【旅の始まりの向こう】
人間は神々に嫉妬した。嫉妬は疑いに変わり、神々への恐怖へとなり、また憎悪となった。
高慢や虚栄、欲望が産まれ、人間は神々に変わって世界を支配しようとしたのだ。一部の人々は使われなくなった
世界の元から邪神を生み出し神々に対抗しようとしたが逆に邪神に支配され、起きたのは大戦争だ。
「大戦争が起きたとか聞いてないよ」
「……情報は伏せたからな、その時に俺たちは竜王の命令で邪神達と闘った。天地は破壊され、世界が終わった気がした」
古代竜は強大な力を持っていたがその力を持ってしても、神々やあらゆる力を足してもかろうじて邪神に勝利をすることしか
出来なかった。邪神達は神々達の力で封印されたが、神々達も傷つき、別の世界へと移った。動物の王達もそうだ。
緑間は高尾に言わないが『彼』は……緑間の同胞である一人は邪神が産み出した者の封印を受け持っている。
眠り続けているため世界はかろうじて平和が保たれていた。古代竜も緑間からしてみれば兄や姉のような者達が居たが
戦争で死ぬ以上の目にあっている。緑間にとって残りの五人は同胞や兄弟、友人のようなものだ。
緑間は契約で人間にさらなる力を与えたこともあるがそれを使っても人間は死んでいった。
「真ちゃん……想い出させちゃってごめん」
「このことを話すのは初めてだ。気にするな。……精霊の王達の力や残った最初の人間の力を使い世界を復興させた。
俺たちの力は平和になった世界から見れば強大すぎるからと神々に戒められて、封印されている」
どれだけの大戦争だったのか高尾には想像は出来なかった。それからまた千年以上が過ぎている。
都から出ていない緑間は世界についての感想は上手く述べられないがあの時よりは平和だろうとは感じている。
神々が力を封印しているのは残った竜の力を竜王だけでは封印出来ないからである。封印されているとは言え人間よりは強い。
封印されていても強いが力の使い方を間違えたりしてしまえば力を没収されてしまう。
「ドラグーンの力でも勝てなかったんだ」
「……それぐらいの戦争だったのだよ。だが、今はそんなことはないから安心しろ」
ドラグーンの力でも勝てなかったのは向こうもドラグーンが居たからだ。緑間の兄に当たる古代竜は邪神によって
手先とされてしまっていた。緑間は姿を変えて、竜に戻る。
「帰るの?」
「そろそろ良いだろう。乗れ」
緑間は高尾を背に乗せた。いくつか魔法を使わなければならないが、緑間にとっては簡単にすむことだ。
高尾の重みを感じてから緑間は空を飛んで高速で飛んだ。風をきり人里へと帰る。
「真ちゃん、真ちゃんのこと話してくれてありがとうね。オレは真ちゃんのこと怖くないから」
「(……怖がられても、困るのだよ)労ってやっているからな」
高尾に嫌いになられることは緑間にとっては恐怖だったが表には出さずに見栄を張る。
「黒ちゃんは竜の中でも一番弱いって言ってたけど……古代竜はみんな強いんだよね」
「アイツは特殊だ。戒められている今は自分で闘ってもせいぜい街一つ壊すぐらいだ。アイツの力を他者に注ぐことで
本領を発揮する」
(せいぜいレベルじゃないよ……)
緑間が言ったのは竜の姿に戻ってから闘った場合である。人間の姿の黒子は弱い。戒められていない時でも戦闘力は
弱い方だが補助に力を回すことに関しては全員の中ではトップだ。黒子以外に補佐が上手い古代竜が居ないこともあるが。
夜中に街に帰ってくると大騒ぎとなっていた。
国を揺るがす大事態になっていたが緑間はマイペースに宿にいて、騒がしいと苦言ばかりを言っていた。
黄瀬とは会わなかったが……会おうにも竜を追うための準備に急いでいたために無理だった……テレパシーで
情報は得られた。緑間が欲しかったのは今の世界情勢についての情報と高尾の故郷の手がかりだ。
「……レスラス方面に行けか。長旅になる」
地図に印をつけて貰ったがここからレスラス帝国は遠い。黄瀬は高尾の故郷については知らなかった。緑間が高尾から聞いた
故郷の手がかりなどを話してみたが黄瀬は思い出せなかった。オレも全てを知ってるわけじゃないッスというのは
黄瀬の言い分だ。
レスラス方面ならばもしかしたら手がかりがあるかも知れないと黄瀬が言っていたので行くことにする。
「あんまり挨拶とかして無くて良かったの?同胞なんでしょ」
「世界が存在する限りは逢える」
途方もない言葉であるが緑間にとっては黄瀬も黒子も他の同胞達も、世界がある限りは何処かで出会えるのだ。
市場で必要なものを買いながら緑間と高尾は話す。竜騒動が収まるのには時間がかかった。
誰も竜なんて見たことがなかったからだ。それも古代竜である。
「レスラスとか見たこと無いんだ」
「……故郷がそこにあるとは限らんぞ」
「見つかるまで旅するだけ!これも持って行こう!!」
高尾は市場から欲しいものを物色する。黄瀬が礼にといくらか金貨を置いていってくれたのでそれで必要なものを揃えていた。
緑間と会話をしていた黄瀬は旅のコツも教えてくれた。無駄遣いしない、余分な物は持たないなどだ。
人混みを背にしながら高尾は服を手に取る。
「そんなに持って行くな」
「長旅になりそうなんだし」
「だから軽くするのだよ」
「持って行かせてよ。ケチ!!」
怒る高尾を無視した。財布は緑間が預かっている。
市場の喧噪が以前よりも耐えられるようになったし、中にいる居ると面白い。都から出た緑間には全てが新鮮だ。
高尾も似たようなものだろう。
「……一枚だけだぞ」
「二枚にしよ。ペアルック」
高尾が派手なシャツを二枚手に取る。
穏やかな気持ちでいようとした緑間であったが止めた。緑間の持つ財布を取ろうとする高尾の手を叩く。
軽蔑するような瞳で高尾を見下ろした。
「これは着んぞ……」
【Fin】
作品名:【旅の始まりの向こう】 作家名:高月翡翠