悪魔言詞録
77.妖魔 オンコット
しょ、召喚主さん、ちょっと、ちょっと待った。ちょっと、待ってください。
あの……、ちょっと疲れちゃったんで、休んでもいいですか。いやあ、もう連続で戦い過ぎて、ゼーゼーいってるんです。すみません。
ええ。正直、自分でも体力はないほうだと思います。どちらかというと、僕ら、頭数で勝負するタイプなんで、一人一人は、正直、そんなに強くなかったりするんですよね。
でも、将軍の地位にあるんじゃないのかって? そりゃ、まあ、軍勢を率いたりすることもありますが、率いることができるのはしょせん猿ですよ。それに、将軍といってもようやく正社員になれたようなもんで、バイトの子やパートさんに指示が出せる程度の権限しかありません。そのバイトやパートが猿の軍勢というわけです。それに、責任がこちらに及ぶようならば上司は容赦しないですし、それほど大したもんじゃありませんよ。
でも、その中から優秀な人材が現れることだってあるんじゃないかって?
まあ、そういうこともあるとは思いますが、多分、それは僕ではないでしょうね。こんなところで、肩で息をしているんですから。
え? ……ほう。ふうむ。
へえ。日本では、そんな話があるんですか。身分の低い家で生まれ、仕えている主にサルとかハゲネズミなんてひどいあだ名で呼ばれていた小男が、どんどん出世していって最後には天下統一を果たしたと。しかも、おとぎ話じゃなくて、本当にあった出来事なんですか。それはすごいですね。
だから、猿でも素晴らしい結果を出すことはできるはずだし、これから大きな仕事をどんどん任せていこうと思っているから、無理はしない程度に頑張ってほしい、と。
召喚主さん、ありがとうございます。なんだか僕、いきなり元気になってきました。さあ、休むのはこの辺にして、先を行きましょう。
え? 無理はするなといったばかりじゃないか? でもね、そこまで期待をかけられたら、それに、応えないわけにはいきませんよ。