敵中横断二九六千光年4 南アラブの羊
天敵
「〈ヤマト〉が艦載機を発艦させました。数はふたつ」
とレーダー手が言って、ソナー手もまた「銀色のやつです」と告げる。エンジンの出す〈音紋〉から、戦闘機の機種の特定ができるのだった。
「おそらく、対潜ロケット弾を持っているものと……」
とヴィリップス。シュルツは「むう」とうなるしかなかった。
今シュルツが乗っている潜宙艇が天敵とするのが対潜ロケットランチャーを備えた戦闘機。それをすぐさま出してきたということは……。
「やつめ、我々が来ると予期していたのか」
「まさか、とは思いますが……」
とガンツが言う。シュルツとガンツ、ヴィリップス、それに数人の兵士が乗ると小型潜宙艇の中はもうそれで一杯だった。武装などなく、〈ヤマト〉に対して何ができるというものでもない。
〈サーシャの船〉がこれと同じ潜宙艇であったように、ここで自分が和平を求めて〈ヤマト〉の前に来るとすれば『潜宙艇で』ということになる。敵がそれを予期していても何も不思議なことはない。
レーダーの画面にはこちらにまっすぐ向かってくるふたつの点が映っている。あれが対潜ロケット弾を持っていて、射ってこられたら一巻の終わりだ。
しかしまさか……シュルツは思った。仮にも和平を求める相手を警告もなしに殺る気か? そんな。それはもちろんこちらはピースボートをさんざん沈めてやりもしたが……。
あれとこれとは話が違うはずだった。通信士は〈ヤマト〉に対し、『撃つな。和平を求めて来た』との信号を送り続けている。こちらには放射能除去装置を提供する用意があると。同時にそれをタイムラグなしに地球に聞こえるやり方で。
不意にそれが途切れたら、地球に残る人間達がどう思うか。〈ヤマト〉はそれを考えないわけにはいかない。そのはずなのだ。
どうする、と思った。ゾールマン戦隊は、今どの程度〈ヤマト〉に迫りつつあるのか――わからない。それは自分にも知る術(すべ)がない。
〈ヤマト〉がジグザグに進むなら、追いつけるはずでもあるがそれも定かではないのだ。彼らの船はいま間違いなく、エンジンに過度の負担をかけている。
どうする、とまた思った。そこでヴィリップスが、
「あれが対潜ロケット弾を持っているなら、射程距離までもう少しです」
「そうか」
と言った。地球人のロケット弾の射程距離が正確にどの程度なのかは無論知るよしもないが、たいして長いものでないのだけは明らかだった。あれは近距離用の兵器で、しかも、こちらが深く潜ってしまえば届かない。本格的な次元魚雷とは違う。
そのはずだった。無論、だからと深く潜航したならば、〈ヤマト〉からその本格的な魚雷を射たれることになるが。
どうする。〈ヤマト〉が問答無用で殺る気で来れば自分は終わりだ。しかしまさか……。
レーダー画面に警告が出る。あの銀色の戦闘機が対潜ロケットを持っているならその射程に入ったと思しきことを告げる報せだ。それも一発必中の距離。
――が、同時に、
「敵機が接近をやめました。こちらに速度を合わせようとしている模様」
レーダー手が言った。そして通信手が、
「〈ヤマト〉から通信です。『話を聞こう』と」
作品名:敵中横断二九六千光年4 南アラブの羊 作家名:島田信之