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【リリなの】Nameless Ghost

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従章 第十八話 Naked Emotion(1)



 Sky ― Air ― Down

 Empty ― Soul ― Down

 Shed ― Wing ― Down

― Falling ― Down ―

―――――――――――――――――――――――

 適度な緊張感のある教室は教師の言葉とホワイトボードをたたくペンの音が響き渡り、その板書をする鉛筆やシャープペンシルのこつこつという音に包まれている。
 その中に混じって時々欠伸や寝息など気の抜けるような音も耳にはいるが、この学校ではそれらは自業自得として教師も手厳しく諫めることもしない。

 中には優秀すぎるが故に学校での勉強が退屈すぎるために居眠りの常習犯になっているものもいるが、それは希な例であると言えるだろう。
 実際、彼女と同等程度の優秀さを誇る彼は眠たそうな雰囲気の一つも見せず、ただ黙々とノートに文字を走らせているのだから。異邦人でありながら彼のノートに記されている文字の4割強は日本語であることから彼の実直さを伺うことが出来る。

 しかし、この時間になってくると午前中にある緊張感も次第に緩んでくるものだ、と少しだけ離れた席で高鼾をかく親友アリサと、ゆるみ始めている教室の空気の中でしっかりとペンを走らせるユーノとを見比べながら向けながらなのははクスッと笑った。

 半年前であれば、なのははこうして授業を受けている最中でも魔導師の特性でもあるマルチタスクを利用して様々なイメージ・トレーニングをしていたものだった。
 しかし、それが原因かどうかは分からないが、それをし始めた後になって学校の成績が目に見えて悪化してしまうという事態に直面した。しかも、成績表に『注意力散漫』という注意書きが記載されるようになってからは両親に咎められたこともあり、授業中にマルチタスクを展開することは控えるようになった。

 それでも、今ばかりは一つのタスクを使用してまで考えておきたいことがあった。

 なのはは、ホワイトボードの文字に集中しながらも横目でそっとユーノの表情を伺った。

(最近、ユーノ君がよそよそしい気がする)

 それがなのはの最近の悩みの一番を占めている事柄だった。
 何となく、なのははユーノと隔たりを感じる。あるはずのない溝を感じてしまう。少し自分と彼の距離が離れてしまったような気がする。
 それを彼に内緒で友人達に聞いてみたところ友人達、フェイト、アリサ、すずかは「気のせいじゃないか?」と口をそろえるばかりだった。
 確かに、日常的な場面ではユーノは何も変わらないように思える。
 学校にいるときでも、なのは達女子だけのグループの蒼一点であるがために少し居心地の悪そうな、何となく遠慮深そうにして話の輪にも入りにくそうにしている。だが、そのそばで自分たちを見ながら微笑むその表情は変わりなく、それだけならなのはも気のしすぎだと思えたかもしれない。

 今日の昼休みにもお決まりのようにアリサから「あんたももう少し会話に入りなさいよ!」と叱られていたほどだ。

(うん、いつも通りだった)

 しかし、なのははその中にあっても時折ユーノが自分を見つめる目になにがしかの決意を秘める光を感じ取っていた。
 酷く澄んだ、純粋な視線。思わず心臓が高鳴るほどの熱い眼差し。そして、それは同時に何かいい知れない予感を孕んだ眼のように感じられた。彼が、自分をおいてどこか遠くに行ってしまうのではないか、彼のその視線の先に移るのは自分ではなくほかの何かなのではないのか。

 教室の雰囲気は弛緩の最高潮にあった。授業を行うクラス担任が少しため息をついてそれを咎めようとする寸前、ホワイトボードの上方に設置されたスピーカーから本日の授業の終わりを示すベルの音が鳴り響き、担任教師はそのまま日直に挨拶をさせ授業を終えた。

「終わったぁー」

 教室の様々な場所からそんな声がつぶやかれ、あるいは堂々と宣言されながら後はHRを残すばかりとなった。

「なのは、今日はどうする?」

 チャイムが鳴ると同時にすっぱりと目を覚ましたアリサが口の中で欠伸をかみしめながらアリサはなのはの机に足を組んで座った。
 名家のお嬢様としてそれはいかがなものかとなのはは思うが、それもアリサらしくて小さくほほえみを返した。

「アリサ達は、今日は何もない日だよね」

 それを聞きつけ、フェイトも少しだけ眠たそうな目をこすりながらゆるゆると会話に混ざった。

「そうよ、塾もないし、今日はパパもママも帰ってこないし……すずかの家に泊まりに行こうかしら」

 一人だけの食事は美味しい料理も味っ気がなくなってしまう。アリサはそうつぶやきながらすずかに目を向けた。

「私はいいよ? その前にちょっとお見舞いに行かないといけないけど……夕方からは時間が空いてるし……。なのはちゃん達もどう?」

「お見舞い? 誰か病気?」

「うん、ちょっと前に知り合った子で、八神はやてちゃんって言うの」

 すずかはそう答えながら新しい友人である八神はやてがどんな子か、どういった経緯で知り合ったのかを笑顔いっぱいに話し始めた。

「ふーん、本好きなんだその子。だったら、ユーノ君と気が合うかも知れないね。だけど、私たちと同い年で入院なんて大変なんだねぇ」

 なのははそういいながら横目でチラッとユーノの席を伺った。彼は、机の教科書やノート、体操服を鞄にまとめ帰り支度をしながら隣の席や前の席の男子生徒と軽く話をしているようだった。

 何となく面白くないとなのはは感じた。
 女子には女子のつきあいがあるように男子には男子のつきあいがある。
 また、この頃になると男子と女子の性差というものを感じられるようになるのか、女子の集団に男子が混じる、男子の集団に女子が混じるとその周囲の雰囲気に少し刺のようなものが生じるようになってくるのだ。

 ユーノに気の合う友達が増えるのはなのはとしてもうれしい。しかし、そのせいで何となくユーノと話す時間が減ってしまうのは面白くない。

 ジーッとユーノの横顔を見つめるなのはに、アリサとすずかは肩をすくめ苦笑し、フェイトはぽかんとした表情で二人を交互に見る。

「な〜の〜は〜!」

 アリサはまるで怨嗟のような間延びした声を上げながら、彼女の頭からちょこんと飛び出ているお下げの片方をひっつかみ、結構強い力でぐいっと上に引っ張り上げた。

「ふわぁぁぁ!! 痛い、痛いよアリサちゃん。引っ張らないで!」

 突然頭が引っ張り上げられる激痛というほどでもない痛みが襲いかかり、なのはは腕を振り回しながらガタガタと椅子を蹴って立ち上がった。

「ユーノが気になるのは分かるけど、今はあたしらに集中しなさい!」

 学校が終わればいくらでもユーノと話すことが出来る。アリサは眼力でそうなのはに伝え、なのはは頷くしかなかった。

『大丈夫? なのは』

「!!」

 突然届いたユーノからの念話になのはは思わず叫び声を上げそうになり、何とかそれを飲み込んだ。

 ユーノからなのはに念話がされたことを把握していたフェイトはともかく、いきなり背筋をビクンとさせて口を押さえるなのはの挙動にアリサとすずかは怪訝な表情を返す。

「な、何でもないの」