友達ごっこ (新羅の証言)
でも、そうはならなかった。
「あいつが攫われんの見て、なんか放っとけなくて助けに行ったら、なんか素直に礼とか言ってきて」
「うっわぁ。すごいね静雄!何て言われたの?」
「『ありがとう、来てくれるなんて思わなかった』か?おい、何笑ってんだよ」
「そんなの臨也のキャラじゃないよ!気持ち悪い、じゃああいつ、よっぽど危なかったんだろうねぇ、珍しいなぁ、よかったねぇ」
「よくねぇよ、つーかそれだけじゃねぇんだよ・・あいつ、歩けないっつうから、おぶって家まで送ってやったんだけど・・・」
「けど?」
「なんか、対戦ゲームやって、その後夕飯食ってたら帰るタイミング逃して、結局あいつん家に泊っちまった」
「はぁ!?何でそーなるの?君、初対面から臨也の事物凄く嫌ってたよね?」
「いや、なんか気持ち悪くてむかつくけど、喋ってみたら普通だったし。」
俺は、臨也が普通?と聞き返しかけ、静雄に睨まれて黙った。
静雄は、昔からすぐに癇癪を起してキレる奴だったから、きっと他人の家に行った事なんかほとんどなかったんだろう。静雄は女の子に人気があったけれど、みんな静雄と深く関わろうとはしていなかった。いつキレるか分からない静雄に、何かして欲しいと頼んだりするような勇気のある図々しい奴はいない。だから、静雄は臨也から「ありがとう」とか「家まで送ってよ」とか言われて嬉しかったはずだ。
今も、気持ち悪い、と言いながら、静雄は本気で臨也を嫌悪しているわけではないと俺には分かった。
正直に言おう。実は俺はホッとしていた。臨也と関わった年月が短くて、まだ彼の本性を理解しきれていなかったせいもあって、俺は、静雄と臨也が仲直りをしたのだと思った。俺は二人の事をどちらも嫌いじゃなかったから、できれば二人には仲良くなってほしかったのだ。
静雄は相変わらず沸点が低くて、よくキレた。静雄がキレそうな時に俺は止めたけど、臨也は流石に不良と付き合いがあるだけの事はあって、全然退かなかった。静雄が臨也を追いかけまわし、二人で血だらけになって俺に治療を頼みに来た回数は数え切れない。臨也の怪我は主に静雄の怪力による骨折で、静雄は臨也の振り回したナイフによる刺し傷切り傷だった。静雄と臨也の喧嘩を止める事ができるのは露西亜寿司のサイモンくらいだったが、大抵、静雄に怪我を負わせて臨也が逃げ切るか、臨也が何発か殴られて『降参』すればどんなに派手な喧嘩になっても、それで終わりだった。尾を引かなかったのだ。
臨也はたとえ静雄のせいで骨折をしていても、喧嘩が終われば普通に静雄と喋っていた。臨也は、きっと静雄にとって初めての対等に喧嘩できる友達だったのだ。
いつだったか三人で喋っている時、臨也が、「でも、俺はシズちゃんの喧嘩見るの好きだよ」と言った。静雄は、「はぁ?」と答えた。
「陳腐な表現になるけどあえて言うなら、格好いいからね。圧倒的で、小手先のテクニック全無視な所に、俺としてはある種のカタルシスを感じるのさ。人生観が変わったって言ってもいいくらいだ」
「意味わかんねぇ」
口ではそう言っていたが、静雄の耳は赤くなっていて、どうやら照れているようだった。俺は、違和感を覚えた。静雄は、暴力が嫌いだと言っていた。臨也は、そんな静雄の力を称賛しているのに、静雄は怒っていない。気付いた時、全身に鳥肌が立った。
臨也は、実に人をそそのかすのが上手かった。俺は、そのやり口を一番近くで目撃したのだ。
作品名:友達ごっこ (新羅の証言) 作家名:うまなみ