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情死、

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 透明な朝。透き通る雲。駆けてゆく三毛猫。
 悪くない。悪くは、ない。俺は重ったるい脳味噌を二、三度ゆうらりと揺らした。安っぽい煙草の煙は、深く深く肺に降りる。途端に縮こまる肺機能。別に、美味しいワケではない。だのになぜこんなものを吸っているのかと問われれば、彼の真似をしてみたかった、彼のフリ、それだけに納まる。肺に煙が充満してゆく感覚。何度してもこれには慣れない。こんなに気持ちの悪いものを、こんなに苦くて不味いものを、いつも吸っている彼は尊敬に値する。まあ、興味本位でそんなものをまた吸ってしまっている俺も中々か。あぁ、東京の朝はこんなにも息苦しい。吐息は灰色に濁りきっていた。
 ぱさぱさと乾燥してしまっている髪の毛を、多少乱雑にぐしぐしと掻く。先程シャワーを浴びたばかりの所為か、シャンプーの匂いが色濃く残り、鼻につく。しかし唇から漏れる煙がふわふわと立ち上り、鼻腔をくすぐり、それすらも消し去ってしまった。視界がくすむ。俺を濁らせる。気分まで滅入ってゆくようだった。空は、こんなにもすかんと気持ちよく抜けて、透明な程に晴れていると言うのに。なんだかなあ。溜め息を吐けば、煙が流れ出た。と、ぎいい。部屋の扉の蝶番が軋む音がした。錆びたベランダの手すりから身を起こして、緩慢に首を曲げる。
「……あ。おかえり」
 仏頂面、しかめ面。金髪は痛んで色が抜けて、風に頼りなさ気にさらさら揺れる。彼は、俺の唇に挟まるそれを見て、苦々しげに眉根を寄せた。なんだよ、タバコ、また吸ってんのか。体に悪ぃんだし止めろよ。と、渋い顔をする彼が、見た目は金髪でおっかなく、そして何より自身も煙草を吸っているのに、いかにも母親みたいに心配気にそう言うので、俺の咽はくすくすと鳴った。あのさ、君が言っても説得力ないよ。判っている?俺が笑い声交じりにそう問えば、は?………あー、と。煮え切らない返事。渋い顔の侭ふわふわの癖っ毛をくしくしと掻く。その様がさっき階下を通って行った三毛猫の動作に見えて、俺の咽は尚の事くすくす鳴った。
 笑うと彼は更に渋い顔になる。只でさえ目つきが悪いし、見た目は相当怖いのに、吊り上がる目尻と寄せられた眉根の所為で、それが更に増している。ひとしきり笑ったのでここまでにしよう。あんまり笑い過ぎると、彼の機嫌を立て直すのが面倒臭い。しかしどうにもこうにも可笑しくて仕様が無い。引きつる咽をようやっと抑えて、俺はまた、空を仰いだ。
「ねぇ。俺、またころしちゃった」
 見れば、さっきの三毛猫は、道路で轢かれていた。

作品名:情死、 作家名:うるち米