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情死、

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 そいつは、異常恋愛者だった。
 何時からと問われれば、それは不確かなのだけれど。高校生の頃にも変な噂は聞いていた。相手をとっかえひっかえ、男でも女でも、隣で歩いている人が何時も違う。しかしそんなのあまり気にならなかったし、当時の俺は、そいつをころしたい衝動に駆られるばかりで、他には、何の感慨も沸かなかったのだ。まあ、そういう奴なんだな、と。ある意味、似合っている気さえしていた。俺から見たそいつは、上っ面だけで愛を語る、いけ好かない奴なだけだったのだ。
 だけどある日。その日は天気が良くて、俺は気持ち良く、青空の下、屋上で元気に午後の授業をサボっていた。嫌いなそいつもその日は目にしなかったし、風はさわさわと心地好く吹いて、絶好のサボり日和だったように思う。俺は久々の穏やかな心に身を任せて、ゆったりと大きく深呼吸。すかん。と透明に、抜けるように晴れた青空は、そのまま、俺の心だった。風は俺の、染めたばかりの金髪をきらきらと揺らして、普段だったらそれすらも煩わしいと感じるのだけれど、その日は何故かそれを、幸せに、気分良く感じていた。のだ、けれど。
 ギイギイと不恰好に軋む音が、誰かの訪問を告げていた。こんな時間にここに来る奴なんて、大体絞られている。俺は嫌な予感がざわざわと胸の裏っかわを引っ掻くのを感じながら、その、遠慮がちに少しだけ開いたドアに目をやった。すると予想通り。そこからは濡れたような黒髪が、ちょこん、とほんの僅かに見えて、途端、俺の口角がひくりと引き攣るのを感じた。何時もそうだ。別段あいつが何かをするでもなくとも、あいつの存在自体が、俺の琴線に悉く触れる。神経を逆撫でる。その日も特に例に漏れず、そのふさふさと風に揺れた黒髪は、俺のこめかみをぴきぴきと固まらせた。
 しかしそいつは何時もと様子が違った。普段のそいつからすれば、それこそ、俺が居ようが居まいが関係なく、遠慮も無しにずかずかと入って来る筈だった。しかし。そいつはちらと黒髪を覗かせたまま、一向にそこから動こうとしなかった。俺は最初、そいつがまた、何時もと趣向の違う悪ふざけをしているのだろうと思った。それがどんな風に俺に関係して来るのかは判らなかったが、そいつの何時もと違うような言動、行動は、大抵良くない事の前触れである。その為俺は身体を強張らせて、微動だにしないそいつを、じいと凝視していた。
 どのくらい見つめても、睨んでも、待っていても、そいつは動かなかった。好い加減に可笑しいと感じて、多少小走り気味にそいつに近付けば、小さく、嗚咽。それは大きくなく、弱弱しく、本当に、押し殺して押し殺して押し殺して、ようやっと漏れ出たような、そんな類のものだった。いよいよ訳が判らなかった。そいつは俺を困らせる為に、これまでに幾度と無く泣き真似をしたことはあった。しかしその時のそれは、その、どれでも無かった。あんまりにも脆弱で、繊細で、今にも壊れてしまいそうなそれに、俺は息が詰まった。
 そ。と、指を伸ばす。びくり。その華奢な肩が震えた。暫しの沈黙の後、そいつは緩慢に顔を上げた。少し、ふらふらと視線を彷徨わせて、くるりとこちらを向いた瞳は、ぐずぐずと瑞々しく潤んで。それに俺は戸惑って、ぱっ、と手を引いてしまった。そしてその後に、何かばつの悪さのような、後ろめたさのような物を感じたが、そいつはそんなことちっとも気にしていない風で、へらり。と笑った。しかし、俺はそんな物には、全く安心出来なかった。寧ろ、胸のざわめきが、殊更増したような気さえした。その相貌は、未だ、しとどに濡れそぼっていたもので。その、薄い唇が開いた。
 ひとを、ころしました。

作品名:情死、 作家名:うるち米