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キス10題(前半+後半)

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「 3唇に「大好き」のキス 」



――私は。私は、かわいくない。

 目に留まったカップルが、腕を組み、歩きながらも顔を寄せ合って、笑いながら歩いていく。

 たまたま目を惹いたカップルは、女性が男性の手を取り、早く早くと引いて歩いている。

――私は。私は、かわいく、ない。



 日本の視線を手繰るとその先は、一組のカップル。
 日本といえば、ソーサーからカップを持ち上げて、すこぉし傾けて、そのまま止まっていた。何となく声を掛けることは躊躇われて、ウエイターに水頼む振りをして、もう一度、日本の視線の先を盗み見た。なんてことない二人組み。二人のあいだには、赤い苺の目立つパフェ。視線を戻して、どうしようか悩んで、ええいと言ってしまう。

「食べたいなら、頼んでいいんだぞ」

 そこでようやくぼうっとしていたことに気がついたらしく、手にしたカップが傾いていることにもたった今気がついたようで、いろんなことにいっぺんに驚いた。

「う、わ、ぁ。あ、え? 何か言いました?」
「……いや、大したことじゃなくて。食べたいなら、どうぞって」

 日本は形のいい頭の上にはてなを浮かべて、ヒントを探しに、先ほどまで見つめていた二人組みへ視線やった。

「あ。ああ。いえ、大丈夫です。お気遣いありがとうございます」

 だいじょうぶ。大丈夫。……分かりにくい“断り”だな、相変わらず。







 ときどき日本が一人で思考の旅に出る以外は別段変わらなかった。
 同じ看板を見て笑い、フリーペーパーの同じ記事で話しこみ、横入りする車に二人して悪態をつき、老人の手を引くイートン校の少年に微笑んで、一日中デートを楽しんだ。

 キッチンで日本が夕食を作った。シャワーを浴びて、適当なバラエティ番組をはさんで談笑した。大きめにつくらせたソファに、並んで座っている。微妙な距離に心臓が高鳴ることも、触れ合う肌の温度にめまいがすることも、いまでは懐かしいと思えるくらいに落ち着いた仲になった。それでも、無関心なのではない。関心はむしろ尽きない。ずるずると身体を傾けて日本の肩に頭を乗っける。やわらかく受け止めてくれる。そのままさらに下へ、日本の太ももに頭を降ろす。上を向けば、下を向く日本と目が合った。
 その黒い瞳に、今日は何を映していたのだろう。

「なぁ、何をみてたんだ?」
「何を? 見て?」

 何を? 見て? いたのだろう。
 今見ている番組の話ではないだろうと感じた。では、日中か。私は、何を見たのだったか。
 看板に笑った。同じ記事について意見を交わした。怒ったり、和んだり。
 そして、何を見たっけ。

『食べたいなら――』

 そういえば、イギリスさんが突然そんなことを言うものだから、驚きましたね。
 私はパフェではなくて、あの二人を……。
 あ。そうか。

「見ていたのではなくて、考えごとを。すみません。一緒にいたのに」
「謝らなくても。考えごと、って?」
「うーん。内緒です」
「一緒にいたのに、一人にされたんだけど。俺」
「もう一度謝ります。すみませんでした」
「……内緒?」
「だって、くだらないことですから」
「それにしてはずいぶん真剣だったと思うけど」

 咥えていない煙草の煙をくゆらせるようにして、ふぅと息をついた。

 腕を組んで歩いたり、手を引いてスキップするみたいに歩いたり、ケーキを口に運んだり。

「しない私は、相当に可愛くないだろうなぁって思うんです」
「ごめん日本。なんか大事なもの抜けてないか? 今のじゃわからないぞ」
「ですから、腕を組んで歩いたり、手を引いてスキップするみたいに歩いだり、ケーキを口に運んだり、しないでしょう? 私」
「それが、どうかしたか?」
「可愛くないでしょう」
「えっと。日本は……可愛くなりたいのか?」
「そういうわけじゃなくて。ただ、“可愛げ”くらいは必要かなぁ、と」
「思うのか」
「思うんです」

 物憂げに、思案している日本。
 黒い瞳も、その白い部分とのコントラストも、日本の一挙一動も、声も、全部が、日本だから、いいのに。他になにを求めているのだろう。

「思わなくていい、ぞ」
「思わなくていい、ですか」
「そりゃぁさ、女体化とかすれば話は別だけど、今のそのまんまの日本が俺、好き」
「眠たいですか? ずいぶん率直ですね、思わずどきっとしました。女体化はしませんのであしからず」

 身体を起こしたイギリスが問う。問題は解決したか? ええ、どうやら解決したようです。そか。それはよかった。

「心配したんだ。日本がどっかのカップルを見るたびに、あぁいう女が好きなのか、あんな男が好みなのか、昔の恋人に似てるんじゃないかとか……そういうことが不安でしかたがなかった」
「おや。ずいぶんと上手に隠していましたね」
「日本が俺以外に気を取られてたからだろ。普段なら、気づいてたと思う」
「今日は逆でしたか。すみませんね」
「謝るところがずれてる気がする……」

 まぁまぁ、と笑う日本がそっと俺の頬を両手ではさんだ。近づいてくる黒いきらめきにあわせて瞼をおろす。重なったくちびるで日本が言葉を紡いだ。

「だいすきですよ」
「俺も。だから、そのことよく覚えとけよ。妙なこと考えないようにな」

























......END.
作品名:キス10題(前半+後半) 作家名:ゆなこ