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逆行物語 第二部~ランプレヒト~

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見えない悪意(2)



 「そうか。更にその後、其方は全く本とは関わり無く、過ごさねばならなかった。その図書館が唯一無二で、同じ物を作る事が絶対に出来ないとする。図書館を完全に忘れ、本以外のモノに情熱を捧げ、生きていけるか?」
「無理に決まってますね!」
「ではどうする?」
「そうですね…。どうやったら私に譲り直してくれるかを考えます。図書館を手に入れる為に、あの手この手を使いますね。」
 ヴィルフリート様はそこで、1つ息をお吐きになられた。
「そうか。処でそんな状態で、私と仲が良い者が高みに昇り、その詳細を知っているなら、知らせてくれるか?」
「知らせる必要が無いなら放置ですね。」
 何とも無情なお言葉にぎょっとした。ヴィルフリート様は成程、と頷く。そして続けられた。

 「…其方にとっての図書館こそが、叔母上にとってのアウブ・エーレンフェストの地位なのだ。」

 その言葉に、私は凍り付いた。――何故、そこまでご存知なのか。
 一方でローゼマインも驚いた顔をしている。
「さて、今、其方は何を言った?」
 ローゼマインの顔色が落ち込んだ。
「知人の死も其方は先程、知らせる必要が無ければ、伝えないと言った。なら逆も叱り、此方も伝える事は無い。
 ……叔母上にとって、気持ちを理解していた大叔父上は、其方にとっては、本への熱を理解している、フェルディナンド叔父上が近い。
 さて、そんな存在の高みに昇った理由を知りたいと思うのは、不自然な事だろうか。
そして理由を説明したのはダールドルフ子爵夫人と言う話だ。果たして、叔母上はどう思っているか、其方は本当に分からぬか?
 直接関わらない様にされたのは、其方には関係無い事だからか? 成程、それなら気を張る理由もあるまい。体調が良くて何よりだ。」
 ローゼマインはギギギ、とぎこちなく動いた。
「あの……、もしかして私、かなり危険なのでしょうか。」
「殊更呑気な其方に、警戒を続けろとは言わぬ。だが最低限の危機感だけは共有してくれ。でなければ叔父上でさえ後手に回る。
 …自分から遠い場所の悪意程、恐ろしいモノは無いぞ。気付いた時には何かが手遅れになってるかも知れぬ。」
 ローゼマインが酷く動揺した顔を見せた。しかしヴィルフリート様はそれ以上は口を開かず、食事を続けた。

 食事が終わった後、ヴィルフリート様にアウブが何を何処まで知っていて、誰から情報を聞いたのか、訊ねた。
「色々逃げ回っていた間に、耳だけがユーゲライゼの祝福を受けました(耳年増)、耳だけが(誰が言ってたかは覚えていない)。」
 そんな言葉から始まり、アウブが隠したがったヴェローニカ様の情報は既に知っておられた事が説明された。また、神殿でいつの間にか得た情報もあったらしく、青色神官ジル(どうやらアウブの変装らしい)の話までされて、アウブに頭を抱えさせた。…フロレンツィア様の視線が冷たく感じる……。