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霓凰 雑記(仮) Ⅱ

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が、さすがに、坊は夕餉の支度の匂いに誘われて、部屋を出た。
林殊と霓凰と、三人で夕餉を囲んだが、坊は、むっつり膨れて、一言も口を利かなかった。
さっさと食事を済ませて、何処かへと行ってしまった。

林殊が食事を途中にして、こっそりとあとを付けた。
坊は、ずんずんと家の奥へと進み、中庭の木の前に立った。
樹木は落葉樹で、葉は色を変え、ハラハラと落ち始めていた。

坊の片手には、枝が握られている。
ハラハラ落ちる、落葉を一枚一枚、手に持った枝で打っていた。
林殊が教えた遊びだった。
林殊の父、林燮は日々忙しく、林殊に構う暇は無かったのだが、林燮の率いる赤焔軍の兵達が、幼い林殊とよく遊んでくれた。林殊は赤焔軍の兵達に、こんな遊びを教えてもらったのだ。

中庭に、降りる為に付けられた階段に座って、林殊は我が子の剣士ぶりをじっと見ていた。
ヒラヒラと落ちてくる落葉を一枚一枚、枝で打ち付けていく。
中々、筋はいい様だ、林殊はそう思った。
━━━ん?、ちょっと、変な癖があるな。━━━
だが、坊はまだ幼いのだ、のびのびと、剣ならぬ枝を振るう姿が、中々様になっているが、、、。
━━━まだ、癖は直さなくても良い。この子が成長し、少年剣士となり、そうしたら伸び悩む事も有るだろう。その時に教示してやればいい。今は伸び伸びと、気持ちよく剣を振るうことが大事なのだ。━━━

「あらやだ、変な癖が直ってないわ。」
不意に後ろから、霓凰の声がした。
そして林殊の隣に座った。
「この間、直してあげたのに、戻っちゃったのね。」
「??、直した??。」
「そうよ、変な癖は、早いうちに直しておかなきゃ。」
「直すな。伸び伸びして、子供らしくて良いじゃないか。」
「??、普通は、小さい頃に直すじゃない??。あなたも直されたでしょ?。」
「、、、直さないよ。」
「え?、私は小さい頃に、父から直されたわ。無駄のない綺麗な武術にしないと、姿勢を崩したり、対峙して急所を突かれたら、対処出来ないって。
あなたの剣術や槍術は、とても綺麗だったもの。小さい頃から、林主帥から指導されたんでしょ?。」
「、、、、いや?、されなかったなぁ、、。」
「え?、じゃぁ、先生は?、先生はいたでしょう?。」
「う〜〜〜ん、、、いたような、、いなかったような、、。」
「うそ、我流?。」
「物心ついたら、軍営に出入りしていたし、、、軍営の腕の立つ兵士とか、、義兄達とか、、。あ、蒙哥哥は教えるのが上手だったぞ。どちらかって言うと、軍営で鍛えられた、、、、かな。」
「、、そうね、、、主帥は、忙しかったものね。そういえば、あなたは、強い剣士と聞くと、必ず挑んでいったわね。」
「段々、それどころじゃなくなって、剣を合わせたり出来なくなったな。」
林殊の武術が綺麗だったのは、性格と素養なのかもしれないと思った。林殊は、物事の本質を見極める嗅覚が長けている。
誰に教えられるでもなく、無駄のない合理的な動き、合理的な太刀捌きが体に染み付いていたのかも知れない。無駄のない動きは、美しいのだ。そして、一流の剣士は、自ずと剣を振るう佇まいが美しく、自然に目が追ってしまうものだ。
林殊の父母を擁護するが、幼い頃、林殊の母親の晋陽公主は、ちゃんと林殊に、先生を付けたのだ。
ただ、林殊があの通りの性格で、先生の言う通りに出来なかった。
というか、性格上、言われた通りにするのか、林殊は苦痛でしかなかった。
同じ姿勢で素振りなど、大変な苦痛で、、、、続けていられない。
耐えられず、、、、先生の方が、暇を乞うのだ。
そんな事が何度か続き、晋陽公主も諦め、林殊の好きにさせていた。
後は、林燮と共に、赤焔軍の軍営に入り浸ったり、靖王の武術の先生に面倒をみてもらったり。
靖王との修練は、靖王が林殊の好敵手でもあった為、珍しく、靖王の武術の先生の話に聞き入ったり、形を学ぼうをしていた。
そして、軍営に出入りして、強い兵と勝負して、実践で強くなっていったのだ。流れ者や猛者揃いの軍営の兵は、林燮の子だからと、決しておべっかを使ったりはしなかった。
『しつこい子供』と、容赦なく、何度も打ち負かされた。
それでも、怯まず挑んで行ったのだ。
今は昔の話だったが。

琅琊閣の老閣主と藺晨の治療で、林殊の体の中の寒の気は、ほとんど抜けたが、思い出したように、かつての病が戻る時がある。
藺晨は、治療は上手くいったのだが、、長く病に冒されていた為、完全には抜けきらなかった気が、季節や体調の変化で、悪さをするのかも知れない、そう言っていた。
あまり剣を手にすることは無くなったが、修練をしなくなった今でも、武人として、剣や槍を握った感覚は消えてはおらず、剣を握れば鮮明に呼び覚まされるのだ。だが、握っては、あの頃とは違う、身体の現実に打ち当たり、苦笑せずにはいられない。



中々、我が子は筋が良かった。
ひらひらと落ちてくる落葉を、残らず打ち据えている。
「やー!、、はー!、、。」
掛け声も頼もしく、立派な剣士だな、と、霓凰と二人、微笑ましく見ていた。

「中々、筋が良いとは思わないか?。」
「でしょうでしょう!、私も思っていたの。将来、江湖に名を馳せるかしら。」
二人で笑い合った。
林殊も霓凰も背負うものが多すぎた。
この子は好きな事を追えばいい。
林殊は表向き、存在しない形で江左盟を仕切っていた。江左盟は江湖での勢力こそ大きいが、雑多な集団だった。纏め上げるにも才が要る。
坊が継いで、わざわざ苦労を背負い込むことは無い。

「ウチの大侠だな。」
「そうよ、大英雄よ。」
枝を構える姿などは、本当に様になっている。
二人とも、目を細めて見入っていた。

その時だった。
幾らか風が強くなる。
「あっ。」
「ああっ。」
坊を見ていた二人が息を呑む。
ばらばらと、落葉の枚数が増えたのだ。
「えい!、えい!!、えい!!!。」
果敢に、坊は挑んでいた。
頑張って枝で打ち据えている。
打ち方が少々ぞんざいだが、仕方あるまい。
「頑張れ。」
「もう少しよ!。」
しかし、応援する虚しく、更に風が強さを増す。
幾らか打ち逃す葉も出てきた。

そして風は何と無情な事か、、、更に強くなる。
木が揺すられ、ばさばさと葉が落ち出した。
「、、、、、。」
「、、、、、。」
暫く頑張っていたが、さすがに疲れたのか、次第に動きは鈍くなり、最後には落ちる葉を眺め、肩で息をして、ただ立ちつくしていた。
「ウチの大侠、、泣くかな、、、。」
「ウチの大英雄、、泣くわね、、、。」
暫く、二人はじっと見ていたが、霓凰が林殊に言った。
「いいえ、泣かないわ。私の子だもの。こんな事で、泣いたりなんかしないわ。」
母親だからなのだろうか、その表情は自信に満ちていた。
林殊はそんな霓凰の姿に、目を細めて笑った。

やがて坊は向き直り、顔を伏せて、二人のいる階段の方に駆け出した。
そして、座っている霓凰に、思い切り抱きついた。
「(オイ、ナイテルカ?)」
林殊が霓凰に聞く。
坊は、霓凰の肩に顔を埋めて、林殊の方からは、坊の表情は見えなかったのだ。
「(シー、キコエルジャナイ!)」

霓凰は抱っこしている坊の背中を、ぽんぽんと優しく叩いている。
作品名:霓凰 雑記(仮) Ⅱ 作家名:古槍ノ標