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As you wish / ACT6

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くん、と匂いを嗅いで、あからさまに正臣に見せつけるようにゆっくりと傷口を舌でなめ、臨也は目の前のその、いとしい少年を独占してきた憎き幼馴染に向かって、挑発の台詞を吐くことにした。

「人に見られるって興奮するよねー、抑えられないや」

半分本音で、だからその後すぐに帝人の首筋にかぶりついた。はっ!?と裏返った声を上げた帝人には、心の中でごめんねと謝っておく。たぶん伝わるだろう。この幼稚な独占欲ごと、全部帝人には伝わって、それでいい。
俺がどれほど君を愛しているか、君はその身を持ってもっと知るべきだ。そうして同じだけというのは難しいとしても、せめてその何分の1かくらいには、帝人からも執着してくれなきゃおかしい。身も心も無防備に帝人へ捧げているこの折原臨也と言う吸血鬼が、帝人の隣を当たり前のように独占する彼の親友に、嫉妬を覚えないなんてことがあるだろうか。いや、これは嫉妬と言うよりも最早殺意にさえ近い感情だ。そんなものを静雄以外に抱く日が来るなんて、帝人に会うまで知らなかった。そう、帝人は初めてのものばかりを臨也にもたらす。心地よいものも気色悪いものも、ごちゃごちゃとぶちまける。それに不満があるわけではない。帝人は臨也のご主人様なのだから、もっと自分の好きなようにしてくれて構わないと思う。臨也にできることは、その帝人から与えられたごちゃまぜの感情を租借して、苦くとも甘くとも丁寧に飲み下し、ああこれが帝人君が与えてくれたものかと思って愛しむことだけだ。
とことん狂っている。けれどこの帝人の匂いに、しびれるような味に、満たされたなら何もいらないと本気で思えるくらいには、狂っていることを許容している。

「ちょ、臨也さ・・・、っ」

いつもより血を吸うペースが早いことに気付いた帝人が抵抗の声を上げようとするのを、抱きしめる腕に力を込めることで止めた。もう少しいいでしょう、ずっと我慢してきたんだから。もう少し、見せつけるくらい。
子供じみた独占欲だなんて自分が一番理解している。それでも、帝人が臨也に命令をするときは必ずと言っていいくらい紀田正臣が渦中にいた。どす黒く渦巻くこもごもの感情を、抑えることはできてもなかったことにはできない。
子供の様な白い肌、押し付つけられた髪にくすぐったそうにするしぐさ。
抵抗しないくらいには信頼されていることを知って。
まっすぐに向けられる透明なその目や、それがすうっと細められる瞬間。
自分しか知らないその表情に喜んで。
でもまだ足りない。
ねえ早く、俺のものになって。俺だけのものに。君にとっての一番を、俺に。早く早く。
でないと本当に、嫉妬で狂ってしまうよ?臨也はそこまで考えて、ようやく笑った。
帝人になら殺されてもいいと思えるくらいには、愛している。

「・・・っ、うぁ」

そろそろ限界、という間際で唇を離した。腕の中でがくりと力を抜く帝人を、自分のほうに抱きよせて、まだ血があふれている傷口にガーゼを押しつける。
「新羅、新しいガーゼとテープ」
「ちょっと待って」
興味津津に吸血の様子を見つめていた新羅は、満足したのかパタパタと駆けていく。荒い息をつきながら、腕の中で帝人が臨也のわき腹を思いっきりつねった。
「・・・この、馬鹿」
悪態をつくが、力が出ない状態では痛くもない。
「ん?ごめんねー帝人君。でもほら俺これから働きづめなわけだから、前もってご褒美貰っておいてもいいんじゃないかと思うんだよね」
「欲張りにも程がありませんか」
「だって紀田君の平和な日常を取り戻さなきゃいけないんでしょ、俺」
ちらりと視線を合わせたなら、正臣は驚いたように顔をこわばらせて肩を揺らした。思い知ればいい、と臨也は思う。


俺がどれほどこの少年を愛しているか、思い知れ。


「帝人君、ガーゼやってあげるよ」
「あ。はい・・・」
「消毒液つけないでね、あれやるとまずくなるんだから」
ひょいと帝人をもちあげてソファに座らせ、臨也は軽く肩を回す。体が軽い。当然だ。帝人への配慮で量を決めていたのだがら、めったに満腹になることはなかった。ちょっと無茶はしたけれど、このくらいの我がままなら対価と引き換えに許容してくれるはず。
モッズコートを手に取り、くるりと振り返りながらそれを着る。さてどうやって紀田正臣を安全に日常に避難させることができるのか、頭の中でいくつかのシュミレートと計算を繰り返して、やっぱりあれしかないかと肩をすくめた。
頼りたくないけど、困った時は利用しなきゃ損だよね。
「さて、2日時間をくれないかな、帝人君」
携帯を開きながら言えば、帝人はふらふらしながらも顔を上げた。すんだ瞳の奥に、青い炎が揺れるような、そんな目をしている。ああ、綺麗だ。
「パソコン借りれます?」
「俺のノート使っていいよ」
「なら、良いです。2日ですね、分かりました」
「ねえ帝人君さあ」
真新しいガーゼを首にあてて、すっかりさっきまでの様子を立て直した帝人に、臨也はすねたような顔で歩み寄った、腰をかがめて、視線を合わせる。
「こういうときは命令してよって、言ったでしょ?」
竜ヶ峰帝人と言う人間は、基本的に礼儀正しい人間なのだ。
何かを「お願い」することはあっても、一方的に「頼む」ことはあっても、めったに「命令」はしてくれない。それが臨也にとっては少しもどかしい。
だってそんな少年だからこそ。
「命令」は特別に甘美な響きがする、と思う。臨也は少なくとも、その少年らしい唇から吐き出される「命令」を、心の底から愛している。
帝人は数秒間、探るように臨也を見据えた。凍てついたようなその瞳に、自分がどんなふうに映っているかと思考するだけで、臨也は楽しいのだけれど。
「・・・仕方のない人」
何度か目の同じつぶやきは、しかし先ほどとは全く色を変えて響く。楽しいなあ、楽しいなあ楽しいなあ!やっぱり帝人君はこうでなくっちゃね!
笑う臨也に、帝人は冷たい声のまま告げた。




「今すぐ問題解決のために尽力しなさい、片付くまで帰ってくるな」
「仰せのままに」
作品名:As you wish / ACT6 作家名:夏野