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Killertune

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02 貧しさこそが敵/東武とご近所さん



 珍しく深刻な顔で正座する伊勢崎の隣にはいつものように機嫌の悪そうな日光がやはり正座しており、その前には野田、(東武)宇都宮などが座っている。大師だけは、伊勢崎の膝の上になついていたけれども。
 …そしてそれをちらちらと日光が面白くなさそうな顔をして見ていたりしたけれども。
「…お父さんから大事なお知らせがあります」
 固い、真剣な伊勢崎の声に、他東武本線系統が息を飲む。お父さん、に突っ込むべきかいなかちょっと考えながら。
「…現在の所持金はこれで全部です」
 伊勢崎がツナギのポケットから出した封筒を逆さに振った。落ちてきたのは、…
「わあ、赤いお金と白いお金がいっぱいだぁ…」
「…小銭しか…!」
 生ぬるい笑みで言った野田の隣で胃弱っぽい感じの(東武)宇都宮が真っ青になって訴えた。その声は大いに震えている。
「…こら大師、おはじきじゃないよ」
 小銭を小さな指で弾いている大師を膝に引き取り、伊勢崎は嗜めた。
「…とにかく次の給料日までこれで生活していかなきゃならん。最低限に切り詰めろ。以上だ」
 その隣で、日光が苦虫を噛み潰したような顔で勝手に宣言する。その流れに、伊勢崎が、あ、と声を上げた。
「オレが言おうと思ってたのになんで言っちゃうんだよ!日光!」
「うるせえ、そんなんさっさと言え」
 この世は弱肉強食渡る世間は鬼ばかり、東武以外は皆敵!な日光の言葉は今日も抉るように鋭い。時に真実は何者にも勝る凶器だ。
「ひどいよ!ドメスティックバイオレンスっていうんだよそういうの!日光の鬼嫁!」
ひどいひどいと不平を鳴らす伊勢崎の言っていることはめちゃくちゃだったが、誰一人として呆れた様子がないのは、慣れているからだった。それもまた悲しい話だ。
 …勿論、一番悲しいのは、次の給料日までの生活費の額なのだが。


 さて東武鉄道は、それ以外の鉄道路線ともつながっている。会社で言うならJRとか、東京メトロとか、まあそういった連中だ。他にも私鉄と乗り換え接続していたりするが、まあとにかく、案外孤独ではない。仲がいいか悪いかはともかくとして。
「…あの、今日はオレまだ何も言ってないと思うんだけどさ」
 じっとりと睨み付けられて、半蔵門は目を泳がせた。無条件に可愛いと思ったのは最初だけだ。伊勢崎は、見た目よりずっと凶暴なのだ。ただ、凶暴であってもなんでも、駄々をこねている姿(正確には違うのだが半蔵門にとってはそんな風にしか見えない)はやっぱり子供っぽくて可愛い。
「睨むの、やめてもらえたら嬉しいなー、みたいな…」
「…睨んでない」
嘘だ、と半蔵門は叫びたかったが、今の伊勢崎は危険だと警戒信号が鳴っている。相手はハムスターの外見をしたグリズリーだと思っていた方がいい。
「いい毛艶しやがっていいもん食ってるんだろうなとか誰も思ってないんだからな!」
「…毛艶…」
 オレは犬猫かなんか、か、と半蔵門の口元が引きつる。それでも何か言いかけた時、肩に軽く触れた手がある。自分よりわずかに高い位置に頭がある誰かが、いつの間にか後ろに立っていた。
「そうでもないよ。半蔵門は半野良だからね」
 やわらかく笑ってよくわからないことを言ったのは、その語尾に穏和な笑みを漂わせたのは、銀座で。なんでこんなとこに、と思ったが、銀座に質問すると怖いことばかり言うので半蔵門はあえて問わなかった。たまには伊勢崎の顔を見たいと思って、とかしゃあしゃあといってごまかすに決まっている。浅草があるだろう、といってもきっと意味はない。
 今はそれよりも、半野良に突っ込む場面だった。
「…半野良って?」
 半蔵門の肩を軽く流して、銀座が前に出る。銀座も小さくて可愛い伊勢崎を気に入っているのかもしれない。かもしれない、なのは、半蔵門には銀座の考えていることがさっぱり読めたためしがないからだ。
「あの頭。ひどいよね。あれがかっこいいって思ってるんだから困るよ」
「頭もひどいけど、シャツとかだらしないよね」
「育て方を間違えたみたいでね」
 ふう、と憂い気味に溜息をつかれて、半蔵門は手を伸ばしたまま言葉を飲み込んだ。えらい言われようだと思う。しかし伊勢崎は、同情したような顔で眉根を寄せて、銀座を一途に見上げる。
「そんなの、銀座は悪くないよ!半蔵門がしっかりしてないのが悪いだけじゃん!」
「そう? ありがとう、伊勢崎」
 ふふ、と笑う銀座には「妖艶」という言葉が良く似合う。かもしれない。けれどもそれに対する伊勢崎はといえば、のどかな調子でちょっと頬を染め、「そんなことないよ」と笑っている。
 納得いかないのも歩けどどこまで行くんだろうこの会話。
 半蔵門は後ろで銀座と伊勢崎を眺めながら、止めるタイミングを逸していることに気づいたけれど、もうなんだかどうでもよくなってきてそっぽを向いた。日比谷でも来ないかな、と思いつつ。


 東武は東武でも、こちら東上線。こちらも財政に余裕がないのは一緒である。東上と越生は普段はそれでもそれなりに楽しく、つつましやかに暮らしているが、時としてやはりそれでも色々あるわけで。
「…どうしよう…!」
 米袋の前で東上は愕然と言葉を失った。そして、昼メロよろしくよろめいて膝をつく。
 …米が、なかった。すっからかんだった。そんなばかな。馬鹿な!
「え、ちょっとまって、だってそんなわけ…え、なんで…?」
 ぶつぶつ呟きながら今月の行動を振り返る。一体どこで米が消えたのか。そんなわけがないのに。ああでも、明日炊く米がないなんてそんな。米櫃の米がなくなっても米の袋がまだあると信じていたのにこの仕打ち。
「ごめんね越生…!おれに甲斐性がないばっかりに…!」
 東上はわっと顔を手で覆ってさめざめと泣き崩れた。なんて惨めなんだ。
「…何やってんだ?」
 と、そんな東上に、困惑したような呆れたような声がかかった。
「…武蔵野?」
 濡れた目で見上げて、いるはずのない男にぱちぱちと瞬きする。武蔵野は微かに眉間に皺を寄せ、勝手口から東上に近づいてきた。
「何、泣いてんだ」
「…米が」
「は?」
「米がない…!」
 辛そうに目をぎゅっとしかめる東上に、武蔵野は一瞬絶句した。米がないって…一体ここはいつの時代に存在してるんだ?
「…まあ落ち着け東上。米がないって、なんだ?どうした」
「これが落ち着いていられるかよ!」
 さっきまで打ちひしがれていた東上が、泣きギレ状態で武蔵野の襟首を掴んでがくがくと揺さぶり始めた。武蔵野は前後に激しく揺られほぼ酸欠状態に陥るが、そんなのは東上の知ったことではない。
「米が!米が!」
「何騒いでんだよ東上」
「東上どしたのさー?」
 半分死に掛けている武蔵野を救ったのは、連れ立ってやってきた越生と八高だった。
 東上はぺいっと武蔵野を放ると、がば、と越生を抱きしめた。越生からは驚いたような声が上がるが、東上はぎゅうぎゅうと越生を抱きしめながら「ごめんね」と繰り返す。何のことだか全然わからない。
「…東上。越生が苦しがってるよ?」
 半死半生の武蔵野を遠く眺め、それから東上の腕の中で目を白黒させている越生を認め、八高が困ったように声をかけた。

 で、どうなったかというと。
作品名:Killertune 作家名:スサ