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『掌に絆つないで』第一章

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Act.03 [蔵馬]


光が見えた。
いや、光じゃない。闇。奈落のように暗い闇。
何かが光ったかに見えたそれは、闇に覆われて閉ざされようとする最後の光だったと気づく。黒よりも黒い闇が、自らの視界を包み込んだ。
これは夢?
そう理解した途端、蔵馬は目を開いた。
ほんとうに夢だったのか。変な夢だ……昨日、妙な光を見たせいかな。
しばらく呆然と空を見詰めていた彼は、少し顔をずらして隣を確認した。
穏やかな寝息が聞こえる。さらさらの髪に、黒く長い睫毛。幼さの残る幽助の寝顔に、蔵馬は知らず安堵の吐息を漏らした。

幽助が魔界トーナメントを提案してから、百年。何百年と経てきた時間の中で、これほど長い百年があっただろうか。
上半身を起こし、かつて王と崇められた闘神の住まいを見渡す。
王を失ったこの地には、未だに王を慕う者が集まっている。トーナメント開催と同時に解散した国々だが、躯の移動要塞も、黄泉の癌陀羅も、かつての主人を慕う者たちで溢れていた。ここも例外ではない。
トーナメント開催の時期にだけ舞い戻る故郷で、蔵馬は雷禅が住んでいた部屋の居候。人間界でも魔界でも、いつの間にか彼の居場所は幽助の隣だった。

かつての、白い装束姿の自分には戻らないまま、彼は未だに人間界を捨てられずにいた。
蔵馬。
その名で自分を呼び、共に戦ってきた者が人間界にいなくなったのは、それほど昔のことではない。それでも今となっては、彼らにとって人間界での一日は魔界よりずっと長く、果てしない闇を思わす拒絶の空間となっていた。
自分たちを迎えてくれる仲間はすべて魔界にいて、本来なら受け入れられないはずの世界だからなのか。ではなぜ、そうまでして彼らは人間界にしがみつくのか。答えは未だに見つからない。
蔵馬は人間界で、呼んでくれる誰かを失ったもうひとつの名を名乗ってきた。
南野秀一。
その名を、今さら誰に呼んで欲しいのかもわからないまま、偽りの姿で、偽りの名を騙って生きたいと望む。矛盾に気づきながらも、願うのだ。

魔界の暗い空に影がよぎる。黒い鳥が一羽、横切った。
もし、人間界で失った仲間と同様に、懐かしく想いを馳せる者が魔界に残っていたなら。漆黒の髪と翼を持った男が、今もこの地に生きていたなら、人間界への未練は拭えるだろうか。
唐突に思い出した知己(ちき)の姿。まぶたに今も焼き付いて離れない、彼の最期。盗賊団を率いる前に、唯一心を許した友、黒鵺。
お前が生きていたなら、オレは人間界に行くことさえなかったのかもしれない。
蔵馬は立ち上がって、岩で出来た窓枠に手を触れながら外を見る。そこでは、上弦の月が静かに笑っていた。その笑顔を覆うように、淡い月光を埋め尽くす空の闇。さらに近づく雲の影から、黒い天使が迎えに来る。
そんな幻を待つ夢見がちな想いで、蔵馬はただ何もない空を仰ぎ見ていた。