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大事なものは王冠の下

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がちゃんっ とプロイセンが剣を落とした。
「ちょッ…あんたそれ傷つけたら弁償しなさいよ!?」
「ううううるせー!! それよりアメリカに何吹き込んでんだお前!」
「吹き込んでないわよっ! なんで私がそんなこと言う必要が!」

「あれ、否定しないんだな君たち」
真っ赤になって言い争う2人が面白くて口をひんまげて笑ってやった。
ウソみたいに同時にこっちをにらんで、2人が異口同音に
「「つきあってないっっ」」
と叫ぶ。
「ええー」
そのタイミングはいくらなんでも嘘っぽいよねと言おうとしたら今度は同時に左右から胸倉を掴まれた(ちなみにアメリカは、プロイセンは左利きだとここで気付いた)。
「余計なこと言いふらすんじゃないわよ!」
「お前の考えてることは8割誤解だからな!?」

「ワオ。息ぴったりだね」
手合わせしていた間よりよほど息が上がっているハンガリーと、子供じみた勢いでつっかかってくるプロイセンを眺めてアメリカは笑った。

「もう、からかわないでよ!」
ハンガリーが手を離してぷいとそっぽを向いた。
「お茶入れてあげるからあんた中入っていきなさい、犬にもお水あげる。アメリカ」
ハンガリーが振り返る。目つきが険呑だ。
「うん?」
息を呑んだ。認めたくないけどたじろいだ。

「夕飯食べて王冠置いて帰りなさい」
「えっ」
流れが読めない。あえて読まなかったとかでなく読めない。
アメリカは呆然と瞬いて眼鏡ことテキサスのフレームを押し上げた。
どうもこの流れの変化は、彼が持ってきたような気がするのだけど。
「王冠ってイシュトヴァーンのか? 戻ってきたのか」
鞘に入れた剣をいつの間にか二本まとめて担いだプロイセンがアメリカを見下ろす。
「君、知ってるのかい」
「知ってるも何もあれ守るためにどんだけ苦労させらr」
「あんた苦労した分うちを荒らしたでしょ!?」

プロイセンの背後でハンガリーが凄んだ。
「いてててて耳引っ張るなよ暴力女! つーか、お前の夕飯が世界に一つしか残ってない聖王冠の代償かよ」
「あらあんた夕飯いらないのね、じゃああんたの分はアメリカにあげるから。王冠のお礼に上乗せとして」
「なんでだよ作るんなら食うにきまってんだろ! おいアメリカ、お前今すげー不平等条約押し付けられてんぞ抵抗しろ!」
「ははは!」

アメリカは盛大に笑った。
「メニュー次第だな」
「任せといて」
ハンガリーは胸を張った。

「特製ハンバーグにするから」

男2人の歓声が上がった。

***

「お前、剣に力を乗せるタイミングが早いからアイツにいなされるんだぜ?」
犬の足を洗う手伝いに駆り出されたアメリカにプロイセンが言う。
「だって彼女の方が速いんだから急がないといけないじゃないか」
「力入れたらその分重心移動は遅くなんだよ。剣の重みに合わせりゃいいんだ。剣先で打ち合おうとするのはビビってるからだ」
2人して、大型犬の前足を上げさせて水で流しながらの会話。
「柄に何のために出っ張りがあると思ってるんだ、ぶつかったって指が落ちるわけじゃねえ、剣が落ちる瞬間を狙って押すだけで、相手の剣を押さえこめる」
アメリカは眉間にしわを寄せて、イメージの中で剣を振ってみる。
今一つ感覚は掴めないが、筋は通っているようだ。
「詳しいね」

「当たり前だ。俺は天下の軍事国家プロイセン様だぜ」
プロイセンは子供のように胸を張った。
「最強であることだけで一国まとめ上げてきたんだからな」

アメリカはきょとんと瞬いた。
それから今度こそ大声で笑い出した。

「それは心強い。俺は君を先輩と敬うことにするよ」

おだててもハンバーグは分けてやんねーぞ、とからかわれながら、2人は屋敷へ入って行った。
ハンガリーが二度目のお茶の支度を終えて待っている。

***fin***