悪魔言詞録
78.魔人 だいそうじょう
ふむ。こういうときはどういうふうに考え、どのようにすれば良いのか、じゃと?
うーん。わしには分からんのう。主殿、お主の考えで好きにして、いろいろ試行錯誤してみればいいのではないかのう。例え面倒な結果になったとしても、わしらが何とかすればいいだけの話じゃて。
何じゃ、主殿。いろいろと人生の先輩としてお伺いをしたいことがあるのに、その態度はちょっとそっけないと、そのようなことをおっしゃるのか。
うむ。確かにじゃな、傍から見ていてわしも口を出したくなることも山ほどある。じゃがの、わしのような大昔の人間が、古い価値観でもってもったいをつけて助言をするのは、いつの世も好まれることではないじゃろう。
仮にわしが何らかの言葉を授けて、その助言が当たっていたとしても、それが続けば若い人はいつしか不快になるものじゃ。じゃが、それが当たっていればまだいい、それが外れていた日には、下手すれば憎しみすらも湧きかねない。
そうしてわれわれの間に溝を生んでしまうくらいなら、わしは自らの口を自らで閉ざす道を選ぶし、主殿も、多少、時間がかかっても自らの力で道を切り開いたほうがいいと思われるのではないか。
それに、お主もよく耳にするじゃろう、老害と呼ばれる言葉を。
一切衆生のために自らの身を入定させたわしは、いったい今を生きる者にどのような顔をして口を出せばよいんじゃ? もう既に時代は動いておる。わしが口を出して、わしの思うように主殿を動かそうとしてしまったら、その瞬間からその老害とやらのそしりを免れぬであろう。
じゃからのう。結局のところ、わしはなんも知らんということにしておくれ。知らぬがゆえにお主には何も伝えられぬということにしておくれ。もちろん目や耳はついているから、見たり話を聞いたりといったことはできるがの。
しょせん全てを捨てて入定した一介の僧じゃ。あまり多くを期待してもらっても困るぞよ、のう、主殿。ホッホッホ……。