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Ring

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「小宮のこともね、忘れたわけじゃないよ」
「こみ、や…?」
「花火、一緒にした相手。ただ、アイツがいなくなって随分たつから」
 時間が経てば経つほど、小宮の顔も声も朧気になっていくから、いつか、そう遠くない未来に思い出せなくなる日がくるんじゃないかと、久保田はそう思っている。
 彼は久保田の人生のワンシーンに登場し、やや重要な役所を演じて、そして退場した。それでいいんじゃないかと思っている。小宮が最期に久保田の胸の内に植え付けていった種は、時任と出会って一緒に暮らしていくことによって立派に芽吹いたから。
 時任が久保田の胸元にすり寄って、そうっと目を伏せた。
「……前に一緒に暮らしてたのって、その小宮とかいうヤツ?」
「ん?」
「俺の前に一緒に暮らしたヤツがいるって言ってただろ」
「ああ、あれはねぇ、――葛西さん」
「……は?」
 腕の中の猫はポカンとして久保田を見上げた。
「俺、中学のころって葛西さん家にお世話になってたんだよね」
「き、聞いてねーよ! つか、それなら最初っからそう言え!」
「うーん? さっきも思ったんだけど、俺、夕べ言ったよねぇ。葛西さんのアパートの鍵が見つかったから、キーホルダーにつけとくねって」
「…………鍵? 見つかった?」
「前使ってたヤツね。お前に渡しとけば、何かあった時に駆け込めるっしょ?」
「…………そんな話いつしたよ」
「昨日。お前がゲームやってるとき。……聞いてなかったワケ?」
「………………」
 久保田が今日鍵を忘れた原因がそこにある。自分の持っていた鍵と葛西の家の鍵をキーホルダーにまとめて、そちらを時任に持たせ、久保田自身は時任が使っていた鍵を受け取る予定だった。時任に玄関に置いておくよう頼んでおいたのだが、聞いていなかったのでは意味がない。久保田自身もついうっかりしてそのまま出かけてしまったわけだ。
(やれやれ)
 完全に自分の落ち度だと悟った時任は、きょときょとと視線を揺らし、上目遣いでそっと久保田を窺う。何をどう誤解して一日ぐるぐる悩んでいたのか知らないが、時任の中に不安の火種を蒔いたのは、久保田にも関係がなくはないらしいので不問にしておく。
「時任、もう眠れそう?」
「…………お、おう……ってこの体勢で寝るのか?」
「そのくらいのサービスはしてもらわないとねぇ」
「サービスって……なんじゃそりゃ」
「はいはい。いいからもう寝るよ?」
 そう言って久保田は時任の額に軽く口づけた。時任が目を見開く。だが、彼は慌てることもなく、咎めることもしなかった。ゆっくり目を閉じて、久保田の身体に寄り添う。久保田の好きな甘い声が胸元でささやいた。
「おやすみ、久保ちゃん」
「……うん。おやすみ、時任」
 久保田は時任を抱きしめる手に力を込めて目を閉じた。
作品名:Ring 作家名:せんり