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悪魔言詞録

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76.龍王 ナーガラジャ



 なあ、ちょっと相談があるんだけれども、話をしていいか。

 うーん。別に深刻ってほどの悩みじゃねえんだけどさ。みんなは、どうなのかなって。

 ほら、俺さ、なんだかんだ言ってナーガの王に納まったじゃん。でもさ、それってナーガの王ってだけで、別に悪魔としてはそれほどでもないんだってことに気付いちゃったんだよな。

 なんかさ、チンケなナーガのころはナーガの王になるんだって、それしか見えてなかったんだ。けど、いざ王になってみたら、結局、俺よりすごい奴らがひしめいてるんだよ。

 なんかさ、俺、どうしたらいいか分からなくなっちゃって。

 おまえはこんな感じになったこと、あるか。今でもいいし、人間だったころでもいいよ。自分が物語の主人公でも何でもねえ、単なるNPCだってことに気付いちまったとき、一体全体どうしているんだ。黙ってその事実を受け入れて、保身に走る嫌な大人になっちまうのかな。それともあがくだけあがいて、結局、力のあるやつにつぶされちまうほうがまだいいのかな。おまえはどう思う?

 本当にそいつらはおまえよりすごいのかって? そりゃあ、そうだろう。まず威圧感がちげーんだもん。見てるだけでビビっちまうよ。戦った日にゃあもう、瞬殺されること、間違いなしだよ。

 それって、威圧感以外は想像にすぎないかもって?

 ……なるほど。そうか。やってみねえと分からねえことってあるもんな。でも、それであっさりつぶされちまったらどうすんだ?

 そんときはそんとき、か……。おっ死んじまったら、誰も顧みるやつはいないもんな。なるほど。思い切ってやって見るほうがいいってことか。さすがだな、おまえ。

 え? でも、本当に危ないなって思ったときは慎重になったほうがいい。そして自分の力をきちんと把握して向上に努めて、ちゃんと勝てるときに戦いを挑んだほうがいい?

 おいおい。どっちなんだよ。結局、うまいこと、やれってことじゃねえか。俺、そんなに器用に生きられねえよう。


作品名:悪魔言詞録 作家名:六色塔