不機嫌な訳
+おまけ+
「…アキラってホント馬鹿だよね」
アキラを抱きかかえたまま廊下を歩いていた時、ようやく正気に戻ったアキラに降ろして下さいと暴れられて渋々下ろしてやったほたるは歩きながらそう言った。
その声音には明らかに呆れている感が込められている。
「そうですか?」
馬鹿と言われたアキラは少しむっとした面持ちで、ボケ~っと自分の隣を歩いているほたるに棘を何千本も含んだ口調で言った。
「うん、馬鹿」
とほたるはアキラの問いに平然と頷く。
更にむっとした顔になったアキラに気付かずにほたるは続けた。
「だってさ、狂の事なんか話さなくたってアキラの事話してくれればいいのに」
「え…」
「そうすれば今度は俺が自分の事話してあげるからさ」
アキラはしばし何も言わずにそのほたるの言葉を自分の中で反芻した。
そう言われればそうだ。
空白の四年間を知らないならその頃の事を本人に尋ねて知ればすむ事だ。
アキラは一つ溜息を付くとほたるに笑みを向けて言った。
「確かに、この件に関してはほたるの意見に同意する他ありませんね」
そんな当たり前な事に考えが及ばなかった馬鹿な自分にアキラは苦笑を浮かべた。
「それじゃあさ、今度は狂の事なんかじゃなくてアキラの事を聞かせて…?」
「ほたるもお話して下さるんでしょう?」
二人は笑みを交わし、昔話に花を咲かせたのだった。