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キス10題(前半+後半)

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「 4手の甲に忠誠のキス 」前



 けんかをした。したかったわけじゃない。それはたぶん彼も同じだろう。けれど彼は今ここにはいない。どこか街のホテルで休んでいるのだろう。電話は繋がらない。電源が入っていないそうだ。帰ってこないのだろうか。なぁ、帰ってこいよ。お前の居場所、ここじゃないのかよ。誰が出ていいって言ったよ。なぁ。
 それでも彼の居場所はわからない。だからいつ帰ってきても迎えられるようにここに居るしかない。

 事の発端は俺のよう。お守りを頼まれたのだ。上司に。それ自体はよくあることで、断って国内情勢がややこしくなっては自分の首を絞めるだけだから、よっぽどのことがない限りは引き受けている。その預かった少女が、俺は悪いと思う。ベスに、エリザベスによく似た女だった。なかなか勝気で、おもしろい会話ができた。だからいつもより楽しんだ。それだけなのに、その様子を、街を偵察していた日本は見たらしいのだ。

――なにが“しかたなく”なものですか。乗り気じゃないですか。

 剣幕を隠そうとせずにまくし立てた漆黒の彼。珍しいこともあるものだ。そんなことを思う余裕さえ、このときにはあったはずだ。けれど、どこからか雲行きが怪しくなってきた。

――私に言った言葉覚えていますか。“お前しかいらない”“永遠を誓いたい”……一体何度目の言葉だったのかしれませんね。

――腰を引き寄せて歩いて、おまけにキスまでして。どこまでがあなたのおもてなしなのでしょう? ベッドまでお連れすることですか。共に朝を迎えるところまでですか。信じられない。そうやって今までもこそこそとこういうことしてきたんでしょうね。私が気がつかないのをいいことに。さぞや楽しい交際だったことでしょうよ。あなたを信じた私が馬鹿でした。

 謂れのないことを咎められると、人は呆気にとられるものらしい。言葉をなくしていると、悪い方向に勘違いを加速させた日本は、ついに飛び出していった。自分が何を言ったの覚えていないけど、必死に止めたはずだった。違う。何か勘違いしてる。そういう類を言って引き止めたはずだけど、こんなときまで彼らしく抜かりない、カバンもコートも持って出て行ってしまった。

 携帯端末に連絡を入れる。なぁ、勘違いだって。俺ってそんなに信用ないのかよ。ベスに、ちょっと似てて、ちょっと懐かしいなって思っただけで、日本と比べようなんて思わなかったし、そもそも日本は日本だろう。だれと比べるものでもないじゃないか。なぁ、返事しろよ。

 いつまで経っても繋がる気配のない端末に痺れが切れた。確か、足蹴にできないそれなりの案件があったはず。それを持ち出して、日本の居場所を聞き出そう。イギリスは、根の回った日本の周辺を、半ば欺く形で崩した。








 連絡のあった場所へ向かい、扉の前に立つ。ノックをすると、あっさり開いた。イギリスではなく、部下か上司か、イギリスではない人が来ると思っていたのだろう。驚きを見せた瞳を、一瞬で怒りのそれに変え、日本は弓を引いた。

「……なんですか。あなたの持ち出してきたその話、今でなくでもいいんでしょう」
「今すぐ話し合いが必要だ」
「22時ですけど。こんな時間から? 冗談じゃないですよ。帰ってください」
「あぁ帰る。お前を連れて」
「私はここが宿ですから、おかまいなく」
「日本、俺の話を聞く気はないのか。帰って来いよ」
「いいわけですか。みっともない。夜遅いです。非常識です。帰ってください」
「なぁ、目が赤い。泣いてたろ」
「ごみが入っただけです。放っておいてください」

 引いた弓を、しならせた弓を、どうして使えないのだろう。矢を放ちたいのに、イギリスの言葉が妙に心を打っていく。こんなふうに、手段を選ばないで駆けつけてこないでくださいよ。そんなふうに、知った口を聞かないでほしい。少し強引な、でも確固たる思いもそこにあるのがわかるから、わかってしまうから、あなたじゃなくて、私が悲しい。

 閉めよう開けようの攻防が緩んだのは、日本が目元をこすったからだ。とっさに腕をつかまえた。反応が遅れた日本は、俺を部屋に招き入れることになり、放してください出て行ってくださいと喚いた。剣術や体術を基本以上に身つけている日本だ、本気を出せば体格の差だって越えて俺の手から逃げられる。けれどそれをしない。しないことに、日本は気がついていないのか、懸命に口にしていた止めろ出ていけの言葉が、不謹慎に愛おしかった。希望を半分だけ叶えてやることにする。腕を放して、自由にしてやった。

「話を、しよう」
「有益な取引でも思いつきましたか」
「まともな会話をしないと解決しないだろ」
「する必要を感じません」

 本気で言ってるとは思えないけれど、だとしても言ってほしくないことだった。

「ふざけるなよ。俺は何もしてない。ベスを手伝っただけだ」
「愛の手ほどきを? どこの紳士がそんなこと言うんですかね。聞いて呆れます」
「なぁおい大概にしろよ。人の言うことに耳を貸さないやつにそこまで言われたくないぞ」























to be continued.
作品名:キス10題(前半+後半) 作家名:ゆなこ