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自分らしく
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彼方から 第一部 第五話

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第五話

≪これが消毒≫
≪こっちがシップ薬≫
≪熱さましの木の実、水で飲み込んでおけ≫
 次々と薬草を若者に差し出しながら、イザークは手際良く、若者の傷の手当てをしてゆく。
 盗賊を追い払った後の森は、騒ぎを齎した存在がいなくなったのを喜ぶかのように、穏やかで暖かだった。
≪ああ、有難い、水(ココ)だ≫

 ――! ココって、水のことだったのか

 聞き覚えのある単語。
 イザークから水筒を受け取り、おいしそうに飲む若者の姿を見て、その単語が、水のことだったことを知るノリコ。
≪ひとまず応急手当てをして、カルコの町に出るしかないな。さっきの男が仲間等つれて来たら面倒だし……ああ、包帯が足りんな≫
≪え、でも、おれ、足をおかしくしてるから、歩けないよ≫
 若者が痛めている個所に薬をつけ、包帯を巻いてゆくイザーク。

 ――水だってわかってたら、あの時すぐ渡せたのに、あたしだって役に立てたのに……

 ノリコは何もすることが出来ず、そう思いながら二人の会話を聞き、見ていることしか出来ない。
≪馬車は修理がきく、馬も気絶しているだけだ≫
 そう言いながら足りない包帯の代わりにするのか、イザークは自分のバンダナを外した。
 若者のバンダナも、既に包帯の代わりにされている。
≪え? 馬が? 本当に?≫
≪今から馬を起こして、馬車も修理する≫
 どのくらいの高さから落ちたのか……若者は、馬は死んでしまったものと思っていたようだ。
≪両手は使えるな? 足のはれている場所にシップを貼っておけ≫
≪あ……ああ≫
 イザークは足の処置を若者自身にやらせることにすると、言葉通り、馬を起こしに行く。
 だが、若者はあまり器用ではないのか、シップを貼った足に、包帯代わりのバンダナを巻くことに苦労している。
 どうしても、パラパラと解けてしまうようだ。
「これ巻くの? 手伝うよ」
 その様子に、ノリコはそう言いながら手を出した。
≪あんた、ね、あんたさ、島から来たんだろ、その言葉≫
 バンダナを巻いてもらいながら若者は、ノリコを指差し、そう話しかけた。
 馬を起こしに行ったイザークが、若者の言葉が気になったのか、様子を伺うように返り見ている。
≪この大陸のまわりにはいっぱい小さな島々があって、それぞれ異なる少数民族が住んでいるだろ?≫
「え? あの」
≪最近は移民がふえてきたっていうし≫
「ご……ご免なさい、あたし、言葉が」
 一気に話しかけてくる若者に、ノリコは戸惑い、困っている。
 
 ――くるる 
 まるで、困っているノリコを助けるかのようなタイミングで、馬が鳴き声と共に起き上がった。
≪わお、立った!≫

 ――言葉が……
 ガコンと、外れていた車輪を馬車に嵌め込むイザーク。

 ――あ、そうか!!
 ノリコの中でも、何かが嵌ったようだ。

 ――言葉は勉強すればわかるようになるじゃない!  
 ――そしたら少なくとも、あの時みたいな場面では、あたしでも役に立てるんだ……
 何かが、ノリコの中の何かが、変わり始めた。

 ――そうだ、自分の立場を嘆いている暇があったら、一言でも言葉を覚えよう
 ――それが今、とりあえずあたしのするべきことなんだ
 それは、細やかな気付き……だが、確実な変化と言える。
 何が出来るか分からないからこそ、出来ることからやっていこうという、想い。

 ――ああ、なんだかあたし、元気がでてきたなァ
 前向きで直向きで――言葉が分からない今でも、やれることはある。
 言葉が分かるようになれば、もっと出来ることが増える。
 目標や目的……そういったものは何時でも、人のやる気、モチベーションの源となる。



『……という、典子の新たな決意を受けて、これより普通の「」のセリフはこちらの世界の言葉。≪≫のセリフは日本語とさせていただきます。(原作に載せられていました作者様のお言葉より)』



「人狩り商人が喚いていたのを聞いた。せっかく島から浚ってきた娘達が逃げたと。おれが前にいた西向こうのギノココの町でだ」
 イザークに抱えられながら、若者はそう語り掛けてくる。
「別につげ口する気ないから、本当のところ、言ってくれ。おれ、人一倍カンがいいんだ、移民にしたらなんか不自然なんだよ、あれ、あんたの服だろ?」
「…………」
 それは確かにそうだろう。
 自分で勘が良いと言う若者の言葉はさておき、イザークの服を着ていることは確かであるし、移民でないこともその通りだ。
 だからと言って、『本当のところ』など、言える訳もない。
 直した馬車へと若者を運びながら、イザークは少し考える。
「ボロボロになっていたから着替えさせただけだ。旅の途中、移民の家族が死に絶えて、ただ一人生き残ったあいつは、通りすがりのおれにくっついてきた」
 どさっと、少々乱暴に若者を馬車の荷台へと降ろした。
 その間、ノリコは辺りを見回し、他に荷物は残っていないか、忘れ物はないかと確かめている。
「なるほど、できた話だ。そういうことにしておくよ」
「…………」
 訳知り顔でそう返してくる若者。
 深く詮索されないのは良かったが、何か、違う方に勘違いをされているような気がする。
「でもさ、あの服、あれはまずいよ。変にめだつよ。だからさ、ええと、ちょっと待ってよ」
 乗せられた荷台の上、荷物の中身を漁っている若者。
「どうだい、これ?」
 と、一着の女物の服を広げて見せた。
「なにを隠そう、おれは衣類の行商人なのさ、男物もあるよ、なっ、あんた、上着のうしろボロボロじゃんか」
 行商人らしい営業スマイルを見せ、若者は次から次へと服を披露してくれる。
 商魂たくましいとはこのことだろう。
「これなんかどうかな、似合うよ、きっと。あんた、すげーいい男だし。あ、靴もあるよ、靴。見てくれ、荷袋までそろってんだ」
 イザークが少々呆気に取られて見詰める中、若者は服だけに留まらず、ここぞとばかりに小物も色々と出してくる。
「どうだ、一式そろえて、150ゾル!!」
 転んでもタダでは起きない……行商人の鏡と呼ぶべきかもしれない。
「…………」
 無言、無表情のイザーク。
 ノリコがイザークの荷物を持ち、馬車までやって来た。
「高いな、100ゾル」
「えーーーっ!」
 即断で値切っていた。
「ケガ人あいてにねぎるなよ~~~」
「命の恩人相手に、商売っ気出しているのは誰だ?」
「正義の味方っていうのは、恩を売らないんだぜ~~~」
「そんな便利な奴がいるなら紹介してくれ」
 どちらもなかなかである。
 別にイザークは、正義の味方を生業としている訳ではない。
 若者を助けたのは成り行きであるところの方が大きい。
 無論、襲われているところを目の当たりにして、見て見ぬふりなどしないだろうが……
 若者が見せた服を品定めしながら、イザークは平然とそう言ってのけた。
 その傍ではノリコが、何を言っているのか分からないなりにも、とにかくヒアリングしようとしている。
「ノリコ」
 その彼女の手に、品定めしていた服をのせるイザーク。
「とりあえず着替えろ、着替え(リワフ)、わかるな?」
 そう言って彼女の肩を押し、イザークは馬車の後ろに行くよう、促す。