Fool on the Planet
「標的、動きました!」
扉越しにフュリーが叫ぶ声が聞こえる。
途端、それを待っていたかのように司令室に残っていた軍人達が慌ただしく動き出す。
「待機中の部隊に移動の指令を。標的には気取られないように少人数で」
「郊外への通りを閉鎖、完了しました!」
事前の打ち合わせはすべて終えているのか、それぞれの動きに淀みはない。
「今日襲われるって判ってたんですか?」
「大規模な訓練で街中が手薄になる、と事前に情報を流した。狙われるだろう銀行の方も手は回している」
後は奴らが本格的に暴れる前に、アタマを押さえ込むだけなので今回は楽なものだと思うんだが。
「着いた早々すまないね。今度はこういうことがないように、出来れば事前に連絡をくれると嬉しい」
「ほんとすいません…」
兄がいい顔をしないなら、こっそり内緒でも構わないから。
ポンポン、と恐縮する子供をなだめるために随分と高いところにあるアルフォンスの頭を撫でると、大人は一つ笑った。
「すぐ済むだろうから、アルフォンス君はここにいてくれたまえ」
「うっわ、やっぱこっちにいたんですか、大佐」
既に情報は本部中に伝わっているのか、無造作に狙撃用のライフルを担いだ少尉が廊下から顔を出した。
「遅かったな、ハボック」
「これだけ暴れてて肝心の大佐が見物に来ないのは絶対おかしいって、大将が言うもんですから。それより車出しますけど、どうします?」
「行くに決まってる。鋼のは?」
ハボックは何か思い出したのか、微妙に口元を歪ませた。
「思ったより冷静ですが、かなりご立腹です」
「だろうな」
短く返事を返して背後を振り返る。副官他、司令部に残す面々も各自持ち場に着いているのを確認して、最後に彼はアルフォンスを振り返った。
「そういう事だから、鋼ののことは頼んだよ」
「は、はい!お気を付けて!」
思わず反射で手を額まで上げて、見よう見真似の敬礼をする子供に、僅かに目を瞠った後、それぞれ柔らかい笑みを浮かべた。
「ありがとう」
模範のような敬礼を返して、足早に司令室を後にする3人を見送って、アルフォンスはそっと手をおろす…前に、ポン、と撫でられた辺りに触れる。
うつっていたかもしれない熱は、わからなかった。
「・・・あ、兄さん探さなきゃ」
廊下を足早に歩きながら、小声で会話を交わす。
「大将、とんだとばっちりでしたね。後が厄介なんじゃないですか」
「既に餌は弟に預けてきたんだが。無駄かもしれんな・・・念のため現場の者に伝えておけ」
「何ですか?」
「『鋼の錬金術師が現場に現れたら、行動に異を唱えず、即時退却と本部へ迅速な報告を』」
「え、放っておくんですか?」
「八つ当たりで色々壊されたらかなわん。巻き添えにされたら気の毒だろうが」
・・・この人は、さっきオレたちを錬金術で吹っ飛ばした事を憶えているのだろーか。
何となく、問うても詮無い事のような気がしないでもないが、ハボックは内心盛大に息を付いた。
「大将が暴れたら暴れたで早く片付きそうな気もしますが」
「なら鋼のの始末書はお前が書くか?」
「No,sir.自分の手には余ります」
この上司はあの小型ながら強力な台風、もとい豆っこの暴れっぷり、というか何かに気付いた時のあの顔見てないからそんな気楽な事言うんだろうけど。
結構気合入ってて、見てしまった連中はかなりおののいてたんだけどなぁ・・・って。
そんな状態でもこのヒトの場合は喜ぶだけか。
・・・・・・。
むしろ吠えられるのを期待してやってるっぽい気がする。
「…大佐の可愛がり方って基本迷惑ですよね」
「何か言ったか?」
「いえ、何でも」
珍しく本当に聞こえていなかったらしい。それとも反論するつもりがないのか(それはそれで嫌だ。自覚ありなんて性格悪すぎる)微妙なところだったが、不問にふしてもらえたらしかった。
作品名:Fool on the Planet 作家名:みとなんこ@紺