Fool on the Planet
そんな軽口を交えつつ、廊下を急いでいれば、通信室からブレダがひょっこりと顔を出した。
「ちょうど良かった。大佐、奴さんがた、気付いたかもしれませんぜ」
「こちらの状況は」
「道路封鎖、近隣住民の誘導は完了してます。一帯には軍関係者しかいません」
「間に合ったならいい。連中は立て籠もる気か?」
「様子見てるようですね。が、車から出て中に入ってる奴のが多いです。逃げ込むつもりかもしれませんね」
「…いっそ逃げ込んで立て籠もってくれた方が、こちらの手間が省けるんだが」
バラバラに市街地に逃げ込まれると、後々色んな意味で面倒くさいし。
日常茶飯事になってしまっている側からすればこの程度の軽口もいつものことだが、言ってること自体は面倒、ですまされる事ではない。だがこの場にいる面々は誰も気にした風もなく。
「まー、市街地でドンパチやるより良いですけど」
「お前は待機するのが面倒なだけだろう」
「では、地下道にも手を回しますか?」
イーストシティの地下水道は古く、複雑な迷路同然の場所だ。街のいたるところに繋がっていて、こういった連中の格好の逃走経路になっていたりする。
実際それで1度大きな獲物に逃げられたこともある。
「ブレダ」
「いつでもいけますよ。さっきのアレで一式準備は整ってるもんで」
「無駄な訓練も多少は役に立ったな」
「ま、あとは多少の言い訳でもあればいいんじゃないですか?一応訓練の体裁は取れましたし」
「大佐、とりあえずお急ぎください」
「・・・さて、問題の感想はどうだ?」
問うてくる上司は何やら上機嫌のようだ。
・・・確かに、結構長い間、好き勝手やってくださっていた強盗団はうまいこと片付けられそうだし、妙な賭けの対象にされていた訓練は有耶無耶に出来るようだし。
ついでに気に入りの兄弟は帰ってきたし、かな。
ハボックはそこのところはとりあえず置いておいて、うーん、としばらく考える素振りを見せた。
「昔の前線基地だけあって、正面からも裏からも攻めにくいと思いますよ。死角になるものも木くらいしかないし。でも錬金術師の得意技やられると正直ちょっと面倒ですかね」
壁ぬけだのトンネルだの。
「ああ、その辺はもう考えても仕方ない」
錬金術師が行こうと思えば、何処でも行けるのと同じようなものだからな。
「…その辺は適当にでっち上げるか。中止したとはいえ、多少形を整えて報告をしなければ煩いからな」
「ようは大佐や大将クラスの錬金術師なんて来ちまったらどーしようもないってのが判っただけですよ。命のが大事なんで、オレならまず迷わず逃げますね」
「軍人の風上にも置けんヤツだな」
「上司の教育の賜物で」
「2人とも、無駄口はそのくらいでお願いします」
玄関を抜け、階下の道路には既に車が回されている。
本部の警備に充てられていた者が一斉に敬礼をとった。
「・・・取りあえず、もう一度やんのは面倒なんで、あわよくば有耶無耶にしちまってください」
運転席に乗り込みながらハボックが軽口を叩けば、
「一般業務も停滞するばかりですし」
とホークアイもさらりと続ける。
運転席と助手席に乗り込んだ部下たちに向けて、彼はバックミラー越しに不敵な笑みを浮かべてみせた。
「判ってる。こんなくだらん茶番はこれきりだ。――――東方司令部も私自身の評も、こんなくだらない事で落とすつもりはない」
「・・・とか何とか言って結構楽しんでたでしょ、大佐」
「何のことやらさっぱりだな」
ちなみにこの後、鋼の錬金術師の介入で、意気揚々とイーストシティに乗り込んできた強盗団の一団はさっくりと壊滅させられたという。
喧噪と暗躍と惰性の毎日にも、なべて世は事もなし。
FIN
作品名:Fool on the Planet 作家名:みとなんこ@紺