友達ごっこ (新羅の証言)
臨也がまだ今ほどに狂っていなかった頃を知っている。例えば柔らかく笑うところも、困ったように眉尻を下げるところも、そういう素顔っぽいところなら、沢山、数え切れないほど、目にしてきた。
俺が臨也の友達でいるのは、俺もまた、ある意味で外道だからなんだろう。これは折原臨也についての話だ。俺が知っている部分はきっと臨也の一面でしかない。でも、あいつを評価するにはその一面だけで十分だ。これだけは確信を持って言える。折原臨也は昔から『反吐が出る』ような人間だ。
俺は、まだ中学生だった臨也が売春の元締めをしていたり親父狩りをしていたり、家に帰らないで遊び歩いていた事を知っている。臨也は中途半端な不良の枠にはおさまらず、一時期、平和島静雄と並んで生きた伝説みたいになっていた。逮捕されそうになった奴が臨也の名前を出した途端に警察の対応がガラッと変わったとか、都内最強勢力を誇るチームの参謀をしているとか、臨也はIQ180の天才だ、なんてのもあった。
ちなみに、俺と臨也の初めての会話は、
「人間ラブって本当?」
「何それ、アハハハ、そっちこそ、首なし女にしか勃起しないって本当?」
だった。二度目の会話は、
「親父狩りって犯罪じゃないの?」
「彼女に余計な事に首突っ込むなって言っといてよ」
だった。傍から見ればたぶん噛み合ってなどいないのだろうけれど、俺と臨也はこれ以上ないほどに通じあっていた。
臨也の言った『彼女』は俺の愛してやまないセルティの事で、セルティは先日、若者グループがくたびれた会社員を囲んで恐喝しているのを目撃し、制止している。逃げ足の速さや、やり口の巧妙さから、臨也の息がかかったグループであると察した俺を見て、臨也は面白そうに笑っていた。
高校に上がった時、臨也は真面目な優等生タイプの男子高生の格好をして、その格好に合った振る舞いをしていた。コスプレみたいだと俺が言うと、臨也は、笑って、「似たようなものさ」と言った。
「新羅こそ、いつまでも恋人は首無し女とか言ってたら、またみんなにドン引きされるんじゃないか?」
俺と臨也は、人に言えない悪事を共有することで親しくなっていったのだろう。確かその頃にはもう、俺が医者として不法に手術をしている事を臨也は知っていたし。
そういえば、臨也は静雄の事をおそらく最初から知っていたと思う。不良の間で静雄は有名だった。情報通の臨也がそんな奴を調べてないはずがない。静雄の方は臨也を知らなかっただろう。静雄は驚くほど不良の勢力図に興味がなかった。ただ襲ってくる災難を片付けるうちに勝手に名前が売れてしまっただけで、臨也が影でつるんでいるような、集団で反社会ぶっている連中とは、関わりを持とうとすらしなかった。たまには舎弟にしてほしいと付いてくる奴だっていたけど、静雄にとっては、暴力のにおいに誘われて纏わりついてくる奴らは鬱陶しいだけだったのだろう、例外なく、静雄にボコられて消えた。
俺は静雄に臨也を会わせた。臨也は髪も染めていなかったし、動作も人を威圧するような所がなかったから、静雄に喧嘩を売るような奴には見えなかったはずだ。でも、静雄は、臨也が「よろしく、シズちゃん」と差し出した手を取らなかった。静雄は、きっと、本能的に、臨也に染みついた暴力の影に気付いていたのだ。静雄は初対面の臨也に殴りかかり、臨也の方はあっさり本性を出してナイフで応戦した。二人の仲は最悪としか言えないものになるだろうと俺は思った。
俺が臨也の友達でいるのは、俺もまた、ある意味で外道だからなんだろう。これは折原臨也についての話だ。俺が知っている部分はきっと臨也の一面でしかない。でも、あいつを評価するにはその一面だけで十分だ。これだけは確信を持って言える。折原臨也は昔から『反吐が出る』ような人間だ。
俺は、まだ中学生だった臨也が売春の元締めをしていたり親父狩りをしていたり、家に帰らないで遊び歩いていた事を知っている。臨也は中途半端な不良の枠にはおさまらず、一時期、平和島静雄と並んで生きた伝説みたいになっていた。逮捕されそうになった奴が臨也の名前を出した途端に警察の対応がガラッと変わったとか、都内最強勢力を誇るチームの参謀をしているとか、臨也はIQ180の天才だ、なんてのもあった。
ちなみに、俺と臨也の初めての会話は、
「人間ラブって本当?」
「何それ、アハハハ、そっちこそ、首なし女にしか勃起しないって本当?」
だった。二度目の会話は、
「親父狩りって犯罪じゃないの?」
「彼女に余計な事に首突っ込むなって言っといてよ」
だった。傍から見ればたぶん噛み合ってなどいないのだろうけれど、俺と臨也はこれ以上ないほどに通じあっていた。
臨也の言った『彼女』は俺の愛してやまないセルティの事で、セルティは先日、若者グループがくたびれた会社員を囲んで恐喝しているのを目撃し、制止している。逃げ足の速さや、やり口の巧妙さから、臨也の息がかかったグループであると察した俺を見て、臨也は面白そうに笑っていた。
高校に上がった時、臨也は真面目な優等生タイプの男子高生の格好をして、その格好に合った振る舞いをしていた。コスプレみたいだと俺が言うと、臨也は、笑って、「似たようなものさ」と言った。
「新羅こそ、いつまでも恋人は首無し女とか言ってたら、またみんなにドン引きされるんじゃないか?」
俺と臨也は、人に言えない悪事を共有することで親しくなっていったのだろう。確かその頃にはもう、俺が医者として不法に手術をしている事を臨也は知っていたし。
そういえば、臨也は静雄の事をおそらく最初から知っていたと思う。不良の間で静雄は有名だった。情報通の臨也がそんな奴を調べてないはずがない。静雄の方は臨也を知らなかっただろう。静雄は驚くほど不良の勢力図に興味がなかった。ただ襲ってくる災難を片付けるうちに勝手に名前が売れてしまっただけで、臨也が影でつるんでいるような、集団で反社会ぶっている連中とは、関わりを持とうとすらしなかった。たまには舎弟にしてほしいと付いてくる奴だっていたけど、静雄にとっては、暴力のにおいに誘われて纏わりついてくる奴らは鬱陶しいだけだったのだろう、例外なく、静雄にボコられて消えた。
俺は静雄に臨也を会わせた。臨也は髪も染めていなかったし、動作も人を威圧するような所がなかったから、静雄に喧嘩を売るような奴には見えなかったはずだ。でも、静雄は、臨也が「よろしく、シズちゃん」と差し出した手を取らなかった。静雄は、きっと、本能的に、臨也に染みついた暴力の影に気付いていたのだ。静雄は初対面の臨也に殴りかかり、臨也の方はあっさり本性を出してナイフで応戦した。二人の仲は最悪としか言えないものになるだろうと俺は思った。
作品名:友達ごっこ (新羅の証言) 作家名:うまなみ