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霓凰 雑記(仮) Ⅱ

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秋。
秋の虫が、名残惜しげに鳴いている。
陽が落ちるのが、日に日に早まる。
夏ならば、まだ薄明るい位の時刻だろうか。
だが今は、星の瞬く夜の始まりだった。
林殊と霓凰の住まいの中庭に、二人は佇み、落ち葉と戯れる我が子を見ていた。


✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼

前日の事だった。

黎綱が林殊のいる、林宅の書房を訪れた。
黎綱が神妙な面持ちで、林殊に話し始める。
「藺晨殿が、、、腰の具合を見てやるから、琅琊閣に来いと、、。それで、、数日暇を頂きたいのですが、、。」
「あぁ、行ってくれば良い。」
━━━何を黎綱は申し訳なさそうに言うのだ?。━━━
林殊は不思議でならなかった。
「お前には、暫く、休みもやっていない。この際温泉で体を治してきても良いぞ。数日と言わず、ゆっくりと骨休めをしてくれば良い。」
にこやかに林殊が言うと、黎綱はそれはそれは嬉しそうな顔になり、、、。
「ああ、、良かった。坊も喜びます。」
黎綱は、不思議なことを言う。
「??、どうして、坊が喜ぶんだ?。」
「坊を、琅琊閣に連れて行くと約束したんですよ。藺晨殿がこの間来た時に、琅琊閣は面白い所だと、吹聴したようで、、、。」
「ウチの坊を一緒に連れていく気か?。ダメだ。」
「えっ、私は坊に約束したんですよ。私が嘘つきになってしまいます。」
「知るか。ダメだ、連れて行くな。」
「え〜〜。坊が、あんなかぁいい顔で、行きたい行きたいとせがむんですよ〜〜、どうして断れます??、私はまだ、坊に嘘をついたことがないんです。頼みますよ〜〜。連れて行かせてください。」
黎綱も中々、食い下がる。
余程連れて行きたいとみえる。
━━━そう言えば、この前、藺晨が来た時に、酒飲み話に、私が黎綱に息子が、懐きすぎて困ると、愚痴ってしまったっけ、、。
エラく、藺晨には大ウケしたようで、暫く笑われた、、。
藺晨は息子を黎綱から、一時、離してくれるのか??。━━━
「お願いですよ〜。私が頼み事をした事、ありますか?。一生のお願いです。私を嘘つきにさせないで下さいよ〜〜。」
黎綱の懇願、、、、あまり見たくなかった、、。
「いいえ、嘘つきになってもらうわ。」
いつから部屋の外にいたのか、霓凰が入ってきた。
厳しい表情だった。
「あんな小さな子供が側にいては、黎綱さんの治療に身が入らぬわ。坊は、同じ年頃の子供より動きが多い。連れて行くなんて、無理よ。一人で行きなさい。」
厳しく言い放つ。
母親が言うのだ、これで、もう黎綱は食い下がるまいと思ったが、、。
「この通りです。連れて行かせてください。」
両の手を顔の前で、擦り合わせて懇願する黎綱、大の男が、ここまでするとは。
「ダメよ。」
「ダメだ。」
答えは決まっていた。
林殊と霓凰は、二人声を合わせて黎綱に言い放った。



ここまで、拒否されて、黎綱は渋々一人で琅琊閣に発つ。
「あの、、三日で帰ってきますから、そう、坊に伝えて下さい。」
黎綱は、急いで琅琊閣に馬を走らせて行く。
腰が悪いのに、あんなに馬を飛ばしては、余計に悪くなるだろう、琅琊閣の滞在は長引くだろう、そう林殊は思った。
黎綱が急ぐのも無理はない。
坊は、琅琊閣に行けないことにムクれて、黎綱を見送りに出てこなかったのだ。
━━━藺晨は、坊と黎綱を引き離すと言うよりも、本当に坊に琅琊閣を見せたかったのかもしれないな、、、。黎綱を呼べば、付いてくるだろうと。、、。あの日、藺晨は、だいぶ坊を気に入っていた。
黎綱と坊が琅琊閣に着いたら、、、、あいつの事だ、琅琊閣のからくりを見せまくって、坊を琅琊閣から帰さない気だったのかも知れぬな、、、、。あんな複雑なからくり、、ウチの坊が見たら虜になる。
危ない危ない、、、。━━━
琅琊閣の深部のなぞを、見てしまったら、好奇心の旺盛な坊の事だ、絶対に帰って来ないだろう、と言う予感が林殊にはあった。
何せ、坊の父親なのだ。坊が何を考えているか、お見通しだった。


坊は二人の血を引くだけあって、中々、頑固だった。
坊は、自分の部屋に篭って、朝餉も昼餉も食べず、ずっと布団の中に蹲っていた。
心配になった霓凰が、坊の部屋に行く。
その手には、坊の大好きな、甘い粟菓子の皿を持っていた。
「坊、坊、お腹がすいたでしょ。坊の好きな粟のお菓子を、特別に持ってきたわ。父さんには内緒よ。」
優しく、坊が被った布団を揺する。
「ほら、朝餉も昼餉も食べなかったもの、お腹がぺこぺこでしょう?。」
坊からの返事はなかった。
「坊?。ね。」
そっと布団を剥がそうとすると、もそもそと布団ごと動き出し、霓凰がいるのとは、反対側の寝台の端に行ってしまった。
「、、、坊、、悲しいわ、、。母さんもダメなの?。」
霓凰は、母親の自分ならば大丈夫だと自信があったが、その心は粉々に砕かれた思いだった。
「、、、そうね、、行きたかったのよね、琅琊閣に、、。」
坊の気持ちが、分からないでもなかった。
「藺爺に、どんな話を聞いたの?。
そうね、琅琊閣は不思議な所よね。母さんもまだ行った事がないから、よく知らないわ。父さんは琅琊閣をよく知っいるのよ。母さんも琅琊閣の話を聞いていてワクワクしたわ。」
坊は布団を被ったまま、身動き一つしなかったが、じっと、話を聞いているのが分かる。
「でも、琅琊閣はね、物凄い山奥にあるんですって。馬が歩けない位の。あまり人も行かない、「秘境」なんだって言ってたわ。
坊は体が利いて、駆け上がったり、よじ登ったりが得意だけど、琅琊閣までは、とんでもなく長い山道なのだそうよ。流石の坊のでも、きっと疲れて歩けなくなってしまうでしょう。
でも、疲れても、黎綱さんは坊を、背負ったり出来ないのよ。だって、腰を悪くしたでしょう?。
黎綱さんはね、琅琊閣に、腰を治しに行ったのよ。」
何の反応もなかったが、きっと、我が子は話を理解してくれた、そんな確信があった。
「母さんも、琅琊閣には行ってみたいわ。坊が、もっと大きくなったら、母さんと行きましょう。ね?。」
霓凰は腰掛けていた坊の寝台から、立ち上がる。
「坊、いい子ね。ここに粟菓子を置いていくわ。お食べなさい。」
霓凰は、寝台の側にある小机に、菓子の皿を置いて、部屋を後にした。
部屋を出てすぐ、こっそり部屋を覗いたが、布団の動く気配はない。
それもそうだろう。
お腹が空いていて、自分に直ぐに抱きつくかと、霓凰は思っていた。
だが、ここまで頑張っていれる子ならば、直ぐに食べてしまったんでは、ガッカリする。男の子ならば、ちょっとくらい、頑固を貫いて欲しいと思っていた。

一刻ほど、用事を済ませる為に、林家を離れていた。
帰宅すると、真っ先に坊の部屋に向かう。
そっと、部屋を覗くと、皿の上の菓子は無く、余程急いで食べたのか、食べかすが小机の周りに散っていた。
霓凰はくすっ、と笑う。
やっぱり子供だ、そう思った。
小机の上の皿は、空っぽだが、直ぐに皿を下げたりはしない。
こんな小さな子供でも、意地も張れる立派な男の子なのだ。
やっぱり食べたじゃない、と、霓凰が皿を下げてしまったら、きっと、この子の自尊心が傷つくだろう。
今まだ、皿も我が子も、そっとしておくのが、最善だと思った。

作品名:霓凰 雑記(仮) Ⅱ 作家名:古槍ノ標