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『掌に絆つないで』第一章

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Act.09 [コエンマ] 2019.5.2更新


大会本部から呼び出しを行って間もなく、ぼたんが飛影を連れてきた。
人間界から迷い込む者たちを捜索する役目は、亜空間での異変にもっとも敏感になるだろう。すんなりぼたんについてきたところを見ると、飛影はすでに何らかの情報を得ているようだ。
「来てくれたか、飛影」
「フン。オレは話を聞くだけだぞ。面倒なことは幽助にやらせろよ?」
「ああ。お前が多忙なのはよく知っておる。すまんな、頼れる相手が少なくてな」
「侘びを入れるつもりなら、最初から呼ぶな」
「すまんな……」
侘びるなと言われたあとで漏れた謝辞に、コエンマは自嘲せざるを得なかった。
「コエンマさま、この人が霊界探偵なんですか…?」
飛影と初めて対面するひなげしが、耳打ちする。耳打ちと言っても、彼ら妖怪の聴覚では囁きにすら値しない。コエンマが答えるより先に、飛影がひなげしを睨んだ。
「一緒にするな。貴様は……見かけん顔だな」
「この子は私の親友のひなげしさね。人間界で冥界について研究してるのさ」
「冥界?」
「魔界と人間界の狭間に封印された世界だ」
霊界の者以外で冥界の存在を知るものは少ない。
妖怪たちの寿命がいくら長いとはいえ、数千年前に霊界によって封印された世界を生きて見た者は皆無に等しいだろう。もちろん、霊界にはその時代から生きる者はもうおらず、数ある重要な資料の中に刻まれ、代々伝えられ学んできた世界なのだ。
人間界でひなげしが担っている役目は、冥界の封印を監視するもの。冥界が再び人間界や魔界に交わらないよう踏みとどめるために、イチ早く情報を得なくてはならないからだ。
「詳しいことは幽助が来たら説明するが、とりあえず今日の目的は冥界から漏れたエネルギーを回収し、再び封印することだ」
「この水晶がエネルギーのありかを……」
着物の袖から水晶玉を取り出したひなげしが、言葉途中で息を呑んだ。
「……コエンマさま…!」
「どうした?」
「水晶に反応が! エネルギーが近づいてきます!」
「なに…!?」
透明な水晶玉は、その中心に赤紫色の光を揺らめかせていた。