断される場合もあるのだ。君が私達に忠誠を誓っていると判断される材料が必要になる。」
「その材料が、そちらの魔術具を使用する事になるのですか?」
「そうだ。」
 フェルディナンドの言っているのは正論で、非常に合理的だ。だが…。
「マイン、この魔術具は記憶を覗く。本来は領主が直接裁かねばならない犯罪者から、情報を取る為に使うのだ。先程、飲めと言われたのはこの魔術具を使う為に、必要となるモノだ。
 これらを使用されるのは、犯罪者扱いされると言う事だ。」
 マインは記憶を覗かれる意味を知らない。そのまま無理矢理に覗かせる訳には行かない。覚悟を決める時間も必要だろう。貴族側の計画だけを押し付けるのは違う。数日くらいの猶予はもぎ取らなければ…。
「良いですよ、別に。」
 そんな私をぎょっとさせるのは、あっさりとしたマインの言葉。
「マイン、嫌では無いのか?」
「そりゃあ良い気分にはなりませんけど、客観的に見ても私はかなり不気味だし、疑われても仕方ありませんよ。寧ろ、問答無用で排除する事だって出来るのに、態々調べに来て頂けたのですから、私に反対する理由はありません。」
 マインが本気で言ってる事くらい、私には分かる。
「自分が馬鹿みたいに思えるな…。」
 思わず脱力してしまう。
「納得したなら、始めよう。飲みなさい。不味くても我慢して。」
 フェルディナンドが促す。
「うえぇぇぇ、不味いんですか…?」
 嫌そうな顔をしたマインが、薬を手に取って、鼻を摘まんで飲み出す。
「あれ、不思議ですね。飲めば飲むほど、苦味が退いてきましたよ。」
 は? 意味が分からない。何故だ。思わずフェルディナンドと顔を見合わせたのだった。

 魔術具を着けて長椅子で眠ったマインに、フェルディナンドが覆い被さる形で、魔力を流し込む。
「抵抗が無い…。何故だ、少しは警戒しろ。」
 無意識に出ただろう、フェルディナンドの呟きにぎょっとする。幾ら染めやすい薬を飲んでいるとは言え、あり得ない。いや、そう言えば苦味が退いたと言っていたが…。
 そんな事を考えている間に、フェルディナンドはマインの精神へと入り込んでいた。

 子供の頭の中等、直ぐに覗き終わりそうなモノだが、そこはやはりマインだからだろうか、中々に時間が掛かっていた。
 ややあって、漸くフェルディナンドが動いた。
「フェルディナンド、どうで、うおおおおおおっ!!??」
 泣いてる。あのフェルディナンドが。あの時(白の塔から出た時)以来だ。
「ど、どうしたのだっ!!?」
「うるさい。同調し過ぎた…。疲れた…。」
 フェルディナンドが乱暴に涙を拭った時、マインも動いた。
「ふわあぁぁ…、おはよーございます、領主様。…大丈夫ですか?」
 マインも泣いている。
「マ、マインっ?」
 慌てた私に、マインは大丈夫だと言いながら、涙を拭った。
「領主様、私のせいですか?」
「それ以外、何がある…。」
「…領主様、有り難うございます。」
 ? ついていけぬ。覗いた記憶に関係しているのだろうが。
「私、母さんの手料理を食べられるなんて思いませんでした。夢の中だとしても、ちゃんと謝れるなんて…。えへへ…。領主様、ぎゅーしてあげます。」
 言うやいなや、マインはフェルディナンドに――、抱き付いた。

 は? 

 目が点になっていた。そしてフェルディナンドは固まっていた。
「今、領主様の感情はグチャグチャでしょう? 私がそうなんで分かります。そう言う時はこうやって、体温を分け合うんです。…胸の音が聞こえるでしょう? 安定剤代わりです。」
 フェルディナンドの体から徐々に力が抜けていくのが分かった。…何か仲間外れになった気分だ。
 私は長椅子で抱き合う2人に近付くと、両腕を広げ、2人一緒に抱き締めた。
「2人だけで分かり合うではない。…寂しいではないか。」
「もう…、子供みたいに…。」
 マインはそう言いながらも、私を引き離しはしない。
「………。」
 フェルディナンドは何も言わなかったが、マインを抱き締めながら、私に少し体重を預けていた…。

 きっと崩壊の音はこの時に聞こえていた。けれど鼓動に誤魔化され、私は何も気付かなかった。

 フェルディナンドの態度が変わった。マインを遠ざけようとしていた頃とは正反対にマインに構う様になった。
 フェシュピールを与えたり、貴族の心構えを教えたり、ロジーナを側仕えにしろと言ったり(何故灰色巫女の特技を知っているのか謎だが)、貴族の嗜みに付いて指導し始めたのだ。
 フェルディナンド曰く、何事も備えないよりは備えた方が良い、もし私達の庇護が無くなっても望んだ生き方が出来るように、とかなり厳しく教えていた。
 飲み込みが早いマインはフェルディナンドの教えをみるみる内に吸収していく。
 フェルディナンドはもう愛妾になれとは言わぬと言い切った事もあり、マインがフェルディナンドを信頼していくのは、そう時間は掛からなかった。
 …因みにマインの知識については驚かされる一方であった。何なのだ、異世界とは。
 聞き覚えの無い曲を弾き、フェルディナンドに気に入られたのを切っ掛けに、領主相手に個人で商売をしている姿には若干引いていた私だった…。

 さて、その話は突然だった。
「はあ? 領主会議に出席しろだと?」
 何を言うのだ、一体。
「…情報源は秘匿するが、どうやらフロレンツィア様が出席なさるらしい。」