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逆行物語 第二部~ランプレヒト~

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御披露目



 お披露目の日。妹のローゼマインはヴィルフリート様の前に演奏する。その演奏順に広間の中央を舞台に向かって歩くのだが、ローゼマインはヴィルフリート様がエスコートしている状態で現れた。
 体が小さく、歩行が遅いローゼマインが前の人間に遅れない様に歩くのは、出来ない訳では無いが、負担は負担だ。ローゼマインの早さで歩ける様にエスコート、と案がヴィルフリート様から出されたのだ。そしてローゼマインの大丈夫は却下された訳だ。…私も却下したが。話をしていたら倒れた洗礼式が一気に甦ったからな。
 当たり前だが視線が多い。エスコートが理由では無いが、ローゼマインは納得するだろうか。

 ローゼマインの歌声が響いた。同時に祝福が溢れた。
(何だこれは!!?)
 意味が分からず、周囲の大人達を見る。父上も母上も、アウブもフロレンツィア様も呆気に取られているし、フェルディナンド様も眉間に皺を寄せている。誰にとっても計算外だと分かる。一体、ローゼマインは何を考えているんだっ!? この後で弾くヴィルフリート様が見劣りしてしまうっ!!!!
 思わずそう考えてしまった私はゾッとする。気付いてしまった。いや、見ない様にしていた不安を突き付けられたのだ。
 ローゼマインは魔力が強く、様々な分野で流行りを産み出す能力、領地の新事業を産み出す頭脳、そしてライゼガングの血筋がある。対してヴィルフリート様は急激に伸びたとは言え、ローゼマインの様な稀代な存在ではなく、最大の後ろ楯であるヴェローニカ様を失っている。
 …アウブはローゼマインを次期アウブに据えるおつもりでは…。
 対外的には次期アウブはヴィルフリート様に暫定されたままだが、もしかすればローゼマインの優秀さを領内に広まり切るのを待っているだけでは無いのか? 
 もし暫定を変えられたら、それは廃嫡されると同義だ。果たして側近の私は…、ローゼマインの家族として引き上げて貰えるだろうか…。

 パチパチパチパチ!!!!

 大きな拍手が、私を思考の渦から呼び覚ます。
「エーレンフェストの聖女に祝福を!!」
 誰よりも率先して称え、それを周囲に知らしめる。そんなヴィルフリート様のお言葉に、ハッとして皆がシュタープを掲げる。同時にアウブがローゼマイン様を抱き上げられた。
 微笑み、手を振るローゼマインを誇らしげに見つめ、拍手を続けるヴィルフリート様は、大きな器をお持ちだと思わされた。私は先程の焦りが消えていく事が分かる。
 …大丈夫だ。きっとヴィルフリート様はローゼマイン様を受け入れる器だと認められる。私は漸くローゼマインを心から誇らしく感じた。

 本当なら最後の演奏者になるヴィルフリート様が続く筈だったが、ローゼマインを称える時間が長引いたので、先に昼食を取る事になった。…予定外のローゼマインの祝福について、話をするのだろう。
 何にせよ、空気を変えてからヴィルフリート様の演奏があるので有り難い。
 ヴィルフリート様の曲は、ローゼマインが作った曲だが、かなり難易度が高い。ローゼマインが弾いた曲より、だ。空気が変われば、その技術に気付かれる筈だ。
 堂々と広間を歩く姿は、気後れの欠片も無く、気負っている様子も無く、隙も無い。勿論、舞台に上がり、フェシュピールを構える姿にも。

 祝福は無かったが、生まれ季節の恋歌の、その今までにない曲調と難易度は、聴衆の耳を支配した。