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とうらぶ雑多まとめ

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審神者に折れてくれと頼まれた時の近侍の反応




「折れて…くれますか。」

少し声を震わせながら言う君。伝えられた言葉に驚きはしない。俺はただ一言「良いぜ」と答えた。

「折れる前に何か希望があればできる限り応えますが——。」
「そうだなぁ……。」

君の目をじっと見つめる。その瞳に光はなかった。あぁ、そうか。そうだな、君はそういうやつだったな、とフッと笑う。

「君——、俺が折れたあと自分も死ぬつもりだな。」
「ッ……。」

どうして分かったのか、と顔に書いてある。まったくもって分かりやすいな、君は。だからこそ今日この時まで俺は君の側を離れなかったんだが。

「なら、俺の願いは決まりだな。」
「聞きましょう。」



「君の『最期』を俺にくれ。」



君はきょとんとした顔で固まってしまう。俺の言葉の意味を理解しようと必死に頭を回転させてるらしい。だが、理解には及ばなかったようだ。

「あの…それはどういう意味か教えていただけますか。」
「言葉通りの意味だぜ。君も死ぬつもりなら、その役目は俺にさせてくれ。」

そこまで言うと漸く納得がいったようで「成る程、そういう意味でしたか」と何度か頷く。君はしばらく考え込んだあと、分かりましたと俺を真っ直ぐに見て言う。

「私の『最期』はあなたに差し上げます。希望にはできる限り応えると約束しましたしね。」
「そいつは良かった。」
「ただし、条件があります。」
「ん?」

君は俺の依代である刀に手を伸ばし優しく触れる。

「この刀は使わないで下さい。それが条件です。」
「理由を聞いても良いかい?」
「ほかでもない五条国永の名刀ですから。そうでなくとも、華奢なようでいて力強く、それでいて美しくも儚い佇まいを見せる貴方の刀身が私は好きなんです。斯様に美しい刀を私のようなモノの血で穢すわけにはいきません。」
「なッ……。」

突然褒めちぎられ、驚きを隠せない。この状況でそういうことを恥じらいもなくよく言えたもんだ。まったく最期まで君に驚かされるとは——君の元に顕現できて俺は幸せだった、と今更だが心から思う。

「君な……。自分で言ってて恥ずかしくはならないのか。ほんとうに君には驚かされてばかりだ。」
「ただ思ったことを口にしたまでです。」
「分かった、分かった。それでいいさ。——で、刀を使ってはならないなら俺はどうすればいい。」

君はそっと目を閉じ、右の手を首にあてがう。

「最期はどうか貴方の手で——。」

それを聞いた俺は、できれば君には苦しまずに逝って欲しいんだがなぁ、とぼそっと言葉をこぼすと、貴方の心の痛みと手の温もりを感じて逝きたいのです、などと言う。

「分かった。君の言うとおりにしよう。」
「ありがとうございます。」
「——なぁ、君。思い残す事はないかい?」

この会話が最期だ。この会話が終われば、俺は君に手をかける。このまま君が答えずに時間が止まればいい……そう願いもしたが無情にも時は歩みを止めてはくれない。

「ありません。」
「そうか……。覚悟はできてるんだな。」
「はい。」

強いな君は。答えに迷いがない。まっすぐに俺を見る君に応えるべく俺も覚悟を決める。少しでも楽に逝ければ、と思った俺は君を床に横たえ、そっと君の細い首に自分の両手を合わせる。そして徐々に両の手の力を強めていった。だんだんと苦しそうになる君の顔に心が痛む。
あぁ、どうして俺は君の首を絞めているんだろう。どこで間違えたのか。俺が君の側に寄ったときからか。いや、俺がこの本丸に顕現したからか。どうして。なぜ。俺は。俺が。俺のせい。思考がぐるぐると回って止まらない。
ハッとして君の顔を見る。なぜ…君は笑っているんだ……?
君は何か言いたいことがあるのか、苦しみながらも口を一所懸命に動かしている。

「最後の一振りが貴方で良か——」

最後の言葉を言い切る前に俺は手の力をグッと強めた。やめろ、やめてくれ。君の側に居たのが俺じゃなきゃ、こんな結末にはならなかった。いろんな感情が入り混じり、俺の目から涙が溢れ出る。
君は俺の流す涙に気付くと、俺の頰に向けてか弱く手を伸ばす。だが、その手が頰に触れる事はなく、力無く床へと落ちていった。と同時に自分の力も抜け、その場にへたっと座り込む。
しばらくの間は放心状態で動けなかった。だが、これで終わりではない。今度は俺の番だ。
改めて君の息が止まったのを確認した俺は、君の側に横たわっていた折れた初期刀殿を拾い上げ、柄を握りしめる。

「君が一番俺を恨んでいるだろう。ずっと側に居たくせに主を守れなかった俺を。」

そう語りかけると刃文の辺りがキラリと光ったような気がした。それは肯定ということかい? と、俺は苦笑する。

「その恨み、今しかと受けてやる。だから——頼むぜ。」

嫌な役目を背負わせてすまないな、と謝ると、またキラリと刃文の辺りが光った気がしたが俺はそれには気付かぬふりをし、握りしめた刀を己が刀身へ向け力いっぱい振り下ろした。


静まりかえった本丸にパキンッと乾いた音が響き渡る——。





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作品名:とうらぶ雑多まとめ 作家名:香純草