【旅の始まりの向こう】
「話した方が良いッス」
高尾は古代竜について知っていることと言えば遙か昔から生きていると言うことだ。
圧倒的な力を持つ竜で、人間と契約すると人間をドラグーンのすることが出来たりするぐらいであり、細かいことは知らない。
黄瀬が気配に気がつく。張られていた魔法が消えたことを緑間は感じ取った。
食堂の扉が蹴られたような勢いで開く。
「黄瀬ェ!お前、何処で油売ってやがる!」
「笠松さん……ここが良く分かったッスね」
黒髪の青年が入ってきた。腰には黄瀬よりも豪華な長剣が鞘に入っている。
『─────────お前のドラグーンか?黄瀬』
『─────────笠松さんッス。俺が今いる部隊の隊長ッス。こっそり契約したッスよ』
緑間は先に気がついたことを黄瀬に伝える。テレパシーのようなものだ。笠松が黄瀬のドラグーンであることを見抜いた。
ドラグーンの契約というのは一方的に出来るため、黄瀬は緑間が高尾にしたのと同じように笠松と契約したのだろう。
古代竜は気に入ればドラグーンの契約を結ぶ。
「久しぶりに友達と会ったッス。話し込んじゃって」
「黄瀬の友達か?」
「緑間真太郎です」
「オレは高尾和成。真ちゃんの友達みたいなんだけどね。涼ちゃんは」
「俺は笠松幸男だ……騒ぎを収めずにダチと話してるとは……」
余計なトラブルを起こさないように緑間や高尾は黄瀬に話を合わせる。黄瀬は笠松に首根っこを掴まれていた。
「すまないッス」
「夕方の訓練には出られるんだろう……出るぞ……邪魔したな。まだ黄瀬と話したかったか?」
「話は終わった(───────詳しいことはコレですませるぞ)」
「まだ食事が終わってないッス。支払いとか(──────了解ッス)」
会話を伸ばすと笠松に悪いために緑間はテレパシーに切り替える。黄瀬と会ったのを認識出来たので街の中に黄瀬が
居る限りは会話が成立した。
「支払いだけして……」
「お金、置いていくんで」
「失礼した」
笠松が握り拳を作っていたので、黄瀬は財布から代金だけを置いていく。引きずられるような形で黄瀬は笠松に連れられていった。
手を着けられていない二人分の食事がテーブルに置かれている。
冷めそうだったので速く食べきる必要があった。
「協力して欲しいとか言っていたけど何も聞いてないよ」
「これから聞く。お前は食べていろ」
「真ちゃんも食べて」
高尾は緑間の前にフォークで突き刺したジャガイモを出した。
緑間は躊躇しながらも、高尾がフォークを突き付けてくるので高尾の右手首を掴むと緑間はジャガイモを口に入れて食べた。
始めて緑間と逢った夜よりも今夜は暗かった。街の門が閉まる前に外に出て、夜になるまで過ごした。
「お前は着いてこなくても良かったのだよ。高尾」
「オレだって空を飛びたかったもん」
町外れに来ている。
緑間は辺りに魔法を使い人払いをした。誰も居ない中で、緑間は黄瀬に頼まれたことを実行しようとしていた。
夜になろうとしている時間帯だ。緑間は眼鏡を押し上げる。
「変わるから、背に乗れ。お前は見えないようにする」
高尾が離れた。
緑間の姿が消え、本来の姿となる。
十メートル以上はありそうな、巨大な竜────────鱗は輝く緑色で、エメラルドのようだった。エメラルドよりも、
綺麗かも知れない。瞳も緑色であり、鋭い爪を持っていた。背には巨大な四枚の翼が映えている。尾は鋭い。
おとぎ話でしか語られない古代竜がそこにいた。
始めて見た時、高尾は緑間の竜としての姿に怯え、怖がっていたが今は違う。高尾は緑間の背に乗る。
「飛ぶぞ」
羽音が響き、緑間はすぐに上空へと飛び立つ。姿を消している魔法をかけているため飛びだって居る姿は視認出来ない。
途中で緑間は魔法を解いた。掴まっていろ、と緑間の声がしたので高尾は掴まる。
あえて人間達に見えるように緑間はやや低めに街の上を飛んだ。
「あれはなんだ!?竜か!!」
「でかい。騎士団は……!」
緑間の耳には下の声が聞こえた。街はパニックに陥っている。竜が……それも古代竜が姿を現したのだ。
パニックにならない方がおかしい。
「ここで三回転とかしてみてよ」
「曲芸ではないのだよ……飛ぶだけ飛んでから戻る」
攻撃されるよりも先に緑間は街から離れ、黄瀬が指定した方向へと飛ぶ。スピードは調整した。背中で高尾が騒いでいる。
剣だろうが、矢だろうが竜の姿となった緑間を傷つけられないが、背には高尾が乗っていた。
魔法で風圧は出来る限り減らしているが完全に消してしまうと高尾が調子に乗りすぎるので緑間はしない。
飛び続けて街から離れてから、緑間は魔法で姿を消すと大地に降り立った。高尾を降ろしてから姿を人間に戻す。
「楽しかった!飛ぶのって最高!!」
「帰ったらしばらくは飛ばんぞ。黄瀬の奴は上手くやっていると良いが……俺が飛んだ意味がない」
「真ちゃん、涼ちゃんが言っていた古代竜のことって?オレ……真ちゃんのことあんまり知らないよ。古代竜って……何?」
「昔に産まれた竜なのだよ」
「それは解るよ……」
古代竜というのは何か、高尾は知らない。古い時代に産まれた竜とだけしか解らない。
緑間は沈黙し、言葉を選んで話し出す。
「……この世界には、最初に世界の元があり、そこから天空の神と大地の神が産まれた。二柱の神々は混じり合い、様々な神々を産み出した。太陽神、月光神、雷神にして戦神、山神にして鍛冶の神……水神にして豊穣の女神……それぐらいは知ってるだろう」
「知ってるよ。村でも信仰されていたもん」
創世神話というのだろうか、高尾は興味はなかったが一度ぐらいは聞いたことがあった。高尾が居た村にも小さな神殿があり、
七柱が奉られていた。他にも小さい神が居たが力の強い神は七注だ。
「次に世界を構成するための精霊を司る精霊王を産み出した、火、水、風、地、光、闇……の六属性と世界に住まう者として
動物の王を作り出した。巨人や霊獣も生まれ光王が世界を照らし世界が動き出した……今回、重要なのは動物の王」
「真ちゃんは竜だから……動物の王から産まれたの?」
緑間は大雑把に説明する。巨人や神々と精霊が混じり合い出来たとされ、霊獣は精霊や動物の王が混じり合い出来たとされているが、
これもうわさ話でしか聞いたことがない。高尾の言葉に緑間は軽く頷く。
「……動物の王は七柱、蟲の王、鳥の王、魚の王、蛇の王、牙持つ獣の王、蹄持つ獣の王……そして、竜の王……俺や黄瀬や黒子は
竜の王から、産み出された最初の竜なのだ」
古代竜が誕生したのは創世神話が終わり、人間と呼ばれる種族が産まれた頃だ。竜の王は自分の直系である竜達を産み出した。
黄瀬が緑間を同じ父にして母から産まれた同胞にして兄弟と呼んでいたのはそういったわけであったのだ。
竜の王は他の王とは交わらず自分単体で分身を産み出した。古代竜は無限に等しい力と神々に匹敵する力を持つ。
「六人居るんだよね」
「……今は六人だ……数え方にも寄るが……ついでに話してやる」
産み出されたばかりの世界は平和で争いごとなど無く、最初の人間は寿命も長く技術も持ち、数千年平和に暮らしていたが、
作品名:【旅の始まりの向こう】 作家名:高月翡翠