【旅の始まりの向こう】
【旅の始まりの向こう】
毎日が楽しかった。
廃墟で生活をしていたけれど不自由はなかったし、時間の流れがゆっくりだったけれど、幸せだった。
この生活がずっと続くと想っていた。
「……外に出るぞ。高尾」
───────唐突に彼が、今まで固執していた古都から出ると言い出さなければ。
あの戦いから千年以上が経過していた。かつての知っている景色なんてもう存在していない。
それ以前に緑間真太郎は風景などどうでも良かった。
緑間が一番大切にしていたのは古都であり、他の五人が出て行った後も彼は残り続けた。
人間ではなく、古代竜である緑間にとっては時間は無限にあるようなものだった。
彼が古都を出る気になったのはある出会いがきっかけである。
「人混み駄目なんだね。真ちゃん」
「……前よりは慣れてきた」
古都を出て一週間ほど経過し、緑間と高尾和成は古都から離れた都市へと来ていた。時刻は昼を過ぎた。
緑間は疲れたように都市にあるカフェの椅子に座っていて、飲み物を飲んでいる。人混みにいるのは数百年ぶりなので
慣れないのだ。かつての古都が都市として機能していたときも緑間は人混みが苦手はあったが。
週面に座ってストローでグラスの中のオレンジジュースを飲んでいたのは高尾だ。
高尾は古都の側にある村出身で、その村では災厄が続くと、古都を守って居る竜に花嫁……と言う名の生贄を差し出して
災厄を抑えてもらうと言う伝統があったが、緑間は災厄に何も関与していない。
災厄を起こした覚えは緑間にはなく勝手に村人達が勘違いをしていただけだ。
花嫁が送られてくれば皆、新天地に送った。
高尾が緑間に古都が見たいと言い、仕方が無く高尾に見せたら、高尾が古都を気に入り、住み着いた。
共同生活が始まった。緑間も高尾のことを気に入り高尾と契約した。
「真ちゃん、オレの故郷に関する手がかりって少ないんだよ」
「いつかは見つかるだろう。時間だけは沢山ある……黒子に聴いておけば良かったな」
緑間が古都を出たのは高尾の故郷を、本当の故郷を探すことだった。緑間はてっきり高尾があの村の出身だと
想っていたのだが、違っていた。高尾の両親は旅人で、高尾が生まれるからとあの村に住み着いたのだが、二人は亡くなり、
高尾は一人になった。
そのことを高尾が緑間に話すと何日かしてから緑間は古都を出ると良いただしたのだ。
手がかりと言ったら両親が残してくれた紫色の石が着いたバングルと歌だった。
緑間は自分の仲間であり同族でもある黒子テツヤの名を出した。黒子は緑間と違い人間に混じりずっと旅をしている。
久しぶりに会ったときには連れの人間、火神大我を連れていた。
「黒ちゃんは何処にいるの?すぐに解らない?」
「解らないな。俺以外の連中は皆、旅をしているか何処かで寝ている」
古代竜は全部で六人居る。
そのうち、高尾が知っているのは緑間と黒子だ。古代竜は竜の仲でも偉大な力を持っているとされていて、
居るかどうかすらあやふやと言う存在だ。緑間が一息ついていると彼の耳に騒音が聞こえた。
鎧の音や人々の声だ。
「騒ぎだ……あの鎧なんだろう」
「……俺に聴くな」
「見に行ってくる!」
緑間は古都に居続けたがために周囲の世情に疎い。高尾が立ち上がると騒ぎの方へと行ったので緑間もテーブルの上に
いくらかの代金を置くと高尾を追いかけた。市場の方には人だかりが出来ていて白銀色の重鎧を着た騎士と、
軽鎧の男達がその中心に居た。白銀色の鎧はこの都市にいる近衛兵が着ているものだ。
「何のようでこの国に来た」
「国王の命令だ」
「あれは?……重い鎧の方はここの兵だろうが」
「相手の方はレーヴァバーグ王国の者だよ。剣の紋章がそうだった」
緑間が呟くと近くにいる四十代近くの男が教えてくれた。今の世界情勢について緑間は思い出す。黒子が簡単にだが、
教えてくれていた。世界を占めているのは二つの国、レーヴァバーグ王国とレスラス帝国、他にいくつかの国がある。
レーヴァバーグ王国はここから離れた場所にあったはずだ。古都は今の世界から見れば辺境にあった。
今いる場所はリスダイン王国の所有地で、国としてみれば年代的にはレーヴァバーグ王国よりも先に出来ている。
話を拾ってみるとレーヴァバーグ王国の者が市場でいざこざを起こして、近衛兵が来たらしい。
周囲は中心から距離を取って人だかりを作っている。巻き込まれたくはないのだろう。
「あの鎧、格好いいよね。オレには似合いそうにないけど」
「鎧はいらなかったからな……不要なトラブルを招く前に行くぞ」
「誰か来たよ。真ちゃん。レーヴァバーグの人みたい」
高尾を見つけた緑間は側に来る。高尾は緑間に話しかけていた。
一触即発という雰囲気になろうとしていたときに中に割って入ってきたのは金茶色の髪をした青年だった。
腰にはレーヴァバーグ王国の紋章が入った両手剣がぶら下がっている。
「何トラブル起こしてるッスか。隊長に怒られるッスよ」
「黄瀬、何処に行っていた」
「観光に………」
聞き覚えのある声を緑間は拾う。聞き覚えのある名字を緑間の耳は聞いた。
黄瀬と呼ばれた青年は、人混みを見回し、緑間を見つけて、信じられないような者を見るように瞬きを何度かした。
お互いに間違いは無いと解る。
「……お前、黄……」
「───────緑間っち!」
トラブルを止めようとしていたらしい黄瀬という青年はそれ以上の衝撃に当たり、衝撃の元へと向かう。
人混みを吹き飛ばすように走り、緑間の前に立つと彼の両手を握り、何度か上下に振った。
緑間の身長は高いが、黄瀬も背が高い。
「何をして……」
「本当の本当の本当の緑間っちッスよね!どうしたッスか?ここは都じゃないッスよ。外に出るなんて……
引きこもり、ニート脱出!おめでとう!ありがとう!!ついにその時が来たッスか。オレ……嬉しいッス」
「そんなに俺が外に出るのが、珍しいのか……黄瀬」
「当たり前ッス。これを聴いたみんなが信じられないって言うッスよ。青峰っちとか……あの人とか……オレだって
まだちょっと信じてないのに」
「俺という存在は一つしかないのだよ……変わらんな。お前は都を出たときから」
長年の願いが叶ったかのように黄瀬はまくし立てている。緑間は疲労を倍増させながらも黄瀬に答えていた。
取り残された周囲は茫然となりながらも、高尾だけはあることに気付いていた。
(都を出たときからって……)
「……彼……緑間っちの……うわーやばい。嵐がおきそうッス。こんなに驚くことが続くなんて!!」
「止まるのだよ。黄瀬」
黄瀬が高尾を見つけて余計に騒ぎ立てる。緑間はついに右手に力を込めると黄瀬の鳩尾に拳を叩きこんだ。
黄瀬は旧友と話したいからとトラブルをまたやってきた別の兵士に押しつけて緑間と高尾を連れて行く。
美味しい店を見つけたと黄瀬が緑間と高尾を案内したのは小さな定食屋だった。定食屋には老夫婦が経営していた。
四角いテーブルも背もたれ付きの椅子も、使い込まれている。高尾の隣に緑間が座り、黄瀬は緑間の正面に座る。
毎日が楽しかった。
廃墟で生活をしていたけれど不自由はなかったし、時間の流れがゆっくりだったけれど、幸せだった。
この生活がずっと続くと想っていた。
「……外に出るぞ。高尾」
───────唐突に彼が、今まで固執していた古都から出ると言い出さなければ。
あの戦いから千年以上が経過していた。かつての知っている景色なんてもう存在していない。
それ以前に緑間真太郎は風景などどうでも良かった。
緑間が一番大切にしていたのは古都であり、他の五人が出て行った後も彼は残り続けた。
人間ではなく、古代竜である緑間にとっては時間は無限にあるようなものだった。
彼が古都を出る気になったのはある出会いがきっかけである。
「人混み駄目なんだね。真ちゃん」
「……前よりは慣れてきた」
古都を出て一週間ほど経過し、緑間と高尾和成は古都から離れた都市へと来ていた。時刻は昼を過ぎた。
緑間は疲れたように都市にあるカフェの椅子に座っていて、飲み物を飲んでいる。人混みにいるのは数百年ぶりなので
慣れないのだ。かつての古都が都市として機能していたときも緑間は人混みが苦手はあったが。
週面に座ってストローでグラスの中のオレンジジュースを飲んでいたのは高尾だ。
高尾は古都の側にある村出身で、その村では災厄が続くと、古都を守って居る竜に花嫁……と言う名の生贄を差し出して
災厄を抑えてもらうと言う伝統があったが、緑間は災厄に何も関与していない。
災厄を起こした覚えは緑間にはなく勝手に村人達が勘違いをしていただけだ。
花嫁が送られてくれば皆、新天地に送った。
高尾が緑間に古都が見たいと言い、仕方が無く高尾に見せたら、高尾が古都を気に入り、住み着いた。
共同生活が始まった。緑間も高尾のことを気に入り高尾と契約した。
「真ちゃん、オレの故郷に関する手がかりって少ないんだよ」
「いつかは見つかるだろう。時間だけは沢山ある……黒子に聴いておけば良かったな」
緑間が古都を出たのは高尾の故郷を、本当の故郷を探すことだった。緑間はてっきり高尾があの村の出身だと
想っていたのだが、違っていた。高尾の両親は旅人で、高尾が生まれるからとあの村に住み着いたのだが、二人は亡くなり、
高尾は一人になった。
そのことを高尾が緑間に話すと何日かしてから緑間は古都を出ると良いただしたのだ。
手がかりと言ったら両親が残してくれた紫色の石が着いたバングルと歌だった。
緑間は自分の仲間であり同族でもある黒子テツヤの名を出した。黒子は緑間と違い人間に混じりずっと旅をしている。
久しぶりに会ったときには連れの人間、火神大我を連れていた。
「黒ちゃんは何処にいるの?すぐに解らない?」
「解らないな。俺以外の連中は皆、旅をしているか何処かで寝ている」
古代竜は全部で六人居る。
そのうち、高尾が知っているのは緑間と黒子だ。古代竜は竜の仲でも偉大な力を持っているとされていて、
居るかどうかすらあやふやと言う存在だ。緑間が一息ついていると彼の耳に騒音が聞こえた。
鎧の音や人々の声だ。
「騒ぎだ……あの鎧なんだろう」
「……俺に聴くな」
「見に行ってくる!」
緑間は古都に居続けたがために周囲の世情に疎い。高尾が立ち上がると騒ぎの方へと行ったので緑間もテーブルの上に
いくらかの代金を置くと高尾を追いかけた。市場の方には人だかりが出来ていて白銀色の重鎧を着た騎士と、
軽鎧の男達がその中心に居た。白銀色の鎧はこの都市にいる近衛兵が着ているものだ。
「何のようでこの国に来た」
「国王の命令だ」
「あれは?……重い鎧の方はここの兵だろうが」
「相手の方はレーヴァバーグ王国の者だよ。剣の紋章がそうだった」
緑間が呟くと近くにいる四十代近くの男が教えてくれた。今の世界情勢について緑間は思い出す。黒子が簡単にだが、
教えてくれていた。世界を占めているのは二つの国、レーヴァバーグ王国とレスラス帝国、他にいくつかの国がある。
レーヴァバーグ王国はここから離れた場所にあったはずだ。古都は今の世界から見れば辺境にあった。
今いる場所はリスダイン王国の所有地で、国としてみれば年代的にはレーヴァバーグ王国よりも先に出来ている。
話を拾ってみるとレーヴァバーグ王国の者が市場でいざこざを起こして、近衛兵が来たらしい。
周囲は中心から距離を取って人だかりを作っている。巻き込まれたくはないのだろう。
「あの鎧、格好いいよね。オレには似合いそうにないけど」
「鎧はいらなかったからな……不要なトラブルを招く前に行くぞ」
「誰か来たよ。真ちゃん。レーヴァバーグの人みたい」
高尾を見つけた緑間は側に来る。高尾は緑間に話しかけていた。
一触即発という雰囲気になろうとしていたときに中に割って入ってきたのは金茶色の髪をした青年だった。
腰にはレーヴァバーグ王国の紋章が入った両手剣がぶら下がっている。
「何トラブル起こしてるッスか。隊長に怒られるッスよ」
「黄瀬、何処に行っていた」
「観光に………」
聞き覚えのある声を緑間は拾う。聞き覚えのある名字を緑間の耳は聞いた。
黄瀬と呼ばれた青年は、人混みを見回し、緑間を見つけて、信じられないような者を見るように瞬きを何度かした。
お互いに間違いは無いと解る。
「……お前、黄……」
「───────緑間っち!」
トラブルを止めようとしていたらしい黄瀬という青年はそれ以上の衝撃に当たり、衝撃の元へと向かう。
人混みを吹き飛ばすように走り、緑間の前に立つと彼の両手を握り、何度か上下に振った。
緑間の身長は高いが、黄瀬も背が高い。
「何をして……」
「本当の本当の本当の緑間っちッスよね!どうしたッスか?ここは都じゃないッスよ。外に出るなんて……
引きこもり、ニート脱出!おめでとう!ありがとう!!ついにその時が来たッスか。オレ……嬉しいッス」
「そんなに俺が外に出るのが、珍しいのか……黄瀬」
「当たり前ッス。これを聴いたみんなが信じられないって言うッスよ。青峰っちとか……あの人とか……オレだって
まだちょっと信じてないのに」
「俺という存在は一つしかないのだよ……変わらんな。お前は都を出たときから」
長年の願いが叶ったかのように黄瀬はまくし立てている。緑間は疲労を倍増させながらも黄瀬に答えていた。
取り残された周囲は茫然となりながらも、高尾だけはあることに気付いていた。
(都を出たときからって……)
「……彼……緑間っちの……うわーやばい。嵐がおきそうッス。こんなに驚くことが続くなんて!!」
「止まるのだよ。黄瀬」
黄瀬が高尾を見つけて余計に騒ぎ立てる。緑間はついに右手に力を込めると黄瀬の鳩尾に拳を叩きこんだ。
黄瀬は旧友と話したいからとトラブルをまたやってきた別の兵士に押しつけて緑間と高尾を連れて行く。
美味しい店を見つけたと黄瀬が緑間と高尾を案内したのは小さな定食屋だった。定食屋には老夫婦が経営していた。
四角いテーブルも背もたれ付きの椅子も、使い込まれている。高尾の隣に緑間が座り、黄瀬は緑間の正面に座る。
作品名:【旅の始まりの向こう】 作家名:高月翡翠