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【リリなの】Nameless Ghost

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従章 第十八話 Naked Emotion(3)



 意識を引きずられるような感触。光の収束とともに閉じたその感触になのはは面を上げ、いつの間にか滲んでいた涙を打ち払い、眼前に立ちふさがる紅い少女にきつい視線を浴びせかけた。

「……イージスは、いないのか……」

 紅い少女が浮かべる表情、つぶやいた言葉、そのすべてがなのはには不快に感じられた。

「ここにいるのは、私だよ……ヴィータちゃん。だから、ユーノ君じゃなくて、私を見てよ……」

 なのははそう呟き、レイジングハート・エクセリオンを起動させた。そして、ヴィータは起動したなのはのデバイスが、従来の丸みを帯びた形状ではないことに眉をひそめる。

「武器を変えた……訳じゃなさそうだな」

 ストライク・モード。長槍の形状にも見えるその姿に、ヴィータは彼女が遠距離から近距離にレンジをシフトさせたのかと思い立つ。それはある意味では間違いであり、本来的にはなのはの戦闘範囲に近距離という選択肢が加わっただけのことだ。しかし、見た目の印象からくる無意識の誘導は強く、ヴィータもある意味でミスリードを余儀なくされてしまう。

 それまでのなのはであれば、極力距離を離さず積極的に接近戦を挑めば、魔法弾頭や砲撃を封じることが出来た。しかし、今のなのはの武器からは近接戦闘も油断が出来ないと思うしかない。それがヴィータに常に一定距離を離して戦うべきだという思考を生み出す程度にはアリシアの狙いは当たっているようだった。

「投降して、ヴィータちゃん。自首すれば罪を軽くできる、私も一生懸命弁護するから。リンディさんもクロノ君も、絶対にヴィータちゃん達の不利にならないようにしてくれるはずだから。お願い……」

 戦闘を行う前に必ず投降を呼びかけろとクロノは前線へ出るメンバーに厳命している。なのははそれに従い、必死に自分の言葉で自分の思いを重ねてヴィータに語りかける。

「あのさ、ベルカの古い諺……だったかな? それにこういうのがあるんだよ。『和平の使者は槍を持たない』。そうやって話し合いをしたいんだったら最初から武器なんて持ち込むんじゃねぇ」

 正確にはそれは諺ではなく、小話のオチなのだが、なのはもヴィータがいいたいことを理解することは出来た。

「だったら、何で……武器を持ってないユーノ君の話も聞いてくれなかったの?」

「……イージスは関係ねぇ……」

 ヴィータは何度も相対して、ことあるごとに自分に語りかけてくる少年の名を耳にし、痛む心臓をギュッと押さえつけた。

「関係、あるよ。ユーノ君はずっとヴィータちゃんと話をしたがってた。言葉で理解し合えればきっと助け合える。それは、私も同じ。ヴィータちゃんの助けになりたい!」

 助けを求める人がいて、それを助けられる力があるなら迷ってはいけない。ああそうだ、それが私の源流ではないかとなのははようやく思い出した。
 なぜ、忘れていたのか。そうして自分はユーノを助けようと思ったのではなかったか。だからこそ、自分は何が何でもフェイトを助けようと思ったのではないか。

「あたし達は、助けなんていらない!」

「だったら何で、ユーノ君がいないって悲しい顔をしたの? ヴィータちゃんはユーノ君に助けてほしかったんじゃないの? ねぇ、答えて、ヴィータちゃん」

「妄言も……いい加減にしやがれ! 高町なにょは!!」

 ヴィータは激高した。戦闘中はいかなる場合においても冷静でいられるはずが、今はその冷静という言葉さえも忘れた。
 回路を焼き切らんばかりに加熱する感情思索プログラムが冷徹さを維持するはずの戦術思考プログラムを凌駕してしまう。
 彼女はグラーフ・アイゼンを振りかざし、カートリッジを連続でロードさせる。

「私は、なのはだよ。ヴィータちゃん」

「うるさい、いちいちあたしの名前を呼ぶな! あたしはテメェが気にいらねぇ。いつもいつも分かったふうな顔で見下しやがって!」

 羨ましかった。彼女はいつでも彼の隣に立って、時には前を時には後ろを支えてもらえる。まるでそれが当たり前のように手にしていて、そして今はただ一人。彼女はそれを手放してしまったのかと思えばそれさえも気に入らない。自分は、何をどうしようとも絶対に手に入れられないものなのだから。

「そんなつもりはないよ!」

 なのはは怒りに全身を朱く燃やすヴィータに槍を向けた。

《Strike Fram open. Avionics stand by and starting support the Air information. Active Radar is right. Dual illuminater ready. Magi-reacter marks the right value. All system is all green》(ストライク・フレーム展開。アビオニクス起動、航空情報支援開始、視覚情報モニター異常なし。アクティブレーダー正常。イルミネーター二基順調。魔導炉規定値をマーク。全システム、オール・グリーン)

 二股の平行な先端の間から展開された光の刃、ストライク・フレームの輝きが天に浮かぶ双子の太陽を閃き返し美しい光沢を放った。
 そして、なのはの視界に映り込むアビオニクスによる情報支援。敵との相対距離、自身の速度と相手との相対速度、対象へと誘導する赤色の矢印。アクティブレーダーが映し出す周囲の状況の簡略図。イルミネーターを向ければ視界の中央にたたずむヴィータの映像を包み込む円形の中心に十字の光点がまとわりつく。
 レイジングハートはその魔力反応を正確に学習し、イルミネーターの半自動追尾をそれにロックさせる。

 この視界に投影する情報支援システムは非常に優秀であることは、すでにフェイトやクロノとの訓練で把握している。アクティブレーダーが習得した情報を元に本来視界では映らないはずの場所でさえその視界に投影する。
 この遮蔽物のない開かれた上空では果たしてそれがどこまで事を有利に運ぶのか。

(初めての実戦だよ、アリシアちゃん)

 アリシアによってもたらされた新システム。そして、彼女にみっちりとたたき込まれた接近戦での対処方法。大丈夫、練習通りにやれば絶対にうまくいく。なのははそう自分に言い聞かせヴィータとの戦闘に移行した。